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寂寞の首塚  作者: 三峰三郎
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寂寞の首塚 6

 志賀城の廻りを杭に刺された三千もの生首が並べられたのは、天文十六年(1547)八月七日の早朝のことである。

 どの目も清繁を睨み据えていた。

 白くくすんだ顔には苦悶の表情が浮かべられ、途中で遮られた断末魔の叫びがその口端から漏れ聞こえるかのようであった。


 昨日、武田軍に小田井原で討ち取られた上杉からの援軍の兵たちのそれだった。

 

 上杉憲政が志賀城救援のため碓氷峠から軍勢を派遣したのに対し、武田晴信は板垣、甘利率いる別動隊を上杉軍迎撃に向かわせ、佐久郡小田井原で打ち破ったのである。

 この戦で武田軍は、上杉軍の武将、十四、五人と雑兵三千人余りを討ち取ったという。


 清繁は衝撃のあまりその場にへなへなと膝から崩れ落ちた。

 上杉軍の援軍が敗北したことに衝撃を受けたのではない。

 志賀城に籠っている上杉家の武将たちの眼前に親類縁者の生首が並べられたことで、少しばかり残っていた降伏の余地が完全に消滅したことに、衝撃を受けたのである。


「我ら武田軍に敵う軍など日ノ本中どこを探しても皆無である。早々に武田に降られよ。さもなくば城に籠る女子供含め皆がこのようになると思われよ」


 目を凝らすと、隻眼の男が並べられた首の回りをよたよたと闊歩しながらこちらに叫びかけているのが見えた。山本と名乗ったあの時の使者であった。


(あの男、まさか……)


 まさか、志賀城の上杉兵に武田を憎ませることで、あえて降伏の余地をなくしているのではないか、と清繁は思った。

 麓からこちらを見上げる跛の男の顔に歪んだ笑みが浮かんでいるように、清繁には見えたからである。


 

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