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ゴリラブレイク 〜隠居ゴリラは勇者を夢見る〜  作者: サイトウ純蒼
第七章「百花繚乱シンフォニア」
100/140

100.グール討伐隊、出陣!!

「私の作戦を申し上げます」


 里の郊外にある誰も立ち寄らない洞窟。蝋燭ろうそくの明かりだけがゆらゆらと瞬く薄暗い洞窟内で、上級神父ファンケルは熟考に熟考を重ねた作戦を目の前の魔物に説明し始めた。二体の魔物、死霊レイスとグールマスターが黙って聞く。



「まず里の戦力を二分します。主力部隊にあの忌々しいゴリラと魔法使いを組み入れ、そして『ある場所』に向かって進軍させます」


「ある場所? それはどこだ」


 レイスの問いかけにファンケルが答える。


「はい。里から離れた場所に古く朽ちた旧領主城跡があります。昼間でも薄暗い城内。そこヘ彼らを向かわせ、予め待機していたレイス様率いる死霊軍に殲滅して貰います」


「ああ、あの建物か。なるほど、我々にとって都合がいい場所だ」


 ファンケルが言う。


「ええ、そうです。それにあのゴリラは確かに強いですが、魔法が使えないのでほぼ間違いなくレイス様の前に無抵抗で討ち取られるでしょう。他の神父達でも死霊の何体かは浄化されますが、レイス様に敵う奴などおりません。奴らも問題なく殲滅できるかと」


「魔法使いは? あの少女もかなり危険な存在。あの肩の鳥は恐らく魔子……」


 レイスは一度矛をまみえたリーファの力を十分理解していた。ファンケルが言う。


「そうですね。あの少女は想像以上の魔法を使います。だけどご安心を()()にさせる方法をすでに用意しております」


 そう自信満々に光るファンケルの目を見てレイスは黙る。グールマスターが尋ねる。



「オレは何をすればイイ??」


 ファンケルがそのくすんだ緑褐色の大きな魔物を見上げて答える。


「マスター殿はグール達を率いて里の襲撃をお願いします」


「サトの襲撃……」


 グールマスターが小さくその言葉を繰り返す。


「ええ。主力のいなくなった里を襲うことは容易いこと。私も里に居ますのでご安心を」


「ワカッタ」


 頷くグールマスターを見ながらファンケルが言う。



「だけど今回の目的はゴリラと魔法使いの抹殺。里の住民への危害は最小限でお願いします。その代わり討伐隊は蹂躙して貰って結構です。狩り放題ですね」


 自分が可愛がっている女や贔屓にしている人物は里の防衛に残す。逆に気に入らない奴や自分より能力のある人間を討伐隊として戦地へ送り込む。ファンケルの算段は完璧であった。レイスが答える。



「分かった。我々も里の人間が滅んでしまっては困るからな。この後もより長く聖者達の美味たる御霊みたまを頂きたい」


 レイスが魂を、そして遺体はグールが食す。ファンケルが笑顔で言う。


「では手筈通りにお願いします。私はこれで」


 そう言って立ち去る神父の背中を見ながらレイスが言う。



「愚かな人間よ。己の欲望のみに生きる輩。まあ、それも我らの一興か」


 グールマスターは黙ってそれを聞いた。






 討伐隊出陣の朝。

 里の広場に集まった皆を前に、上級神父ファンケルが大声で叫ぶ。


「今日、我々は人間の偉大さをかの下賤な魔物共に知らしめ、完璧、甘美な勝利を手にする!! 『僧侶の里フォルティン』に牙を剥いたこと、今奴らに後悔させん!! 我等に勝利をっ!!!」


「我らに勝利を!!!」


 選ばれた精鋭達が片手を上げてそれに応える。里からは上級神父に手練れの修道士モンクや僧侶。冒険者からは戦士や魔法使いなど攻撃重視のメンバーが選出されている。

 マルシェの隣に立つゲインにひとりの冒険者が声を掛ける。



「よろしく頼むぜ、ゴリさん」


 それは先日、ゲインの冒険者間ので活躍を教えてくれた男。彼も戦士として選ばれ一緒に出陣する。ゲインが苦笑して答える。


「ああ、まあ適当に頑張ろうや」


「『ゴリラブレイク』として名高いあんたの活躍を間近で見られるとは楽しみだぜ」


「そんなんじゃねえよ……」


 マルシェは緊張しているのか先程から何度も深呼吸をしている。ファンケルが大声で叫ぶ。



「それでは出陣っ!! フォルティンに栄光あれ!!!!」


「おおーーーーーーっ!!!!」


 その号令と共に討伐隊が案内役の上級神父の後に続いて歩き出す。




「ゲインしゃん!!」


 同じく歩き出そうとしたゲインとマルシェの元に、里に残るシンフォニアとリーファが駆け寄って来た。不安そうな顔をしたシンフォニアが言う。



「ゲインしゃん、絶対戻って来てくださいね……」


 今にも泣きそうな顔になっているシンフォニア。そんな彼女の頭を撫でながらゲインが言う。


「ああ、約束する」


 いつもと変わらぬ笑顔。それを見てシンフォニアが少しだけ安心する。リーファがマルシェに言う。


「お前も気を付けろよ。無理はするな」


「了解です!!」


 マルシェが敬礼のポーズを取りながらそれに答える。ゲインがリーファに小声で言う。



「里とシンフォニアのことは頼んだぞ。魔法勇者さんよ」


「ああ、任せておけ」


 リーファは何度も頷きつつ、昨晩ゲインとの会話を思い出す。




「罠? 今回の討伐が罠だって言うのか?」


 夕食後、外の散歩に誘われたリーファが顔を青くして言った。ゲインが真ん丸な月を見上げながら答える。


「まあな。直感にすぎねえが、そんな匂いがプンプンする」


「どんな匂いだ?」


「ドロドロした腐敗臭だよ」


「……そうか」


 リーファが腕を組んで考えこむ。ゲインが言う。



「だからお前をここに残した。パーティの攻撃の柱であるお前と俺がふたりとも居なくなるのは良くねえ。だからお前には何があっても里とシンフォニアを守って欲しい」


「無論。私がいれば何の問題もない」


 そう言って金色の髪を大人っぽくかき上げるリーファ。そして自分を見つめるゲインに尋ねる。



「なんだ? 何か心配でもあるのか」


 ゲインが少し笑いながら答える。


「いや。最初の頃はスライム倒すのに苦労していた奴が随分立派になったなあってな」


「そ、そんな昔の話されても困るぞ! 誰だって最初は弱いだろ? お前だって」


「ああ、そうだな。その通りだ」


 ゲインは少し昔を思い出しながらいつの間にか立派に成長した金髪の魔法勇者を横目で見つめた。






「じゃあな!」


「はい、ゲインしゃん、マルシェちゃん。気をつけて!!」


「ありがとうございます!!」


 討伐隊としてグールの拠点攻略に行くふたりをシンフォニアが心配そうな顔で見送る。大きな歓声を背に里を出た討伐隊はあっという間に見えなくなり、そして里にはいつもの静かな時間が戻って来た。リーファがシンフォニアに尋ねる。



「これからどうする、シンフォニア?」


 シンフォニアは赤くなった目を少し擦り答える。


「ええっとぉ、とりあえずお家に居ますぅ~。もう怪我人も全然いませんし~、ふにゃ~……」


 シンフォニアの献身的な治療の結果、里で怪我を負った人はほとんどいなくなった。さすがにこれまでにない重労働をして来たシンフォニアの顔には疲れの色が見える。


「そうだな。それがいい。ゆっくり休んでくれ」


「はい!」


 リーファは理解のある母親がいる実家ならきちんとした休養が取れるだろうと思った。



(罠か……)


 リーファは幼馴染みのマリエルと笑いながら歩くシンフォニアの後姿を見て小さく息を吐いた。






 ガタ、ガタガタガタガタ……


 里を出た討伐隊は用意された輸送用の馬車に分かれて乗り敵の拠点へ目指していた。事前の説明では一日以上掛かるとのこと。予想以上に遠い場所に皆黙って馬車に揺られる。ゲインの隣に座ったマルシェが外を見ながら言う。


「結構遠い場所なんですね」


「ああ、そうだな」


 この頃からゲインの『何となくの直感』から『確信』に変わりつつあった。だが罠と分かっていてもその先に悪意を持って牙を剥く奴がいるなら叩き潰す。ゲインは馬車に揺られながらも注意深く周りに気を遣う。



(みんな、静かだ……)


 マルシェが思う。

 さすがにこれから敵の本拠地を叩くので余裕のある者などいない。里の者に見送られた出発の時とは対照的に皆座ったまま黙り込む。静かな森の中を進む馬車の中にこれまでにない緊張感が生まれ始めていた。





「何だか寒いな……」


 馬車の対面に座った冒険者がぼそりとつぶやく。

 里を出て数十時間。既に日は落ち、真っ暗な森の中を馬車の音だけ立てながら走る。吹き付ける風は冷たく、皆がぶるぶると体を震わせる。ゲインが尋ねる。


「寒くないか、マルシェ?」


 隣に座るマルシェが眠そうな顔で答える。


「え、ああ、大丈夫です。ボクは鎧を着ていますので」


 タンクという職業にプライドを持つマルシェ。常に鎧を装備していることがこの冷たい風を防いでくれている。


「ゲインさんは大丈夫ですか?」


「ああ、俺も体毛が多いんでな」


「そ、そうですね……」


 ゴリ族ではないが同等の体毛を持つゲイン。寒さにはそこそこ耐久性があるようだ。





「着いたぞ!!」


 そんなふたりの耳に御者の大きな声が響く。皆がその先にある大きな廃墟となった居城を見つめる。


(なんて不気味な……)


 思わずマルシェが内心つぶやく。

 その建物はそれほどまでに古く廃れており、来た者を徹底的に拒んでいる様にも見える。


「あ、あそこに居るのか……」


 神父や冒険者達も思わず弱々しい声で言う。

 ゲインが馬車から降りてその古城を見上げて言った。



「さあ、行こうぜ。魔物退治」


 マルシェはその他の者は、いつどんな時でも変わらないそのゴリ族の男を見て少しだけ気が楽になった。

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