ミラージュ家の過去
宿、やすらぎ亭で剣の手入れをする、中央の宝玉に魔物の輝石を吸収させて、刀身を布で丁寧に拭いていた。
あ〜気持ちいいです、生き返りますよ、ロディ。
剣は手入れをしないと錆びる、ましてこの剣は輝石を補充しないと魔法が十分に発動しない、魔法大国の第2王女であっても、体内に魔法の源、魔素が無いと魔法は使えないのである。
ふ〜、気力、体力、魔素量満タンです、ありがとう、ロディ。
ロディは剣の手入れを終えて一息付いた。
一階の食堂に降りてきて、椅子に座りメニューを見て、注文していた。
さてと、まずは街に聞き込みだな、ミラージュ家のどんな些細な事でも情報が欲しい、ロディは宿の食堂で朝食を摂りながらこれからの行動を考えていた。
そうですね、確かにいきなり影の様に消えるのは不自然です、何か魔力的なものか、それに近い何かが関与しているのかも。
ま〜調べれば分かるだろう。ロディとルーティアは話しながら朝食のベーコンエッグタルトを口に入れていた。
しかし・・・バネットか・・・あの女には特に怪しい所、動きは無かった、態度や言葉使いも普通だし、特には・・・でも、最後のあの黒ずくめの男がロディは気になっていた。
まずは、どうします?いきなり本人に聞きますか?
馬鹿か・・・いきなり聞いて怪しまれるだろ、それに答えてくれる訳が無い!
まずは、星団図書館に行く!ミラージュ家程の大富豪なら、星団図書館の歴史書に名前があるはずだ!そこでミラージュ家の過去と今を調べる。
わかりました、ロディ、では星団図書館ですね。
ああ・・そういう事だな!ロディは最後のベーコンを口に入れ、葡萄酒で流し込むと席を立ち食堂を後にした。
さてと・・・ロディは宿屋を出て街外れの路地にいた、ここならゲート移動しても誰にも見付からないと判断したのである。
ゲートオープン!目的地、星団図書館。ロディは手首のゲートカマイザーを操作して、ゲートを開いた。
ゲートが開きルーティアが魔力を込める。
ゲートはゲートカマイザーだけでも開けるのだが
異空間、空間の歪みが発生するために、魔法により、ゲートを強化する必要がある。他のガーディアンなら魔力を持つガーディアンも多いため不要であるが、ロディは魔力が殆ど無いため、ゲート利用にはルーティアの力が必要なのだ。
よし!行くぞ、ロディとルーティアはゲートの中に入っていった。
数秒後、ロディは中央管理局のある惑星バルドに到着した、惑星バルドは星の大半を水で出来ていて、少しの大陸が中央にあるだけである、その少しの大陸が星団管理局がある土地なのである、人口は約30億人、殆どの人が星団管理局で働く人が、それに関係する人であった。
大陸の中央に星団管理局、右側に星団図書館、そして遥か奥に星団監獄があった、周りを囲うように高い城壁があり、城壁の周りに無数の家が存在していた。
ロディ達ガーディアンも、星団管理局の一員なのだが、ロディ達の所属するガーディアン本部は別の惑星にあった。
ロディはゲート移動を終えて、星団図書館の入口に立っていた。
星団図書館・・・そこはグランマートル大星団一番の智識の宝庫と呼ばれ、中に保管されている書籍類は数えきれないと言われ、数億冊〜数兆万冊とまで言われていた、大きな建物の入口上に、金色文字で「星団図書館」と書かれていた。
ロディは入口を開き、中に入っていった。
ひんやりと冷たい、冷房が効いているのだろうか、ロディは中央にある受付カウンターに向かって歩いていた。
「お客様、何か本をお探し・・・?あれ?あれあれ?ロディ、ロディではありませんか!」
「よう!久しぶりだな、ミューズ。」
ミューズと呼ばれた受付の女性、年は見た目20歳ぐらいで銀色の長髪と赤い瞳が特徴的なアンドロイドであった。
星団図書館はその膨大な書籍に対処するため、記憶維持能力の優れているアンドロイドを受付にしていた。
「ロディ・・・何年ぶりでしょうか、5年、6年ぶりでしょうか。」
「そんなになるか?ま〜確かに色々あったからな。」
ロディ、こちらの方は?
あ〜、ルーティアは初めてか、この星団図書館を管理しているミューズだ!アンドロイドだから。
ミューズ・・・アンドロイドさん、なら、安心ですね。
??ロディは何が安心なのか解らなかった。
「それで、今日はどのような本をお探しですか?」
「んとだな、惑星ルドラのルモントって街に、大富豪ミラージュ家があってそのミラージュ家の事を調べたいと思って来たんだ。」
「惑星ルドラ・・・ルモント・・・ミラージュ家・・・分かりました、検索します。」
ミューズは単語や細かな情報が有れば、それが載っている、書いてある書籍がどこにあるのか頭の中のデータで分かるのであった。
「あ・・・ありました、223番の棚の上から二つ目、ルモントの歴史とミラージュ家!」と言うタイトルの本が有ります。」
「また凄いタイトルだな。」ロディは、微笑んだ。
「今、持ってきますね。」そう言ってミューズは奥に本を取りに行った。
しかし・・・ミラージュ家か、12代続く名門大富豪、今や、過去に何が有ったのか・・・何も無いといいが・・・
「ロディ、お待たせしました、こちらがその本です。」
ミューズから一冊の厚い本を受け取った、表紙にルモントとミラージュ家の因縁・・・そう書かれていた。
ん?因縁? あの街とミラージュ家の間に何かあったのか?
ロディは本を開いて中を確認していった。
今を遡る事60年前・・当時ルモントの伯爵貴族であったミラージュ家は、婚姻問題に悩まされていた、ミラージュ家8代当主カフネ・ネル・ミラージュは自身の娘、ルイゼの結婚相手を探していた、ミラージュ家には25歳迄に結婚し、世継ぎを誕生させなければならない古い伝統があった。
それを守られない場合はミラージュ家に呪いと災いが起こる、そうミラージュ家では言い伝えられていた。
しかし、当時娘ルイゼには気になる異性がいた、一平民で商店の息子ハーン、そのハーンの事が頭から離れられなかったのである。
しかし、そんな事は知らず当主は娘を他の貴族の男子と結婚させるため躍起になっていた。
ルイゼは家を抜け出し、度々ハーンの元に顔を出した、ハーンもそんなルイゼが気になり、二人は自然と両想いになっていった。
そんなある日・・・ついにルイゼにお見合い、婚姻の話が来た、当然ルイゼには心に決めた相手が居たので、お見合いや、婚姻は断固として拒否をして、ルイゼも、また自分の気持ち、街の商人の息子ハーンの事が大好きだと、愛している!と父親に言ってしまったのである。
そして父の逆鱗に触れた商人の息子ハーンは、ルイゼの父親の警備兵に逮捕、連行されていった。
暫く会えない日々が二人の間に流れた、しかし、ルイゼのハーンを想う気持ちは変わらなかった。
そして・・・屋敷の前、広い庭園に人殺し、死刑に使われる断首台が設置された。
ルイゼは悪い予感がして、大慌てでその断首台に近づこうとした、しかし、警備員に取り押さえられ、頭を地面に付けられ、拘束されてしまった。
そんなルイゼの前を下を向き、生気の無い瞳、青白い顔で歩く男がいた、ハーンであった。ハーンは警備員に引きずられるように歩き、手首を後ろでしばりあげられていた。
頑なに抵抗するハーン、しかし、ハーンの首は無惨にも断首台の枠に嵌ってしまった。
ルイゼは、助けを求めるも、もうどうすることも、ただ、止めて〜、助けてあげて〜と泣き叫ぶ事しか出来なかった。
そして、ルイゼの父親の手が振り下ろされた。
ザシュッ・・・断首台、辺り一面に真っ赤な血が飛び散った!ハーンの首は胴体から離され無惨にも転がっていた。
いや、いや、いや〜〜〜、ルイゼは発狂しなから、警備員を振りほどき、ハーンの元に・・・
ハーンの頭を胸に抱きながら、ルイゼは涙を、真っ赤な赤い涙を流した。
お父様・・・いいえ・・・貴族、そして誰も救けてくれなかったこの街人全て呪って、恨みます!一体ハーンが何をしたのよ!何も悪いことしてないわ! ルイゼは父に向かい声を張り上げた。
いいや、ルイゼ、コイツはお前の恋心を弄んだ!それは万死に値する、当主カフネはそう言うと屋敷の奥に入っていった。
許さない・・絶対に、絶対に・貴族も、この街の人全てを!!
それからルイゼは部屋に籠もりっきりになり、年に数回しか表に顔を出さなくなった、また同じくらいの時期から、夜な夜な、貴族の変死体等も発見されるようになった。
貴族の変死体・・そして有名絵画、貴重品、金品強盗がルモントの街の近くで、多く発生するようになっていた。
今も、年に何回も、殺人こそは減ったが、金品、絵画、高級品強奪などの犯罪はルモントの街近くで多発していた。
なるほどな〜、ミラージュ家にそんな過去が!ロディは読んで感想を呟いた。
ウッ・・ウッ・ウッ〜、可愛そうです〜ルイゼ様が〜。何故かルーティアが涙声になっていた。
これを読む限り、犯罪の匂いがするな!しかもあのお嬢様だ!このルイゼって女に似ている。
確かに年に数回しか表に顔を出さなくなったとか。
よし、過去は分かった、後は街の人に話を聞いてみよ。
わかりました、ロディ。
ロディは借りた本をミューズに返して、星団図書館を出た、再びゲートを開いた。
ルモントの街に戻り、今のミラージュ家が何故あそこ迄の大富豪になったのか!ロディは街の人に聞いて回っていた。
その結果、鉱山全てを買収して、それを他の貴族に高金利で貸し与えている、他の貴族を強請っている、裏で悪いことしている・・・等など一部の市民には好かれて居ない事が分かった。
確かにミラージュ家だけ別格過ぎる!過ぎるんだ!
何か裏で犯罪をしているのはほぼ間違いないな、よし、あのバネットってお嬢様を監視する、ルーティア、大丈夫だな?
はい、大丈夫です。
そしてロディとルーティアは張り込み、偵察の準備を始めるのであった。
つづく。