83話 『各々の都合』
砂漠の大地が見える……まさかまたここに戻ってくるとはな。海賊船からみた砂漠は海のように果てしなく広がっており、あのときとはまた違ってみえていた。
「レニ君、やっぱり私も」
「大丈夫だ。ミント、リリアを頼んだぞ」
「その心配性、少しなんとかしないとね」
「もう少し俺たちを信用してくれてもいいと思うんだがなぁ」
「海賊なんて信用できないでしょ。サーニャにだって手出しはさせないんだから」
「まるでお姫様を守る騎士のようじゃない……素敵だわ」
各々盛り上がりをみせているが今の俺にそんな余裕はない。目を離した隙にドラゴンに襲われる可能性だってないわけじゃないのだから、旅についてきてくれたミントがリリアを見捨てないよう祈るしかない。
「レニ君……気をつけて」
「あぁわかってる。よし、いこうルーク」
「クゥー!」
【ものまね士:状態】
ルークが海賊船から跳び出すと後に続き一緒に砂漠を走り抜けた。町につくとまだ騒がしさはあったが、徐々に落ち着きをみせているようでかなりの露店も再開を始めている。王がいる神殿につくと俺は警備兵に声をかけた。
「なぁ、王様いる?」
「突然なんだ小僧――って、お、お前はあああぁぁ!?」
まぁこうなるよね、でも相手にしてる暇はないんだ。さっさと終わらせようと武器を構える警備兵に近づく。
「争うつもりはないんだ、ちょっとだけ王様に会わせてほしい」
「だ、誰がここを通すものか!」
直接乗り込んでやってもいいんだがさすがにそれをやったらただの侵略者だしなぁ。
「すぐに兵を集めお前をひっとらえてやる!」
面倒だし正面突破してもいいかな……と思ったそのとき、後ろから聞いたことのある声が響く。
「やめておけ、犠牲が増えるだけだ」
「使者様!?」
フラードが横から歩いてくる。欠伸をして眠そうにしているが、少しやつれたか?
「やぁ、話がわかる人がいてよかったよ」
「まったく騒がしいと思ったら……頼むから面倒事はもう増やさんでくれ。おい、こいつは俺が連れていく」
フラードに案内され王様がいる部屋につく。ここまでくる間、兵たちの前を通るたび敬礼をされていたが……よっぽどフラードは信頼されているんだな。
「一応何の用かだけでも聞いていいか?」
「水の国との友好を結んでもらおうと思ってな」
「ほう、それはまた急だな」
フラードはノックをすると部屋に入り俺も入る。王様は俺を見るなりすぐに立ち上がった。
「おぉこれはこれは、何かあったかの?」
「ちょっと頼みがあってな……ってあんた、前よりずいぶん元気そうじゃないか?」
「本がなくなってからすぐに力が戻ってきましてのぅ」
「あの本の効果だったのか、王子が毒を持っていたのかはわからんが王はこの通りすっかり元気だよ」
「それなら話も早い、水の国と友好を結んでくれ」
王様は俺の言葉に少し驚いてみせたが、フラードを見ると何か察したのかお互いが頷き合う。
「念のため聞くが、お前が国に関わるってことは水の国で何かあったんだな?」
「あったというよりもこれから起こる。まぁせっかくだし教えるよ」
俺はサーニャさんが海賊にさらわれ、助けたついでに水の国が危ぶまれていることを説明する。二人は口を挟まず真剣に聞いていたが、話を聞き終えると納得した様子で頷いていた。
「やはり本の影響がでていたか」
「で、あんたらはどうする?」
「こちらに選択権はないのだろう?」
「まぁな、だが正直俺も面倒ごとには関わりたくない。表向きだけの友好でいいし、なんなら俺の目が届かなくなったら裏切ってもらってもいい。そのことに関しては一切干渉しないと約束する」
「そんなことしたら戦争が起こるぜ……これ以上面倒ごとが増えるのは勘弁だ」
「そうじゃな。それにこれほどの好条件、ほかにないじゃろう」
「あんたらに利はないように思えるが?」
「水の国に粗相をしたのはこっちなんだ。今更ごめんなさいと頭を下げて友好を築こうなんて無理な話だし、王子の一件で商人たちの足が遠のいちまってな。どうしたもんかと頭を悩ませていたところだ」
「ふ~ん、何にせよこの国は友好を結ぶのに問題ないんだな?」
「さすがに一方的な不利な条件をつけられたら考えもんだがな、お前なら大丈夫だろう」
ごねるようならちょっとだけ痛い目をみてもらおうと思ったんだが……。あまりに都合よく話が進み特に話すことも無くなってしまった。
「それではすぐに書状を準備する。それまで二つほどお願いがあるのだが、聞いてはもらえぬだろうか?」
「なんだ? 厄介事なら受けないぞ」
とまぁ言ってはみたものの、暇だしそれほど大変なことでもなければ受けてもいいだろう。
「一つは儂の直属の護衛たちが君に礼を言いたいと申しておってな。いつか訪れた日にはすぐに知らせると約束しとったのじゃ」
「礼を言われるようなことをした覚えはないんだが……で、もう一つは?」
「それは、王子についてじゃ」
ふむ、これに関しては何の用か知らないが関わってもろくなことがないやつだな。今、王子がどういう扱いを受けているのかはわからないが、俺にはもう関係のないことだ。
「あ~そっちに関しては却下で」
「まぁ待て、話を聞いてやるくらいいいだろ」
「なんのことかわからないが、許してくれとかそういう話だろ? 俺は許さない、だがあんたらが許してやってくれというのであれば勝手にそうすればいい」
少し語気が荒くなったが今更失礼もくそもないだろう。そんな俺に対し口調を変えずただ真剣な表情でフラードは俺をみる。
「いや、逆だ、許さなくていい。王子を殺してやってくれ。これは王子自身の願いでもある」
「…………なんだって?」
「息子は目を覚ますと、今までのことを一晩中悔やみ続けた。もちろん表立った罪状はないが儂らとしてもなかったことにはできん。牢に入れてからというもの……処罰を決めかねておったのじゃ」
「自分が幽閉されておきながら、いざとなったら処罰の一つも決められないとはな」
「気持ちはわかるがそうあたるな。王も色々と考えた結果なんだ。王子をいきなり処刑にすれば近隣国の不信感をあおる、そうすればこの国の民は生きていけなくなってしまう」
「ならそのまま大事に甘やかしていくんだな」
「残念ながら当の本人がそうもいかなくてな。牢に入ってからずっと、迷惑をかけたお前かリリアちゃんに殺されたいと言い続けている」
俺はすぐに予想ができた。最後まであいつは俺たちを巻き込みたいんだ。
どうせこのままなのであれば、俺かリリアに自分自身を殺させることによって、罪悪感を少しでも残してやろうと……少しでもみんなの記憶にへばりつこうとしているんだろう。
ふと、なぜだかわからないが俺はそういうことを考える人間に会ってみたくなった。いったい何を思い、何を考え感じているのか。俺はフラードにとりあえず会ってみるとだけいい案内を頼んだ。