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122.大魔法使いがついに!!

「え、あいつ族長様のお知り合いなのか……!?」

「族長、そのゴリラは一体……」


 ドワーフ族の族長ダラス。長年ドラワンダを守り続けて来た最高責任者。その彼がいきなりやって来たゴリラと固く握手をしている。ダラスが言う。



「ん? なんだお前ら、気付かないのか? ゴリラのような格好をしているが、こいつは勇者パーティの……」


「あーーーっ!! 大丈夫大丈夫!!! な、久しぶりに飲もうぜ!!」


 そう言ってゲインは急に大きな声を出しダラスと肩を組み、そして耳元で()()で言う。


「すまん。事情は後で話す……」


 その言葉で察したのかダラスも黙って頷いて答えた。リーファが近付いて尋ねる。



「おい、ゲイン。一体何が起こってるんだ? その爺さんは誰なんだ?」


 族長を『爺さん』呼ばわりされた従者のドワーフが顔を赤くして言う。


「おい、女!! この方は我等の族長なるぞ!! 無礼者が!!」


 マルシェが驚いて言う。


「ええ!? 族長さんってことはこの里で一番偉い人ですよね!!??」


「まあ、そういうことになるな」


 さらっと答えるゲインにシンフォニアがびっくりして尋ねる。



「ど、どうしてゲインしゃんはぁ、族長さんとお知り合いなんですかぁ~!? ふにゅぅ~」


 族長ダラスはそれを興味深そうに眺めて聞く。ゲインが焦りながら答える。


「あ、いや、その、なんだ……、昔ここにやって来て、そう!! ルージュの知り合いって言ったら歓迎されてな。この爺さんと意気投合して酒を飲んで……」


 ダラスはあのゲインが焦りながらそう答えるのを見て思わず声を上げて笑い出す。



「わはははははっ!! なんだゲイン、その狼狽え方は!! まあいい。さあ、中に入れ。歓迎するぞ」


「あ、ああ。悪いな」


 そう言ってドワーフの要塞へと入って行くダラス。ゲインが言う。



「さ、許可が出た。中に入るぞ」


「あ、ああ……」


 やや戸惑いながらリーファ達もその後に続く。





(すごい、本当に要塞みたいだ……)


 岩壁にある鉄の門を潜ったマルシェはその重厚な造りに舌を巻いた。

 分厚い岩壁を抜けると、すぐに大きな別の岩壁が出現。屈強なドワーフの警備兵が巡回する中更に岩壁のドアを抜けると、驚くべきことにまた堅固な岩壁が現れる。



(三重になってるんだ)


 それ程徹底した守りの要塞。いかにこれまでの魔王軍の襲撃が大変だったのかが分かる。マルシェがゲインに尋ねる。


「ねえ、ゲインさん。上からの侵入はどうしてるんですか?」


 マルシェが青空が広がる空を指差して尋ねる。いかに地上からの進行を食い止められたとしても、飛行型の魔物や浮遊魔法で空から攻められてきたらひとたまりもない。ゲインが上を見て答える。


「ああ。上空には防御結界が張られている。かなり強力なものでな。外からは入れねえが、内からは攻撃が可能なんだ」


「なるほど」


 外からの結界に手こずっている間に、内側から魔法や弓などで対処する。かなり強力な結界。だが常にそんな結界を張り続けるとなると上位の魔法使いが大量に必要になる。


「結界はどうやって張っているんですか?」


「それな。人じゃあ常にこれだけの広さを張っているのには無理があるから、人工的に張っているんだ」


「人工的?」


 意外な回答にマルシェが首を傾げる。


「ああ。ここで採れる『退魔の宝玉』の原石、小さな欠片を動力としてそれを防御結界に利用している。ドワーフの技術、すげえんだぜ!」


「へえ……」


 マルシェが口を開けて感心する。それを聞いていたリーファが尋ねる。



「なんだ、そんな簡単に原石が手に入るのか? 宝玉入手も楽そうだな」


「あはははっ。まあ、そう簡単にはいかねえんだよ」


「そうなんでしゅかぁ~?? ふにゅぅ~……」


 やはり話を聞いていたシンフォニアが残念そうな顔をする。そんな一行の前に、初めて見るドワーフの里『ドラワンダ』の里が広がる。



「うわぁ、これは本当に独特ですね~!!」


 三重の分厚い岩壁を抜けた先には、周囲の岩をふんだんに使った里の風景が広がっていた。

 家や建物のほぼ全てが丁寧に砕かれた豊富な岩で作られている。多少木材も使われているが、岩一色の建物は見るからに強固で頑丈そうだ。道路ももちろん岩で整備されており、そこを多くのドワーフ達が歩いている。シンフォニアが言う。


「本当に岩とドワーフさん達がいっぱいですぅ~!!」


 基本背が低くがっちりとした体格のドワーフ族。肩を組んで歩く者や、食堂の軒先で酒を飲む者、耳をすませばカーンカーンと言った何かを叩く音が響いている。マルシェがあることに気付いて言う。



「あの岩山って登れるんですか?」


 里にも幾つかある円錐形の岩山。見上げれば首が痛くなるほどの高さなのだが、その岩山には周囲を回るように階段が設けられている。歩きながらゲインが答える。


「登れる。宝玉の原石はあの岩山の山頂付近まで行かねえと採れねえんだ。隆起したその時代の地層なんだろうな。麓じゃ取れねえからすげえ貴重なんだ」


「そうなんですか」


 そう言ってマルシェが再び頂が雲に隠れて見えない岩山を見上げる。ゲインが言う。


「だけど時々原石の小さな欠片が落ちてくることがあってな、それをここじゃあ『天の恵み』って言って大事にしている」


「え? だったらそれで宝玉を……」


 ゲインが首を振って答える。


「ほとんどがここに落ちてくる間に砕けて粉々になっちまうんだ。そんな小さな物じゃ宝玉は作れねえ。まあアクセサリーとか、まとめてさっき言った防御結界の動力として使われている」


「だったらどんどん山に登って採って来ればいいじゃないか」


 リーファの言葉にゲインが答える。


「それが出来たら苦労しねえ。そもそも地を愛するドワーフ族は高い場所が苦手だ。さらに岩山の上空には大型のワイバーンが生息している」


「ワイバーン、ですか……」


 マルシェの顔が真剣になる。以前マーゼルで籠に入れて攫われた際に使われた飛行型の魔物。戦闘はなかったがとても凶暴で恐ろしい魔物だ。



(ゲインさんは本当に何でも知っているんだなぁ。知りたいな、昔どんな冒険者だったのかを……)


 マルシェは一緒に歩くゲインを横目で見ながらふとそんなことを思った。






「さあ、入ってくれ。遠慮せんでいいぞ」


 族長ダラスに連れられて来たのは里の中心にある大きな岩の建物。二階建てでここだけ周囲に壁があり、斧を持った警備の兵も配置されている。ダラスは腰が曲がり杖を突いて歩いているが、その足取りはしっかりとしておりまだ()()としても十分戦えるほどの貫禄がある。歩きながらダラスがゲインに話し掛ける。



「ゲイン、昔のことは話さん方がええのか?」


 ゲインが小声で答える。


「そうして貰えると助かる」


「あと、その格好は何だ?」


 ダラスがゴリラになったゲインを見て言う。


「まあ、多分魔王の呪い。スティングは死んじまったし、ルージュも歳を取らなくなった。マーガレットは……」



「ああ、あいつはここに来てずっと魔法の修行をしておるぞ」


「!!」


 ゲインが立ち止まり驚いた顔をする。


「ダラス、やっぱりマーガレットはここに来たんか?」


 新たな『退魔の宝玉』を求めて旅立ったマーガレット。だとすればこの里に来るとは思っていたがやはりそうだったのか。ゲインの問い掛けにダラスが答える。


「ああ、来とるぞ。魔力が弱まったとかでずっとこの里で魔法の訓練をしとる」


「おいおい、じゃあ、マーガレットは今この里に居るのか?」


「居る」


 それを聞いたゲインが小さくガッツポーズと取る。王都レーガルトからずっと探していた元戦友マーガレット。勝手なことをしてぶん殴ってやろうかと思っていたが、ようやく見るけることができた。ゲインはウォーターフォールやマーガレットのことについてダラスに話をした。


「なるほど。それでか」


 頑なに宝玉を求める理由を話さなかったマーガレット。ダラスはゲインの説明を聞いてようやく合点が行ったらしい。ゲインが尋ねる。



「魔法の訓練ってことは、やっぱりラランダには勝てねえってことだな?」


 ダラスが頷いて言う。


「そうだ。今のマーガレット程度の魔法使いなど腐るほどいる。ラランダに勝つどころか、岩山にも登れん。魔王の呪いとは言え元大魔法使いのあいつにとっては酷な話よのう……」


 気の毒そうにダラスが言う。


「マーガレットはここに来て長いのか?」


「いや、来たばかりだ」



「いつ?」


「さて? 数年ぐらい前かのお……」


「随分経つじゃねえか」


 エルフほどではないがドワーフ族も人間に比べれば長寿命。数百年は普通に生きる。ゲインが言う。



「まあ、とりあえず一旦みんなとも話をしてみようか」


「そうだな。お前の新しい仲間にも興味があるでな」


 そう言って後ろからついて来るリーファ達をちらりと見て笑う。


「ああ、頼もしい仲間だぜ」


 ゲインもそれに笑顔で応えた。





「ええっと、そう言う訳で昔ここに来た際に世話になった族長のダラスだ」


 族長の屋敷にある応接間。岩で作られた机と椅子に腰かけた皆にゲインが紹介する。机の上には酒。水のように酒を飲むドワーフには当然のもてなし。リーファが立ち上がって頭を下げて言う。


「魔法勇者のリーファだ。よろしく、族長ダラス」


「そ、僧侶のシンフォニアですぅ~!! 宜しくなのですぅ~、ふにゃ~」


「タンクのマルシェです。よろしくお願いします」


 ダラスがリーファに言う。



「それは魔子か? 相当な魔力だな」


「そうだ。凄いだろ」


 相手が族長であろうと全く臆さないリーファ。今度はシンフォニアに尋ねる。


「その花は僧侶の悲哀花(プリーストフラワー)か? 無色透明ってことはまさかダイアモンドフラワー?? 大したものだ」


「は、はひ~!! ごめんなさいですぅ~……」


 なぜか謝るシンフォニア。最後にマルシェに尋ねる。



「鎧の、お前も相当なポテンシャルを持っているな。前衛だったゲインがタンクを取るって事自体驚きだぞ」


「あ、はい!! ありがとうございます!!」


 マルシェはそう答えながら目の前の老ドワーフがどうしてそこまで分かるのかと内心驚いた。ゲインが皆に言う。



「さて、色々話をしなきゃいけねえが、その前に伝えなきゃいけないことがある」


 皆が黙ってゲインの顔を見つめる。


「俺達がずーっと探していたマーガレットがここにいるそうだ」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だ」


 マルシェはガッツポーズを作り、シンフォニアは目を潤ませ、魔法使いとして尊敬するリーファも目を閉じ安堵した表情となる。ゲインが言う。



「後でしっかりお仕置きをしなきゃな」


 そう言うゲインもやはりどこか嬉しそうであった。

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