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84話 『贖罪』

 フラードが地下牢の奥の扉を開ける。ここで王様は幽閉されていたんだったな。



「おい、起きてるか?」


「あ…………あぁ、この声はフラードさん」



 そこには手枷をはめられ頭と目に包帯を巻かれている男がいた。服もボロ切れ一枚でかなりの怪我をしてる。 



「おい暇じゃないんだ、寄り道なら他所でやってくれ」


「……その声は! フラードさん、ついに見つけてきてくれたんですね!」



 男は突然大きな声を上げると手枷を気にすることなく立ち上がった。なんだはこいつ急に元気になって……。気味悪がる俺をよそにフラードが男の肩を抑え制止する。



「落ち着け、まだ許可はもらってない。とりあえず話だけでもしてみるということだ」


「そ、そうですか……そこにいるんですね?」


「あぁ、あとはお前の口から説明しろ」


「わかりました。えーっとこっちかな…………あの、先日は大変なことをしてしまい申し訳ありませんでした」



 男は耳で位置を探ったのか俺のほうを向きながら深々とお辞儀をする。



「なんのことだ。お前と会うのは今日が初めてだろ」


「あーそっか、すいませんフラードさん、頭の包帯取ってもらえますか」


「わかった」



 フラードが男の頭に巻かれている包帯を取ると、髪はところどころ抜け落ちまともに残っている部分が少ない。だが……髪の色と雰囲気からしてあいつ(王子)だということがわかった。


 丁寧な口調だったため気づかなかったが、よく考えれば声もあの生意気なときとあまり変わりない。俺が黙っていると男は嬉しそうに笑顔をみせる。



「あの、これで思い出してもらえましたか?」


「……あぁ、見えないなら目のほうも取ったらどうだ」


「そいつは自分で両目を潰した。だからもう光を見ることはない」



 フラードは淡々と付け足す。なぜそんなことをする必要がある? 怪我した自分をみせれば許されるとでも思ったのか? いよいよ何を考えているのかわからなくなってきた。



「どこまで話を聞いてるかわかりませんが、私を殺してもらえませんか」


「なぜそんな面倒なことをする必要がある? 死にたければ勝手に死ねばいいだろ」


「それも考えました。これは王子としての自覚、意志の弱さが招いた結果――しかしふと思ったのです。私が死ねば巻き添えを受けた者たちはその怒りをどこに向けたらいいのだと」


「随分自分のことを高く評価してるんだな」


「いえ、これでも考えたのです。勝手に死ねば王に迷惑が、だからといって生き永らえては、あなたやあのときの少女が浮かばれない」



 いったいこいつは何を考えているんだ……許しを請う訳でもない。今更周りに対しての迷惑を考えるなど、すでに手遅れだということをわかっていないのか。



「死に対する恐怖で頭がおかしくなったか?」


「はははっ、最初はそうでした。だけどフラードさんに拾ってもらったこの命、無駄にしたらそれはそれで失礼に値する」



 フラードはそれを聞いても何も反応していない、完全に俺にまかせているようだ。王子は強く真面目な口調で続けた。



「そこで考えたんです。クーデターを企てた張本人として私を隣国に公表してもらい、阻止したのをあなたにすれば、王にも迷惑がかからずあなたはこの国を救った英雄になれる。サーニャ姫に対する批判も少しは減らせるはずです」



 なるほど…………そういうことか…………こいつは王子としての誇りと責任が人一倍大きい。

 そして、大の真面目(バカ)だ。だから――予言の本にも真っ先にのまれた(・・・・)



「くだらないな」


「えっ」


「そもそも俺は英雄なんて興味もないしなりたくもない」


「しかし……それじゃあ君とあの少女にどう詫びれば!?」


「知るか、んなもん自分で考えろ!!」


「ですが私にできることはこれくらいしか残って…………」



 さっきまでの元気はどこへやら、王子はその場にがっくりと項垂れぶつぶつ独り言をいい始めた。

 散々俺はこいつが悪だと……すべての元凶だと思っていた。だがこいつはこいつなりに国を思い、その結果予言の本にのまれてしまった。

 そして今、その罪滅ぼしをしようと頭を捻り最善策を考えている。ここまで一言も予言の本のせいにせず……。



「そんなに何かへ縋りたいなら俺がお前に縛りを付けてやる。これからずっとその命尽きるまで……その無様な目で国のために生きろ」


「で、でもそれではあなたが」


「俺はもうタイミングを逃したからな。今更殺せと言われても命令されてるようで気分じゃない」



 俺はあのとき止めにきたフラードを見たが、相変わらずフラードは何も言わず黙って俺を見返す。



「それに、()のお前を恨んでるやつは誰もいない。サーニャさんだってな」


「そ、そんなこと……そうだ、あの少女はいないのか!? あの子ならモンスターの前に突き出した私を恨んでるはずだ!」


「リリアはお前のことなんか微塵も恨んでちゃいない」


「そんなことわからないじゃないか! ちゃんと話を聞いて」


「聞かなくてもわかるんだよ、お前と違ってつき合いが長いからな。むしろお前が死んだなんて聞けば自分を責める可能性だってある。そんなことは絶対にさせない…………だから、お前はどれだけ辛くても生き続けなきゃならないんだ」



 俺が言い切ると静寂が訪れ、区切りがいいと思ったのかフラードがついに口を開く。



「っということだ。もし王子としての誇りが残っているのなら今の言葉を心に刻み、そして惨めだろうが何を言われようが生きろ。それが……こいつに対する罪滅ぼしってもんだ」



 それを聞いた王子は膝をつき泣き崩れた――薄暗い地下牢に声が響き渡り、自分でもなぜそんなことを言ったのかわからなかった俺は静かにその場を去った。



「クゥ~」


「なんだルーク。やけに大人しかったが、気を遣ってくれてたのか?」


「クゥルルルル」


「あっはっはっは! 確かにあのときのリリアは恐かったよな、あれで怒られたらほんとに堪ったもんじゃない」



 フラードの後ろを歩きながら俺はルークと雑談して歩く。雑談といってもルークの場合は意思と、そして感情が伝わってくるから俺を気遣っていることがはっきりとわかる……それは本当に心で話してるような気分だった。



「さて、盛り上がってるとこ悪いが次はここに寄っていくぞ」



 修練場とかかれた大きな扉があり、中から荒々しい声が聞こえている。



「……嫌な予感がする。さすがにそろそろ書状もできてるだろうし、戻っていいんじゃないか」


「王の頼みは二つだったはずだが? まぁお前なら無理に破ることもできるし何も言わんがな……それを知った兵たちはなんと思うだろうなぁ」


「おいさっさと行くぞ、挨拶したらすぐ戻る。わかったな?」



 フラードが笑みを浮かべ扉を開くと、中では筋骨隆々の男たちが修練に励んでいた。



「おい、お前ら! 恩人を連れてきたぞ」


「ッ!?」



 その言葉に一斉にマッチョたちが動きを止める。そして…………



「集合ぉぉぉぉおおおおおおおお!!」



 リーダーらしき兵の掛け声を合図に筋肉が押し寄せる。そして俺は部屋の中央に連れていかれ……なぜか胴上げをされた。高々と上げられふらふらになった俺に対しマッチョたちが整列し敬礼した。



「我らは王直属の兵! いつぞやの恩……皆を代表しお礼申し上げる!!!!」



 そういうとリーダーは深~~~くお辞儀をする……とても綺麗なお辞儀だった。そして後ろの兵士たちもみんな同じようにお辞儀をしている。よく見ればあのとき地下牢に入っていた人たちだ。



「こいつらは王と一緒に王子を止めようとしていたんだが、先に王が人質にとられてしまって動くことができなかったんだ」



 フラードが説明をすると兵士たちは口々に後悔の念をはきだす。



「我らに二度目はないはずだった……だが王の慈悲と、君が与えてくれたチャンスにより蘇ることができた」


「我らは一度死んだも同然の身、されどここにいるは不死鳥の如く復活を遂げた強き兵のみ!!」


「死人だった我らに恐れるものはなし、何かあればいつでも力になるぞ!」



 砂漠の国の軍事力が目を付けられる理由がなんとなくわかった気がする。この筋肉たちが個々で職業を持ち一斉にスキルを使えば、城くらい更地にするんじゃないのか。



「お、おぉぅ気持ちはありがたく…………あ、じゃあさ。あとから王様にも言われると思うけど、水の国にも力を貸してやってくれないか」


「ふむ、恩人の頼み事であればすぐにと言いたいところだが」


「我らだけでは人数が限られている……どうしたものか」


「ならば平和ボケした軟弱な兵たちを鍛え直すというのはどうだ?」


「それは良案だ。よし、今後は我らの鍛錬にも徐々に加えていこう。砂漠の国の底力を見せてやるのだ!!」


「ぉぉおおおおおおおお!!!!」



 なんかうまくまとまったし、これでいいっか……新兵たちよ、頑張って生き延びてくれ。


 俺はそそくさとその場をあとにし王がいる部屋へと戻った。

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