82話 『唯一無二』
朝起きると俺たちはラカムに呼ばれ、全員外で朝食をとることにした。海賊たちが手際よく料理を運び並べていく。朝から肉が並んでるあたりさすがというかなんというか。
「で、何か浮かんだ奴はいるか?」
「私たちは何も……」
結局何もいい案がでなかったのか、リリアたちは少し落ち込み気味だ。対する俺たちはというと――
「ねぇ、これってもう少しちゃんと焼いたほうがよかったんじゃないの?」
「クゥ~?」
「いや、これは……燻製か!」
「何それ?」
「燻煙っていって、物を燃やした煙で調理する方法があるんだ」
「煙って……なんでわざわざそんなことをするんだよ、味が落ちるだろ」
「んー確かに新鮮な生肉と比べると癖はあるが、燻製にすると保存が効くし色々と利用しやすいんだよ」
「やけに詳しいじゃねぇか。そんじゃ、そんな余裕のあるお前さんらは何か案はでたのか?」
気にも留めずあれこれ見回るミントとルークに変わり、俺は軽く頷く。
「あぁ、やっぱり俺が思いついた案でよさそうだ」
「レニ君!? む、無理しなくてもいいんだよ?」
「大丈夫、それにたぶん……これしか方法はない」
「ほう? それじゃその自信たっぷりな案を是非とも聞かせてほしいねぇ」
「まずは飯を食ってからでいいだろ。こんな美味そうな料理を出してもらってるんだ」
というか早く食わないとミントとルークがフライングしてしまう。食えるときはちゃんと食う、それが二人の作法みたいなもんだし。
「ま、それもそうだな。話はあとにして飯にしよう」
「私たちにもあとでちゃんと教えてよ」
「フィル、心配するな。サーニャさんにとっても悪い案じゃない」
なんだかんだ不安が残りつつも、飯を食う頃にはみんな感想を言い合い賑わっていた。部下たちも満面の笑みで盛り上がっている……男は単純というが、それでいいのかもしれない。
食べ終わるとリリアとサーニャさんが片付けを始めたため俺たちも手伝う。フィルは海賊たちに任せればいいと言っていたがサーニャさんに説教され、渋々みんなに混ざり片付けを始めた。
「すまんな、手伝ってもらって」
「こちらもお世話になっていますから」
「やっと終わったぁ……ねぇ、そろそろいい加減に話してよ」
「それもそうだな、みんなも揃ったことだし話そう。俺が考えた方法はだな――――砂漠の国と水の国を友好国にするんだ」
俺は溜めにためて、たぶん伝わらないと思うくらい簡単に説明した。これはミントが考えた遊びだ、そして案の定、みんなはいい反応をした。
「はっ?」
「あの……それができないから……」
「レニ君……」
「リリアちゃんごめん。こいつ、バカなの?」
四人の反応をみたミントは爆笑し、俺も若干笑いを堪えるので必死だった。
「あーはっはっはっは! バカだってさ、君のことわかってるじゃん!!」
「くくくっ…………ミ、ミントの言う通りだったな……ブフッ」
「ちょ、ちょっと笑ってないでちゃんと説明しなさいよ!」
さすがに意味がわからなさすぎたのかフィルが怒り気味になる。それすら気にせずミントは爆笑してたが、さすがにちゃんと説明しなきゃいけない。
こういうときはちゃんとメリハリをつけることが大事だ。ミントもいい加減笑うのをやめなさい。
「みんなすまない、あまり詳しく言うと長くなるから結論だけいうとそうなるってことなんだ」
「何かあるんだな?」
「あぁ、それを今から説明する」
「びっくりしたぁ」
「初めからそう言えっての……」
「フィル、あなた段々口が悪くなってきてない?」
俺はさっきまでの悪ふざけを謝罪し、まじめに説明を始めた。
「水の国の問題は隣国に対する脅威にどう備えるかということだろ? だから砂漠の国を友好国とし隣国に力を示す必要があったわけだ」
「えぇ……ですが縁談も切れてしまい砂漠の国とは」
「そこだよ、サーニャさんはあの国で起きていたことを何も知らないだろ?」
「な、何かあったんですか?」
「サーニャさん、ごめんなさい……縁談が切れたの、私のせいなの」
リリアが頭を下げる。リリアのせいかと言われると難しいところだな……。責任の所在をいえば予言の本のせいとも言えるし、あそこにリリアを飛ばした何者かのせいともいえる。
「勘違いしないでほしいんだがあのときは状況が状況だった。俺たちがついたとき、砂漠の国ではある事件が起きてたんだ」
「なんだそりゃ、俺は王子が突然婚約を破棄したとしか聞いてねぇぞ」
「私も……理由もなく急に国へ帰れって」
「いったい何があったっていうのよ」
「それはな――」
俺は砂漠の国で起きていたことを説明した。リリアに関しては記憶を失い、はぐれていたとだけ説明し俺たちが過去からきたということは黙っておいた。言ったところで騒がれると面倒だし、ならば余計なことは言わないほうがいい。
「全然知らなかった……リリアちゃんも大変だったのね」
「やけに王子が好き勝手してるとは思ったがまさかそんなことがあったとはな」
「でも、そんなことが起きてる状況で友好なんて結んでも意味がないじゃない」
「とっくに解決したよ」
「「「えっ?」」」
おぉ、見事に三人が揃った。ちょっと面白くて笑いそうになったが我慢しなければ…………後ろでまた笑い始めたミントのせいで俺まで笑ったら完全にバカにしている空気になってしまう。
「色々あったんだけどね、レニ君が助けてくれたの」
「助けたって……リリアちゃんをでしょ?」
「ううん、私も王様も、みんなを助けてくれた」
「あ、あんたいったい何をしたのよ……?」
「リリアを助けるついでに国を救った感じになっちゃってな」
あそこにいなかった三人は納得できないような雰囲気だったが、とりあえずそういうことで納得したであろうラカムが手をあげ質問をする。
「あー……一ついいか? とりあえず国を救ったことに関してはわかった。だがいくら恩人のお前さんの頼みだといっても、はいそうですかと聞くとは思えねぇんだが。王にとっても国の体裁ってもんがあんだろ」
「そうだよ、もしかしてリリアちゃんを差し出すとか言うんじゃないでしょうね?」
「そんなことしないよ。リリアに関わったらどうなるか、王様が一番わかっているからね」
「それじゃあいったいどうするの? 頼み込んでも王様が聞いてくれなきゃ……」
「だから友好国になってもらうんじゃない、するんだ。ちょっと俺はあそこでやらかしていてね……あの国にとっての脅威といえば俺自身なんだよ」
三人はまたもや何のことかさっぱりだと顔を合わせていたがリリアだけは反応した。
「でもそれって国に関わっちゃうんじゃ……!」
「大丈夫、ちょっとお願いに行くだけだ」