あたしの彼氏は迷探偵
「えーっと、海水浴に行くんだよね?」
小南くんの運転する高級ミニバンは、高速道路を飛騨高山方面に向かって快走している。
「幽子ちゃん、もちろんそうだよ! 僕もホラ、ズボンの下はもう海パンだしね」
コナミくんは白い歯をキラキラさせながら笑い、イケメンスマイルを爆発させた。
「でも・・・コナミくん」
「僕のことならコナン君って呼んで!」
飛騨高山は山間部だし、あたしが知る限り岐阜県に海はない。
相変らず自称名探偵は、自分の呼び名にこだわっているし。
だから学校イチの残念イケメンって言われるんだよ。
「でもほら」
あたしが高速の案内表示にでかでかと『高山方面』と表示されているのを指さすと、
「疑っているの? しかたないなあ、ちゃんと海パンを・・」
なぜかコナミくんは、運転しながら嬉しそうにズボンを下ろし始めた。
危険だし、意味不明だし、超やめてほしい。
さすが今世紀最大の残念男・・・そんな異名をほしいままにするだけのことはある。
世界的に有名な自動車メーカーの御曹司一族でもあり、運動神経も良くイケメンで、優しくって、地元最難関の国立大学工学部に現役合格している「超優良物件」だが。
やることなすことアホっぽい。しかもそれが全部、素の行動で、大学入学して半年もしないうちに言い寄る女どもから、片っ端にフラれた逸材だ。
あたしもこんな体質じゃなければ、この阿呆とは付き合いたくないのだけど…。
あらざるものを寄せ付け、見えてしまうあたしにとって・・・。
どんな怪奇現象も勝手に浄化してしまうこの男は、便利以外のなにものでもない。
「ああそっか、高山だから不安なんだね。幽子ちゃんが教えてくれたYouTubeの広告で、僕も初めて知ったんだ! 塩分豊富な温泉をプールっぽい露天風呂にしたアミューズメントで、今年オープンしたんだって」
「なぜに、そんな場所を…」
「おもしろそうでしょ! それにその温泉旅館、以前連続殺人が起きて、ニュースにもなった場所なんだ」
「はあ?」
「まだ犯人は捕まっていないそうだし、名探偵として、そこはなんとかしなきゃって」
「はあああぅ!」
とりあえずスマホで検索すると、そんな怪しい施設がヒットする。
やはりというか、なんというか。レビューには心霊体験がごまんと書き込まれていて、今では客もほとんどいなく、地元のヤンキーさんたちが肝試しに行く程度の場所らしい。
その広告サイトを見ても、怪しい人影のようなものがいくつか映り込んでいて、下手な合成心霊写真にしか見えない。
オープンしたの今年でしょ…閑古鳥が鳴くの早すぎない?