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寂寞の首塚  作者: 三峰三郎
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寂寞の首塚 4

「暑い中、御苦労であるの」


 日差しがこれでもかと言わんばかりに降り注ぎ、あちこちで蝉の声が響き渡る志賀城本丸に上ってきた清繁は、汗をぬぐいながら若い男をねぎらった。

 この男は、籠城に備えるため食糧物資を麓から城内へ運ぶために雇った城下の農民である。


「これは城主様。武田との決戦の御決意、お見事にございます」


 清繁は常日頃から城下の人々に平伏させなかった。

 「志賀城下において身分の上も下もない」

 ということらしい。

 そのため、清繁は農民から慕われ信頼されていた。


「戦が嫌ではないのか」


 清繁は武田との戦を歓迎しているかのような素振りをみせるその人夫に尋ねた。


「それは嫌にございます。なれど戦のない世などありえませぬでしょう。いまは飢饉が続いておりますのでなおのことにございます。私たちと同じく、甲斐の民も飢饉に苦しみ、食糧を信濃に求めているのでしょう。私たちは生き残るためにこの土地を守らねばなりませぬ。武田の者たちに好き勝手されては生きていけるかわかりませんから」


 こう力を込めて言う男の顔に、一瞬、諦めに似た表情が浮かんだのを清繁は見逃さなかった。


「頼もしいの。しかし、戦となればそれこそ死ぬやもしれぬのだぞ」


 清繁は優しい笑みを絶やさずに言った。


「土地を犯されれば私たち農夫は武田に生死を委ねねばなりませぬ。私は、私自身で己の道を選びたいのです。それに、向かいの内山城においては、降伏した者たちは命は助かったと聞き及んでおります。万が一、負け戦となりましても、城主様の御命までは奪われないでしょう」


「しかし、のお……」


 己の命ではなく志賀城の民の命を心配していた清繁は、予期せぬ言葉に戸惑った。


「これは、佐久、いえ、信濃国人のづくを見せつける戦にございます」


 力む若い男にもう一度ねぎらいの言葉をかけると、清繁は本丸へと向かった。


 

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