97話 『すべきこと②』
「こんな道、いつの間にできてたんだ?」
「まるで何年も放置されていたような……こんなところに本当にあの子が?」
「私がきたときはもっと綺麗な状態でした。多分マフィーは本の力でいつの日からか同じ時間を過ごしていたんです。だけど、何かがきっかけで私たちに反応を示したのかもしれません」
ここを通った人をあそこに呼ぶのであれば私たちよりも前に通った先駆者は魔境辺にいけなかったはず。だからあの場にいた私たちの誰か、もしくは何かがマフィーの元へ誘ったんだ。
みんなが看板を見る中、ティーナさんは耳を動かし横にあった森のほうを指す。
「みんな、あそこからモンスターがくるわよ」
「おっと! 段々激しくなってきたな」
「まるで俺たちを拒絶してるようだ……気を引き締めていくぞ」
みんなが武器を構え森のほうを見るとティーナさんが言うようにトカゲのようなモンスターが現れた。さすが獣人だけあってモンスターとの戦いは連携して対処できている。
そしてしばらく歩くとあの橋が見えてきた――よく見ると木は朽ち果てボロボロになっており、苔がびっしりとついている。
あんなに綺麗だった川も淀みまるで墓場だ……みんな無事でいて……!
私が橋に向かって駆け出そうとしたそのとき――――
「危ない!」
「きゃッ!?」
地面に倒れ、すぐに顔をあげるとガドさんの背中があり、そしてその先にはあの大きな蜘蛛のモンスターが奇妙な鳴き声をあげていた。
「ギッギギィイイギイィィィィ……」
「くそ、こんなところでこいつが出てくるとは!」
「ティーナ! ここは俺たちが食い止める、お前たちは先にいけ!」
そういうと後ろの獣人たちが気を引こうと一斉に攻撃を始める。弓矢や魔法がモンスターへと放たれるがほとんど効いていない。それでもティーナさんは礼を言うと後ろを振り返らずこちらに駆けだした。
「さぁいくぞ!」
ガドさんに起こされティーナさんと橋の奥へと向かう。そして以前は見なかった門を潜り抜けると石碑が四つ置いてあり、その前ではみんなが虚ろな表情で座っていた。
「レニ君! みんな、しっかりして!」
「お~リリアか。あとで畑にいくぞ」
「明日にはマフィーの友達もくるっていうからね、多めにとっておこう」
「クゥー……」
身体を揺するが誰も反応がなく、動かそうにもみんなの体は石像のように重く動かすことができない。私は一つだけ空いた台座にかけられていた杖を手に取るとティーナさんとガドさんの元へ戻った。
「いったいこれはなんだ……」
「多分……みんなは変わりにされているんです。いつか戻ってくるであろう友達の……だけど戻ることはない……」
そして何かの気配を感じ奥を見ると、酷く汚れていたが間違いなくあのときと同じ姿のマフィーが現れる――手にはあの本を持っており虚ろな目をしていた。
「マフィー! みんなを返して!」
「ねぇ、リリアちゃんも一緒に待っててくれるよね」
「おい、正気に戻れ! みんなは……もうすでに死んで」
マフィーは突然目を見開きガドさんをみた。そして手に持っていた本が光り出す。
「僕の仲間が……大変なんだ、みんなを助けて!」
マフィーはまるで大人たちに仲間が襲われていることを報告するように声をあげ始める。二人が仲間を助けに行ってくれると思っているんだ。
そしてその影響なのか、遠くからあのモンスターの声が聞こえてくるとティーナさんとガドさんはモンスターの方へと向いた。
「な、なんだ体が勝手に……!」
「動けない……!」
「マフィー、もうやめて!!」
≪タカノツメ≫
私は魔法陣を描きマフィーの持った本に目掛け放つ。だが手に持った本がマフィーの前に盾のように浮かび出てくると魔法を防いだ。
「くそ、どうしても戦わせるつもりみたいだ。俺たちが時間を稼ぐ! 君は逃げるんだ!」
「そ、そんな!」
「大丈夫、私達もただではやられないわ」
二人は構えると獣人ならではの身体能力でモンスターに立ち向かっていった。すぐに援護をしなければ……!
二人がモンスターから僅かに離れた瞬間、魔法を放つ。
≪タカノツメ≫
命中するとモンスターからまた奇声があがった。よく見ると外皮の一部が斬れ、焦げた跡もありダメージは入っている、これなら倒せそうだ!
「リリアちゃん!?」
「私も戦えます! 二人は攪乱してください!」
二人の攻撃の合間にモンスター目掛け魔法を放ちダメージを重ねていく。ときおりこちらに向けモンスターが攻撃を仕掛けてくるが、絶対に攻撃は受けてはいけない。
私に標的が向いていればティーナさんとガドさんが攻撃を繰り出し連携を作っていく。このままいける!! そう思ったとき、二人は動きを止め一瞬の隙が生まれた。
「なんだ……体が動かねぇ」
「いったい何なの……!」
二人にモンスターが迫る。魔法も間に合わない、もうダメ……そう思った瞬間、横から何かが勢いよくモンスターにぶつかっていき僅かながらもその巨体を吹き飛ばした。
「おい、クソ野郎! 俺たちを忘れるんじゃねぇ!!」
「まさか仇を討つ機会がくるとはね」
「遅くなってすまない、ほかのモンスターに手間取っていた」
そういって近づいてくるのはモンスターを吹っ飛ばしたであろう熊のような体格をした獣人と、狐のようにピンと尖った耳の獣人、そして……マフィーと同じ毛並みで狼のような鋭い歯をむき出しにしている獣人だった。
「お前ら……!」
「こうして揃うのも懐かしいわね……さぁ、今日で終わりにするわよ!」
「お嬢さん、君の魔法はかなり強力なようだね。ヤツの首元がみえたら狙ってくれ」
「わ、わかりました」
狐のような獣人はモンスターを視ながら、まるでどこが弱点なのかを観察しているようだった。そして最後にマフィーと同じ姿の獣人が全員に指示をだす。
「これは彼らの弔いでもある。全員、必ず生きて帰るぞ」
「ハッ! 誰に言ってやがる、お前こそ息子が生きてるとわかったんだ。死んだら許さねぇぞ!!」
そういうと熊の獣人がモンスターへ突っ込み、すぐさま全員がフォローに入ると先ほどよりもさらに猛攻をかけていく。そして――
「「「今だ!」」」
≪タカノツメ≫
あらかじめ魔法陣を展開し集中していた私は合図と同時に炎の鳥を飛ばす。五人によって後ろによろけたモンスターの首元に大きな傷がみえる。
「いけーーーーーー!!」
魔法がモンスターの首へ当たると大きな傷を作る。そしてそこから炎が燃え上がり始めると悲鳴にも似た奇声が響く。
その声も徐々に小さくなっていき……モンスターは崩れるように倒れた。