86話 『単純思考』
「よし、サーニャさんは片付けが終わったら片っ端から料理を持っていってくれ」
「は、はい！」
「フィルは甲板でみんなに準備をさせてくれ。これ全部外で食うからな」
「えぇ、こっちに呼んだ方が早いじゃん」
「せっかく天気もいいんだ。外で食べれば更に美味しくなるぞ」
「わかったよもう……いってくる～」
「レニ君、こっちはこのくらいの焼き加減でいいかな？」
「どれどれ……うん、いい塩梅だ。火傷に注意して皿に盛りつけてくれ」
船の甲板に料理をどんどん運んでいく。海賊船で食事といえばここしかないだろう。酒は知らんが飯だけでも盛り上がれること間違いなしだ。
そしてよっぽど何かを期待していたのか、俺の料理をみた海賊たちの反応は微妙なものだった。
「鍋……だよな？ ごちゃごちゃしてるし雑過ぎないか？ 魚の頭まで入ってるし……もっと肉とか使ってもらってよかったんだが」
「そう言わず食ってみろって。ほら、さっさと食べないと冷めるぞ」
「ねぇ君たち、食べないなら僕が食べるけど」
あくまでこれは海賊たちの分として出してるからミントには我慢してもらっていた。臭いにつられて真っ先にやってきたときはすごかったが食べられないとわかった途端、ずっと機会をうかがっている……目つきが恐い。
「せ、せっかくだしお頭が先にどうぞ！ 俺たちはあとから食べますぜ」
「お前らこんなときばっかり……しゃあねぇ先にもらうぞ」
ラカムはみんなの注目を集めながら恐る恐る料理を口へと運ぶ……。
「ッ!? な、なんだこれ……おい、お前も食ってみろ」
「えっ……お、俺ですかい？」
ラカムに言われた部下が自分を指差しながら前に出る。そして料理を口に運ぶと突然空を見上げた。
「うっ……うまーーーーーーーい！！！！」
「ちなみにこの料理は女性陣も手伝ってくれた。味見もしてくれたし、見た目が悪いのは旨くなるように俺が指示しただけだからな」
それを聞いた海賊たちは顔を見合わせ一気に動き出す。
「どおりでさっきから良い香りがしたわけだ！」
「てめぇ！ この間から鼻が詰まっててなんも臭いがわかんねぇって言ってたじゃねぇか！！」
「おい、その野菜は俺のもんだ！ とんじゃねぇ！！」
まさか船の上で海賊たちにちゃんこ鍋のようなものを作るとは思わなかったが……。一斉に押し寄せ大混乱になるなか俺は別に準備した席に向かった。
女性陣は綺麗に盛り付けられた料理を運び終わりみんな席についていたがどこか暗い……ミントとルークはその横で今か今かと待っている。
「すまん、待たせたな」
「手伝ったって……あんたに言われた材料を切ってただけじゃない」
「私なんて食器を出したり閉まったりしただけよ……あとは味見に参加しただけ……」
「ま、まぁまぁ！ みんな美味しいって言ってくれてますし良かったじゃないですか！」
落ち込んでいるフィルとサーニャさん、それをリリアがフォローに回って二人を励ましている。手伝ってもらうだけで十分助かってたんだがな、俺も少しフォローしておこう。
「俺一人じゃこの量は無理だった。みんなが手伝ってくれたおかげだよ」
「まぁそう言われれば少しは気が楽になるけどさぁ……」
「もう、そんなことどうでもいいから早く食べるよ！ 出来立てが一番美味いんだ！」
「クゥー！」
「おぉすまんすまん、それじゃあ食べるか」
いただきますを合図に各々が料理を口に運ぶ――俺が作ったのは、魚のムニエルっぽいもの。あとはベーコンみたいな肉もあったからカリカリに焼いてサラダに混ぜた。あとは大きな燻製肉だが……そのままかぶりつくのもあれだろうと思い薄く切って試行錯誤したソースを置いといた。
あとは単純だが果物を食べやすい大きさに切って添えただけ。これなら万が一不味くてもお口直しでごまかせるはずだ……。
「ん～美味しい！ 柔らかくて食べやすいし、口の中が幸せ～！」
「まさか野菜と焼き過ぎたようなお肉が合うなんて……お城でも食べたことがない……」
「見た目も綺麗だし、普通にお店で出せるレベルの味だわ」
「口にあったようでよかったよ」
こちらもみんなに好評でよかった。相変わらずミントとルークはすごい勢いでがっついているが、まぁ幸せそうだから良しとしよう。
「あんた、国についたら料理人にでもなったら？」
「そこまでの腕はないよ。それに俺は旅をしてる最中だ」
「残念ね～。サーニャの付き人にでもなってくれれば毎日こんな美味しいもの食べれるのに」
「そういえばお二人はどうして旅をしてるんですか？」
「あーそれはだな」
俺は一応確認をとるためリリアを見る――――口いっぱいに頬張って食べているリリアは俺に気づくと恥ずかしそうに頷く。そういえばミントとルークの勢いで忘れていたがリリアも食いしん坊気質があるんだった。
「リリアの両親を探しててね。理由は分からないがリリアを生んですぐ旅にでたみたいなんだ。それで、水の国にもしかすると情報があるかもってことで向かってる途中だったんだ」
「そうだったんですか……」
「何かわかるといいわね、私たちも協力するわ」
「ありがとう、まずはこの件が終わってからだがな。それよりも今は飯だ、こう辛気臭くなっちゃ美味い飯も不味くなる」
「そ、そうですね！」
「私たちも少しはあの二人を見習ったほうがいいのかしら」
ミントとルークはその声に反応してこっちをみたが、二人とも口の周りがべちゃべちゃだ……あとで綺麗にしないとな。
その姿でみんなが笑い、すべての料理を堪能し食べ終え全員で片付けを済ませる。ラカムの話ではそろそろ村が見えてくる頃らしいのだが――。
「お頭！ 見えてきやしたぜ！！」
「おう、いつも通り奥までいけ」
見えてきた島は入り江になっており、船はその中にどんどん進んでいく。大きな木々が視界を遮り隠れるにはうってつけだ。
「よし、今日はここで一泊して明日また行動する。俺たちは村に向かうから明日の予定はそれからだ、各自準備を怠るなよ」
「へいっ！！」
ラカムが海賊たちに指示をだすと全員が返事をする。そしてすぐに武器や品物のチェック、船体に異常がないか調べたりときびきび動き始めた。
実は下手な兵士たちよりも精鋭揃いなのかもしれない。オンとオフの切り替えが凄まじいように見えるけど。
船を降りラカムに案内され歩いていくとすぐに村が見えてきた。そこには畑があり農村のようだった。
