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87話 『憧れ』

 海辺に畑という光景が異常に見えるのは俺だけなのか? 地球じゃ海水だったから、作物は塩害に強い植物くらいしか育たなかったのにな。手伝いをしていた子供がこちらに気づき走ってきた。



「ラカム兄ちゃんいらっしゃい!」


「よぉ、村長はいるか?」


「家にいるよ、それよりいつになったら俺を船に乗せてくれるのさ!」


「お前にはまだ早い、もっと大きくなったらな」


「ま~た同じことばっかり……あれ、兄ちゃんその人たちは?」


「このお方はサーニャ姫だ。早く挨拶しないと牢屋行になるかもな」


「えええええええ!? こ、これは大変失礼致しましたああああああああ!!」



 サーニャさんの顔をみるなり男の子は地面に伏せ何度も謝罪する。



「もう、あんたが変なこというから怯えちゃってるじゃん」


「はっはっはっは! これくらい、度胸がないようじゃ船には乗せられねえよ」


「兄ちゃん、なんでお姫様を連れてるんだよ……あっ、まさかついに攫ってきたの!? あんだけ『俺たちは人さらいと殺しはやらねぇ』って言ってたのに」


「人聞きの悪いことをいうな、姫様を救うためだ」


「攫ったことに変わりはないけどな」


「もうレニ君ったら」


「あれ、君たちは……」



 俺とリリアを見て男の子はなぜか悲しそうにしている。別に攫われてはいないんだが、この子は見た感じラカムと全然似てないし実の兄弟でもなさそうだから、ラカムを面倒見のいい兄貴って感じで好いてるのだろう。



「俺はこのお兄さんと戦ったんだが女性たちを人質にとられてね……なすすべもなく捕まってしまったんだ」


「クゥー」


「おまッ!?」


「信じてたのに……み、見損なったぞ! このゲスやろぉぉおおおおお!!」



 そういって男の子は走り去っていく。よし、これで少しはこいつ(ラカム)の好感度を下げられたはずだ。横にいたリリアは慌てて俺に声をかけてきた。



「ちょっと言い過ぎじゃないかな……」


「よく考えてみろ。俺たちが船に乗ってることを知ればあの子は意地でも乗せろっていうだろ?」


「あっ、確かに!」



 リリアはなるほどと手を叩いてわかってくれた。だがラカムは疑いの目で俺を見ている。



「……本音は?」


「子供相手に偉そうにしてたあんたを困らせたかった」


「レ、レニ君……」


「やるわね、私もそうすればよかった」


「もうフィルまで、あとでちゃんと誤解を解かないといけないわ」


「こんなことなら一人でくるんだったぜ……」



 ラカムは頭に手を当てまたしばらく歩き出した。



「村長、いるかい?」


「おぉ~久しいのぅ。なんじゃ? 野菜でもなくなったか?」


「この前もらったばかりだろ。頼みがあるんだが船を借りたい」


「お前さんには立派な船がいくつもあるじゃろ」


「いや、あれじゃ中心部までは行けないからな」



 村長は後ろに立っていた俺たちをみる。サーニャ姫のことも気づいたのか、どこか空気が緊張感を増した。



「ふむ、何か訳アリのようじゃの……」


「その通りだ。それと悪いがここで一晩泊めさせてくれ」


「よかろう、ゆっくり話を聞こうじゃないか」



 ラカムが村長へ事情を説明すると、小型の船を一隻借りられることになった。どうやら都より離れた島ではラカムが海賊をしている理由などを知っている人がいるらしい。

 モンスターが出たりするとラカムが駆除に来てくれるといってたし、助け合いでなんだかんだ信頼は得ているようだ。

 そして翌朝――何やら外が騒がしいと思い出てみると、あの男の子が木刀を持って立っていた。



「兄ちゃん! 決闘だ!!」


「ふあぁ~……なんだ朝っぱらから、騒がしい」


「決闘だってよ。あの子根性あるんじゃないか」


「レニ君、急いで誤解を解いたほうがいいんじゃ……」


「受けてあげなよ、あんたがまいた種でしょ」


「フィル! かわいそうですよ、ラカム、ちゃんと断って――」


「いや、面白い。相手をしてやろう」



 そういってラカムは欠伸をしながら男の子の前にでていく。



「で、戦うのはいいが何を賭けるんだ?」


「兄ちゃんが負けたらみんなを解放しろ!」


「お前が負けたら?」


「俺が負けたら……奴隷にでもなんでもすればいい! そのかわりみんなは解放しろ!」


「おいおい、二つも要求しちゃダメだろ」


「いいからどうすんだ! やるのかやらないのか!?」


「まぁいっか、やってやるよ」



 二人は向かい合って距離をとる。リリアとサーニャさんは焦っているが、殺し合いってわけじゃないんだから大丈夫だろう。それに今は姿を消しているミントもいるしな。審判がいないので俺が二人の間に立つ。



「二人とも準備はいいか? 参ったといったほうが負けだ」


「おう」


「こい!」


「それじゃあ、開始ッ!」



 俺の合図と同時に男の子は声をあげ詰め寄った。



「くらぇぇええええ!」


「あまい」


「ぐわッ!?」



 何度か木刀を空振りした男の子をラカムが蹴り飛ばす。普通の子供だったら虐待にしか見えないが、意外にも男の子は足腰がしっかりしており、何度も立ち上がった。

 だがさすがに大人と子供、ましてや戦い慣れしているラカムの相手になるはずがない。



「くっそ―……こうなったら必殺技だ!」


「ほう? 職業だってまだもらってないのに、いつの間にそんなものを覚えたんだ?」


「兄ちゃんがいない間こっそり練習していたんだ! いくぞ、くらえッ!!」



 男の子は手に隠し持っていた砂を投げつける。



「姑息だがいい手だ、しかし次はどうす――」


≪サンドトラップ≫



 ラカムの足元に砂が纏わりつき動きを止めていく。どう考えてもこの子がやったようにはみえない。これは完全に……ミントの仕業だな。



「お、おいちょっと待て……!」


「くそ、もう最後の手段だ……ソードスラーッシュ!!」



 状況がわかっていない男の子はラカム目掛け木刀を投げつける。


≪ウィンドブースト≫


 またもや投げつけられた木刀は不自然な挙動でラカム目掛け加速した。普通に考えれば骨が折れてもおかしくない。だがラカムは咄嗟に服で弾き落とす。



「さすがに今のはシャレになってねぇって!」


「……今だ、全力で体当たりだ」


「ッ!」



 男の子は走り出しがら空きになったラカムの体にタックルする。普通であれば平気だっただろう、しかし事前に俺から攻撃を受け重傷を負っていた体には十分なダメージだった。



「おごっ……痛ーーーーーッ……」



 腹を抑え悶絶するラカム、それをみて何が何やらわかっていない様子の男の子。



「はい、そこまでー」


「えっ……えっ?」


「君の勝ちー……といいたいところだけど、でてこいミント」


「はいはーい」



 男の子の前にミントが姿を現す。



「わッ!? よ、妖精……?」


「君があまりにも不甲斐ないから僕がフォローしてたんだよ。さすがに君一人じゃ勝てる勝負じゃないからね」



 男の子が俺に目線を配ると俺は頷いた。それをみて男の子はしょんぼりしたが、まぁ下手に隠して自分の力を勘違いしてしまうよりはいい。



「そっか、そうだよね……俺じゃ兄ちゃんに勝てるわけ……」


「いってぇー最後のは効いたぜ」


「さぁ約束だ! 奴隷でもなんでもしろよ!」


「あぁなんだ? お前、もう降参すんのか?」


「誰がするか! でも、今の俺は兄ちゃんに勝てないから」


「だが俺はさっきので腹を痛めたから休みてぇ」



 ラカムはそういって俺に合図した。ま、ここらでちょうどいいし締めるか。



「それじゃあ二人とも、この勝負はいつの日かまでお預けってことで」


「ちゃんと言われた通り鍛えてるようだな、見違えてたぜ」


「でもまた勝てなかった……みんなを助けたかったのに」


「あーそれなんだがな、すまんが嘘をついていた」



 さすがに誤解を解いてあげないとだな。みんなで男の子の前へ並ぶ。



「実はね、私とレニ君は旅をしているの」


この人(ラカム)がサーニャさんを攫ったのは水の国が滅びてしまう危険があったからなんだ」


「え、この国が?」


「あぁ、俺たちはそれを止めるために動いている。君の兄さんはこの国を救おうとしてるんだ」


「ほ、ほんと?」



 男の子が確認するようにラカムを見た。単純に友好を結べばある程度回避できそうなため、そんなにたいそれたことではないんだが。



「あぁ本当だ。だから国を平和にしたらサーニャ姫はちゃんと城へ送り届ける」


「じゃ、じゃあ平和になったらいつか船に乗せてよ!」


「あぁ約束しよう。ただし、そのときまで鍛錬は続けろよ? そんなんじゃ海にでた途端死んじまうからな」


「うん! 俺、もっともっと強くなるよ! それでお姫様も兄ちゃんも、みんな助ける!」


「うふふ、待ってるわよ」



 そう言ってサーニャさんが男の子の顔についた泥をぬぐってあげると男の子は照れるようにしていた。



「さてと、それじゃ俺は色々と準備してくるから朝飯でも食ってから来てくれ」


「わかった、よろしく頼む」



 そして朝食も食べ終わり船があった場所に戻ると小型の船がおいてあった。小型船に乗り込むとラカムは部下へ指示をだしていた。



「お前らはここで待機、何かあればすぐに島へ逃げろ」


「へい、お頭も気を付けて!」



 出発の準備も終わるとミントが船を動かす。



「細かい進路なんかはそっちで変更してね。進ませるだけで結構疲れるんだから」


「あぁ任せてくれ」


「いよいよね、うまくいくといいな」


「必ずやこの国を救って見せます……!」



 俺たちは決意を新たに水の都へと向かった。

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