100話 『最強パーティ』
「みんな……遅くなってごめんね……」
小さな四つの墓にマフィーは花を置く。後ろでは共にモンスターと戦った五人の親が並んでいた。
「やっと……子供たちに顔向けができるな」
「少し、時間がかかりすぎてしまったがね」
「ふふふ、それでも無駄にならないで済んだわよ」
「さすが俺たちの子だ」
ずっと悔やみ続けていたんだろう。大人たちは肩の荷が下りたのか、子供たちの思い出話に花を咲かせていた。
「なぁ、マフィーはこれからどうするんだ?」
「うーん……わかんないけどここにいるかな。みんなと離れたくないから……」
「そうか。だったら……いつか旅に出たら俺たちに会いに来い」
「えっ?」
「俺たちはマフィーの友達が揃っていても敵わないくらい強いパーティだ」
「ッ!! 僕らには力の強いドアンがいるもん!」
友人をバカにされたと思ったのかマフィーは少しむきになって答える。
「力ならルークがいる。ドラゴンに勝てると思うか?」
「うっ……でも、脚の速さならテッドは負けないよ!」
「ミントは空も飛べるし魔法の実力者だ。一晩でいくつも山を越えて戻ってくることもできる」
「うぅっ……ルルは遠くの音も聞きわけられるし、ロックは頭がいいんだ!」
「リリアは魔法で索敵ができる。それに頭の良さなら俺も負けてないぜ?」
「君は頭がいいというかなんというか」
「クゥ~」
ミントが小さくぼやくが無視だ無視。子どもから見れば中身補正のある俺は賢くみえるのだ。マフィーは自慢の仲間が負けたと思っているのか、うつむくと今にも泣きそうだった。
「でもな、マフィーはそんな仲間たちの分まで強くなるんだろ?」
「ッ!!」
「だったら早く強くなって俺たちの仲間になれ。強くなったマフィーが入れば俺たちは――最強のパーティになる」
「最強のパーティ……」
「ほんとだ! マフィーが入れば最強で、最高のパーティになるね!」
「獣人は身体能力が高いからね。色々と役に立つよ」
「クゥクゥ!」
もちろん、そんなにすぐ強くなれるわけなどない。だが今のマフィーにはなんでもいいから目標が必要なのだ。
がむしゃらにでも前に進もうとする何かが。
俺たちの話を聞いていたのか大人たちが話に混ざる。
「こんなんじゃ旅に出してやっても心配で寝れねぇよ」
「我が子だと思ってみっちりしごいてやらないとな」
「マフィー、そろそろ自分で家事もできるようにならないといけないわね」
「えっ……えぇ!?」
「君の修行プランを考えてみるのも面白そうだね」
「みんな、ほどほどにな……ということですまないが、この子が強くなるまでは待っててほしい」
「もちろん、友達ですから」
「友達……」
そういうと心配そうにまた顔を伏せる。まぁ、自分の友達は死んでしまうと思い込んでしまってるんだろう。
「勘違いするなよ? 俺たちは最強になるんだ、そう簡単に死なないからな」
「私たちはもっともっと強くなるからね!!」
「いっとくけどこいつ、ベヒーモス相手に生き延びてるから」
「……へっ?」
あぁ生き延びてるぞ! 堂々とする俺の周りで大人たちがざわついているが……。
本当のことなのに、そんな目でみないでくれ……あれだな、あまりにも壮大すぎて何言ってんだこいつ? っていう状態かな。
せめてモンスターの群れ相手に生き延びてるくらいで抑えておけばよかったかも。というかミントの言い方が悪い。
「と、とにかく! マフィーの友達は残念だったけど……だからといって俺たちは死なない。安心しろ」
「ほ、本当?」
「あぁ約束だ」
「約束…………みんな、僕、もっと強くなるよ…………きっと最強のパーティに入るから! みていて!!」
マフィーが四人の墓に向け大きく胸を張って宣言すると大きな風が吹き花を揺らす。これで俺たちも簡単には死ねなくなったわけだ。まぁ、元々そんなつもりは微塵もないが。
しばらくすると誇ったマフィーを大人たちが楽しそうにいじり始める。ティーナさんは少し涙目になっていたが……きっと友達も一緒にマフィーを見守ってくれるだろう、これで一安心だな。
村に戻ると俺たちはすぐに旅立ちの準備をした。
「よし、忘れ物はないな?」
「うん!」
「え、みんなもういくの!?」
「少し前にここを通った人に大事な用があるんだ。急がないとまた離されてしまうからね」
いつ見てもこの年頃の別れは辛いよなぁ。俺も前世で親戚の子供と別れるときは泣いたものだ……一緒にやるゲームが楽しくて楽しくて……ほとんど負けてたけど。
「マフィー、旅立ちは笑って見送ってあげるものよ」
「う、うん……ね、ねぇ、また会えるかな!?」
「すぐには無理かもしれないが、マフィーが強くなればどこかで会うかもしれないな」
もしリリアの両親が見つかり旅がひと段落ついたらマフィーを迎えに来てやってもいいかもしれない。どのくらいかかるかわからないが、強くなるためには時間は多いほどいいだろう。
「ティーナさん、ガドさん、それに皆さんも……本当にお世話になりました」
「礼を言うのは私たちのほうよ」
「ろくな恩返しもできず本当に済まない……だが、この恩は決して忘れはしない」
「この世界には我々以外にも獣人はたくさんいる。どこかで君たちを見かけたら力になるよう、みんなで広めておくよ」
「そんな大げさな……まぁ困ったときはありがたく助けてもらおうかな」
一通り挨拶も終わり見送られながら俺たちは村を出る。
「きっと、きっとまた会おうねーーーー!!」
何度も手を振るマフィーに一度だけ振り返り手を振った。いつか、彼の隣に立つ父のように、立派な姿になって俺たちに会いに来ることだろう。
そのときはゆっくり自慢の友達のことを聞かせてもらうとしよう。
「さぁて! 私たちも早く先駆者を見つけなきゃね」
「あぁ、次はいよいよ魔界だ」
「どんなとこなんだろう……ねぇミント――あっ、今のなし!」
リリアはすぐさま手で口を抑えると、それをみたミントはルークの上でくつろぎながら人差し指を立てた。
「自分で言おうとしたことに気づいたのは評価するよ。それに免じて一つだけ教えてあげる。魔界は果ての大地と同じで魔素が濃いんだ」
「ん? 魔素って……マナと違うのか? 確か神聖樹に近づくとマナを持った生物は暴れるってライムが言っていたが」
「僕らは君たちでいう魔力や魔素を全部ひっくるめてマナと呼んでるだけさ。めんどくさいからね。えーっと、わかりやすいように説明すると魔力は人や生物に宿ってるもので、魔素というのはその源――つまりその土地に宿る魔力とでも思ってもらえばいいよ。神聖樹は特に魔素が濃いからね、中途半端に魔力を持った生き物がくると急に自分の力が湧いてきたと勘違いするのさ」
あ~なるほど――なんとなくわかった俺の隣でリリアがちんぷんかんぷんになっている。
「ほら、前に俺とルークがとばされた場所にミントたちがいたって言っただろ?」
「妖精が住んでるっていってたとこ?」
「そうそう、あそこでは俺たちが言う魔力をマナって言ってたんだ」
「あ~そういうことか!」
「魔界とは言うけど、正確には濃度の高い魔素で区切られた境目から決めてるだけで別の世界にいくわけじゃないからね」
他県か離島ってことだな、まぁ考えてみればそれもそうか。リリアが何かに気づいたのか手をあげた。
「あ、でも待って、魔素が濃いと生き物が暴れるってことは魔界のモンスターって……」
……おい、ミント。リリアから目をそらすな。