81話 『例外』
「で、君は何かあるみたいだね?」
「…………一応な」
ミントは俺にまっすぐ声をかけてきた。妖精だからか? 俺の考えを読んでいるんじゃないかと思うくらい察知するのが早い……だが、俺が思いついた解決策は…………。
「や、やっぱりほかに方法がないかもう一度考えようよ!」
「いや、こいつが何か知ってるんじゃないのか」
「あっ……ほら、そろそろ眠くなってきたし、一晩眠れば何かいい案が浮かぶかもしれない。それでもダメなら聞いてみよう!」
さっきは雰囲気で反応してしまったがこれ以上首を突っ込むべきじゃない。みんなも期待の表情から実は何もなかったんじゃないかという疑念の表情へと変わっていった。
「とりあえず今日のとこは寝るとするか……お前たちは全員ここでいいか?」
「そんなのダメ! サーニャに何かあったらどうするの、別の部屋を用意して!」
「私は平気だけど、リリアちゃんに迷惑でしょうしほかに部屋はありますか?」
「な、な、何を言ってるんですかサーニャさん!」
「あーはいはい。もう一部屋用意させるからあとは勝手に決めてくれ」
女性陣と俺はさすがに離したほうがいいだろう。ミントは……妖精だからセーフなのか? まぁ割り振り的には俺とミントとルークだな。
「ご、ごめんね」
「気にするな」
「フィル、これが別れというものよ……」
「別れ? 明日また会うだろ?」
「も、もうサーニャさん!」
「はははっ、それじゃあ何かあればすぐに呼んでくれ」
「うん――おやすみなさい」
「あぁ、おやすみ」
俺たちはキャーキャー騒ぐ女性陣(主にサーニャさん)を背に案内された部屋に移動した。
「で、さっき何を思いついたの」
「ミントって人の心が読めるのか?」
「そんなわけないじゃん。君は顔に出やすいからね、みてればわかるよ」
「え、まじ? ルーク、俺ってそんなにわかりやすいか」
「クゥ? ククゥー」
どうだろ、わかんないと反応するルークをみて俺は話題をそらす。正直、この件はこれ以上関わらないでさっさと逃げ出したい。国同士の面倒事に関わるとろくなことがないからな……。
「で、さっきは何を思いついたんだい」
「あー……まぁ……たいしたことじゃない」
「なんだ、僕じゃ頼りないっての?」
「いや、そういうわけじゃない」
俺は仲間だけ……リリア、ルーク、ミントを守れればそれだけでいいと思うことにしていた。だが現実は都合よくいかない、神でもない俺はみんなを守り切れていないどころか職業の力で一人だけ安全地帯にいる状況だ。
「あのさ、もう少し僕らを頼ったらどうなの? 君は確かに強いし頭もキレるけど、妖精の僕からみれば赤子も同然、そこらの子供と変わらないんだよ」
砂漠の一件以来、気づけば俺は独りよがりになっている自覚はあった。しかし、わかってはいてもたまたま力を得た精神が、それを認めたくないと…………精神年齢13+38歳、還暦近いおっさんが改めて遅めの反抗期を実感した瞬間だった。
俺の職業は万能チートではないということを自分に言い聞かせなんとか頭を冷静にする。
「それもそうだな……ちょっと聞いてくれるか」
「素直に最初からそう言えばいいのに……ってなんか最近の僕、説教臭くなってない? 年寄り臭くなったなんて嫌なんだけど」
「そういえばミントっていくつになるんだ? 妖精だから俺たち人間より長生きなんだろうけど」
「君たちが短命すぎるんだよ! もうそんなことはいいから早く教えてってば!」
「クゥ~」
ルークも気になるようで一緒に聞こうとしたがミントは拒絶したため俺は話を戻すことにした。
「すまんすまん、それで今回の件に関してなんだがな……要は軍事力が問題で隣国の脅威に怯えてるわけだ」
「そうだね。砂漠の国だって予言の本のせいでボロボロだと思うし、今更水の国と仲良くしろなんて無理だろうからね」
「なら表向きだけでいいから、水の国と砂漠の国を友好国にしてしまえばいい」
「だからそれができたら苦労しないって…………あっ」
ミントは何かに気づいたのか俺を指差し、そして開いたままの口で言葉を放った。
「……いた」
「その通りだ。砂漠の国にとって現時点での一番の脅威はなんだ? 予言の本はもうない。海を挟んでいるため隣国の脅威も低いし、モンスターだってあの辺なら手練れの一人もいれば安全だ。そう、あの国にとっての一番の脅威――――それは俺自身なんだよ」
「確かに……だったら追加で恩を売るにもちょうどいいし最高じゃないか」
「いや、こっちからお願いするんだから借りを作ることになるだろ? 旅の邪魔になるからできるだけ借りを作るようなことはしたくなかったが……」
それを聞いたミントは眉を顰めると呆れたようにため息をつく。
「やっぱり君もまだまだ子供だね。よく考えてみなよ。あの国を、王様を救ったのは誰だ? ほかでもない君なんだよ」
「俺が? ……散々荒らしたあげく国を消し去ろうとした相手だぞ」
「王様が牢に閉じ込められていたとき言ってただろ。王子をとめろ、予言の本を燃やせって」
「そうは言ったが……さすがに無理があるんじゃないのか」
「結果的にいえば国は無事、王子も止めることができ予言の本も破壊した。何もできなかった王様からすればこれ以上の成果は望めないほど上出来だったんだ。だから君があの国に対して借りを返してもらう権利はあるのさ」
「そ、そんなもんなのか?」
「国ってのは個人の私情じゃ動かせないんだよ、普通は。君という存在だけが例外なんだ」
本来ならばこの世界にいないはずの……か。これが運命なのか偶然なのかはわからないが――
「そういうことなら利用するしか手はないな」
「まったく、君はいつもどこか抜けてるというか……ま、そういうところが面白いんだけどさ」
「ははは、精進するよミント先生」
「クゥクゥ~」
「うわッ!? いきなり舐めないでよ、せっかく綺麗にしたのに!」
ルークに舐められたミントは狭い部屋を逃げ回る。いざ話してみれば、なんかあっさり解決しそうな気がしてきた……。
ことがことだから俺が難しく考えすぎてたわけでもないとは思うがミントに助けられたな。
少しだけ軽くなった気持ちで騒ぎ立てる二人を落ち着かせると俺たちは横になった。