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123.宝造師ラランダ

「それで、お前がここに来たってことはやはり『退魔の宝玉』か?」


 ドワーフの里『ドラワンダ』の族長の家。年老いて真っ白な髭を生やしたダラスがゲインに尋ねる。


「ああ、その通りだ」


 ダラスは白い髭を手で撫でながら尋ねる。


「魔王を倒すのか?」


「そのつもりだ」


 ゲインの真剣な目を見つめるダラス。その強い意志に偽りはない。ダラスが尋ねる。



「前持っておったのはどうしたんだ?」


 勇者スティングの時にマーガレットが使った宝玉のこと。ゲインが答える。


「あれはマーガレットが自分の魔法回復の為にウォーターフォールの『願い龍』に捧げちまったんだ」


「ああ、そう言うことか……」


 あの勇者パーティがなぜ今更『退魔の宝玉』を求めるのか。マーガレットは一切その理由を話さなかったが、ここでようやくすべてを理解した。ダラスが言う。



「それではラランダとはお前が戦うのか?」


「そのつもりだ」


 そう話すふたりにリーファが尋ねる。



「なあ、そのラランダと言う奴の名前が何度か出てきているんだが、なぜそいつと戦わなければならんのだ?」


 ゲインが苦笑してそれに答える。


「岩山から採って来た宝玉の原石は、加工して初めて強力な力を発揮する。その加工ができるやつのことを宝造師ほうぞうしと言うんだが、これができるのがラランダって言う女ドワーフだけなんだ。そうだよな? ダラス」


 ダラスが皺くちゃな顔に更に皺を寄せて言う。


「その通り。里でもたったひとりしかおらぬ宝造師。悪用されることを危惧して宝玉の製造法は一子相伝。今その重責を担っているのがラランダである」


 マルシェが尋ねる。


「それでどうしてそのラランダさんと戦わなきゃならないんですか?」


「うむ。それはな、本当に魔王と戦える強い奴にだけ宝造師は宝玉を作る。それが唯一のルール。ラランダは自分より弱い奴には興味がない。ちなみに彼女は里で三本指に入るほどの強者。年取ったゲインで勝てるかの?」


 そう笑うダラスにゲインが言う。


「るせぇ。俺りゃまだ若い」


「まあ我等から見れば赤子のようなものだな」


「爺さん、一体幾つだよ」


「忘れたわ」


 その言葉にゲイン達が苦笑する。



「それでラランダに勝ったら登るのか、岩山に?」


 そう尋ねるダラスにゲインが答える。


「里にねえのか? ちょうどいい原石は?」


「ない。宝玉を作れる原石など超貴重だとお前も知っているだろ」


「まあな……」


 杖の先に付けるだけの拳サイズの原石。たったこれだけでもレアがつく程貴重なアイテム。やはり岩山を登って入手しなければならない。ゲインが尋ねる。



「最近魔王軍は来てるのか?」


「いいや。ここ最近はない。ただ王都より嫌な知らせが来ておる」


「王都? ルージュか?」


「そうだ」


 ダラスは真剣な顔で言う。



「レーガルトのある街が魔王サーフェルと魔族二体によって一瞬で滅ぼされたらしい。ここ最近の魔族の活性化と魔王の復活は、ちと笑い話にならんレベルになって来たわ」


「街が一瞬で? 魔王サーフェルが?」


 ゲインも何度か対戦したことがある敵。確かに強い相手ではあるが、街を一瞬で消せるほどの強さはなかったはず。ゲインが尋ねる。


「本当にサーフェルなのか? 何度か戦ったことはあるがそれほどの強さじゃなかったぞ」


「そうか。既に戦っていたか。どういうことかは知らんが王都からの報告だ。ここも十分注意せよとのことだ」


 ゲインも黙ってそれに頷く。リーファが言う。



「それならやはり早く『退魔の宝玉』を手に入れた方が良いな」


「そうだな。じゃあすぐにでもラランダの所に行きたいと思うんだが、その前に」


「マーガレット様ですね」


 マルシェの言葉に頷くゲイン。ダラスが言う。



「マーガレットなら里の魔法修練場におる。毎日飽きずに魔法を撃ってるぞ。何度やってもラランダに勝てぬのだからな」


「そうか……」


 マーガレットも同じく宝玉を求める身。だが仮に原石を取って来たとしても宝造師に認められなければ意味がない。ゲインが立ち上がって言う。


「じゃあ、行くか。マーガレットのところに」


「うむ」


 リーファも立ち上がってそれに同意する。ダラスが言う。



「ゲイン、今日はここに泊まっていけ。部屋は用意させる。自由に使っていいからな」


「それは有り難い。後でまた来るよ」


 ゲイン達はダラスに礼を言い、魔法修練場に居るというマーガレットの元へと向かった。






「ねえ、ゲインさんはマーガレット様とも知り合いなんですか?」


 魔法修練場に向かい歩くゲインにマルシェが尋ねた。ゲインが答える。


「あ、ええっと、まあそうだな。ルージュに会った時にちょっと知り合って……」


「ちょっと知り合ったぐらいで『お仕置き』とか随分人を舐めているな。相手は仮にも勇者パーティの大魔法使いだぞ」


 リーファがやや不満そうにゲインに言う。彼女の言うことも尤もである。世界を救ったメンバーのひとりに、ちょっと知り合った奴が『お仕置き』などと考える方が勘違い甚だしい。ゲインが言う。



「いや、そのなんだ。あいつとはちょっと特別で……、まあ仲が良いというか……」


 基本アドリブの利かないゲイン。更に誤解させるようなことを無意識に口にする。シンフォニアが驚いて言う。


「ひいぇ~!? ゲインしゃん、マーガレット様と()()な関係なんでしゅ~!? ふぎゅーーっ!!」


「いや、違う!! そう言う意味じゃ……」


 焦りながら否定するゲイン。もうどう言おうが皆の視線が冷たく突き刺さる。ゲインがある建物を指差して言う。



「あ、おい、着いたぞ。あれじゃねえか?」


 その先には大きな平屋の岩の建物がある。その奥には腰ほどの壁で囲まれた広場。魔力の放出を感じるので間違いない。




「今日こそは負けませんですわ!!!!」


 その広場から甲高い女の声が聞こえて来る。



(あ、マーガレットか!?)


 その慣れ親しんだ声。ゲインが急ぎ広場へ駆けて行くと、そこにふたりの女が向き合い睨み合っていた。



(マーガレット!!!)


 ウェーブの掛かった紫髪のスレンダーな美女。昔はまだ子供っぽい所があった彼女も、この十年ですっかり大人っぽくなっている。手には魔法の杖。ただいつも一緒に居た魔子は見当たらない。向き合った女が言う。


「いい加減諦めな。あんたじゃあたいには敵わないんだよ」


 そうマーガレットに言うのはドワーフ族の女。ゲインと同じぐらいの巨躯で、黒髪を後ろでひとつに縛り腕を組んで仁王立ちしている。見てすぐ分かるしなやかな筋肉。美しい顔立ちではあるがかなりの強者だ。

 マーガレットが杖を前に出し、大きな声で言う。



「それでもわたくしにはあなたを倒さなければならない理由がありましてよ!! 勝つまで戦う。それが大魔法使いの矜持ですわ!!」


 そう言いながらポケットに入れてあった何かの薬をこっそりと口に運ぶ。


(ふっ、あれ、胃薬だろ。全然変わんねえな)


 極度の緊張体質ですぐお腹を壊すマーガレット。その変わらない彼女を見てゲインが少し笑う。マーガレットの後方で彼女を応援するドワーフ族の仲間が大声で言う。



「頑張って下さーい、マーガレットさん!!」

「今日こそ勝ってね!!!」


 マーガレットはそれに背を向けたまま片手を上げて応える。応援を受け、もう一方の手は再び胃薬をまさぐる。リーファがゲインに尋ねる。



「あれが、マーガレット様なのか?」


「ああ、そうだ」


 ふたりの視線は紫髪の女性へと注がれる。シンフォニアも尋ねる。



「それじゃあ、戦っているのはもしかしてぇ~??」


「ラランダだ」


 宝造師にして里屈指の戦士ラランダ。彼女を倒さなければ宝玉は磨いて貰えず、マーガレットとしても是が非でも越えなければならない大きな壁である。

 ちなみに十年前は里を襲った魔王軍をスティングらと一緒に撃退して、そのお礼に魔王討伐の意味も込めて宝玉を貰っている。つまりラランダとは誰も戦ったことはない。マーガレットが叫ぶ。



「いざ、勝負ですわ!!! ……主、女神アマテラスの名の下にその邪を滅せよ。光彩ライト!!!」


 光魔法。『退魔の宝玉』を使う上で必須となる光の法式。マーガレットが得意としていた魔法だ。


「……やはりこの程度か」


 それを見たラランダが小さくつぶやく。



「ふん!!!」


「!!」


 ラランダが片手を前に突き出し、放たれた光の攻撃を握りつぶす様に強引に消し去った。それは想定内のこと。マーガレットが横に駆けながら叫ぶ。



「……主、女神アマテラスの名の下にその邪を滅せよ。光彩ライト光彩ライト光彩ライトっ!!!」


 光魔法の連射。初級魔法使いなら驚くような攻撃ではあるが、ラランダ、そしてゲインの目には悲しくなるほど()()な魔法であった。



「ふん、ふんふん!!!!」


 ラランダはそれを全て拳で叩き落とす。ゲインでなくとも、その場にいるほとんどの者が勝負は決していると思えた。だがマーガレットの目は諦めない。


「わたくしは、わたくしは絶対に……」


「もう止めろ。マーガレット」


 ラランダが寂しそうな表情で言う。一体これで何度目の挑戦だろう。昔里を救ってくれた尊敬すべき相手。その彼女の落ちぶれた姿はラランダにとって見るに堪えがたいものであった。ラランダが言う。



「あんたのそんな姿は見たくねえんだよ!! あんたはあの誇り高き勇者スティングパーティのひとり。それが、それがよ……」


「だから負けられないのですわ!!!!」


 今日一番大きな声。魔法の杖を前に突き出しマーガレットが叫ぶ。


「魔法はわたくしにとって命。その魔法を取り戻すために、あなたには負けて貰わなければなりませんの!!!」


 ラランダが右手を前に叫び返す。



「もういい!! これで終いだ!!!」


(おいおい、それって……)


「……あるじ、女神ウェスタの名の下にかの敵を焼き尽くせ。火炎ファイヤ!!!!」


 ラランダの右手から発せられる真っ赤な業火。脳筋と思いきや魔法まで使えることにゲインが驚く。


(しかもかなりの火力じゃねえか)


 そしてその威力は皮肉なことに先のマーガレットをも凌ぐ。マーガレットに迫る業火。彼女は杖を前に防御姿勢を取る。



 ドオオオオン!!!!


「きゃああああ!!!」


 直撃。業火を身に受けたマーガレットが後方へ倒れる。ラランダが叫ぶ。



「さあ、降参しろ!! お前じゃ勝てねえんだよ!!!」


 よろよろと立ち上がったマーガレットが答える。


「いや、ですわ……、わたくしは絶対にもう負けませんわ……」


 それにラランダが再び手を差し出して言う。



「じゃあ、これで諦めさせてやる!! ……あるじ、女神ウェスタの名の下にかの敵を焼き尽くせ。火炎ファイヤ!!!!」


 再び放たれた業火の魔法。先程より更に火力が上がっている。



(ダメ、勝てない……、やっぱりわたくしには勝てないのかしら……)


 立ち上がったマーガレットが脱力する。やはり勝てなかった。迫りくる強火力の魔法を見て涙が溢れる。



 ドオオオオオオン!!!!


(え?)


 そんなマーガレットの前に黒い影が現れ、その魔法を叩き落とした。



(ゲイン!?)


 マーガレットの脳裏に昔一緒に戦ったゲインの影が重なる。それほどその人物はゲインそっくりで頼もしかった。



「あ~あ、癖で体が動いちまったぜ……」


 そうつぶやく声を聞いてマーガレットが言う。


「ゲ、ゲイン!? あ、いえ、違いますわ。ゴリラですの??」


 目の前に現れたひとりのゴリ族の男。

 ゴリラなのだが彼がゲインと重なって見えてしまう自分に、マーガレットは戸惑い混乱した。

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