人生初の一目惚れ
宗一郎は初めて一目惚れした。
通勤の電車。眠気を喉の奥に押し込めながら席に座っている時である。
目の前の席に座った女性が目に入った。自分と同じ大学生だろうか。
座っているだけなのだが周りと違って見えた。
背丈は自分より2回り低いだろうか?そう思うほど小柄である。
しかし姿勢の良さから実際より大きく見える。
メイクは派手でなく薄いもので抑えている。
目立ちにくい淡い色のものを使っているのだろ。元の顔立ちが整っているのが分かる。
そして後ろに纏められてポニーテールにされた黒髪。
毛先は纏まっており毎日のケアを欠かしていないのが伝わってくる。
揺れる車内でも崩さない姿勢。朝日に照らされてまるで幻想的であった。
視線を奪われた。住む世界が違っているような感覚に陥る。このような経験は人生で初めてだった。
宗一郎は躊躇する。ここで話しかけたらどう思うだろう。知らない男に絡まれたら困るだろう。
「あの…」と声がした。「どうかされましたか?」
彼女が心配そうにこちらを見ていた。挙動不審な動きしていたので気になったのだろう。
まさか向こうから話しかけられるとは想定していなかった。宗一郎は頭が真っ白になる。
誤魔化すか?このまま自然に会話するか?でも何を話せばいい。分からない、何も知らない。
共通点なんてあるのか?でも話さないとここで終わりだ。
きっと最後のチャンス。だったら一か八に賭けるしかない。覚悟を決めるしか。
「今日は」精一杯振り絞って声に出した「いいお天気ですね」