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79話 『生産職』

 夕食になるとサーニャさんの熱心な説得(?)もありフィルは俺たちへ正式に謝罪した。それもあってか、女性陣は三人とルークで仲良く夕食を取っている。海賊たちは長いこと華がなかったのか、リリアたちへ次々と料理を運んだり飲み物のおかわりを聞くふりをして話せないかと挑戦していた。


 大半がフィルに拒絶され、王女は船長が狙ってると噂になっており、そして――――



「俺、あの綺麗な髪の子に声をかけてみようかな」


「お、おいやめとけ! あの子はお頭を一発で倒した少年のこれ(・・)だ……下手に手をだしたら、全員四肢をもがれドラゴンの餌にされちまう」



 男は小指を立て声をかけにいこうとする男を必死に止める。



「ま、マジかよ、でもせめて死ぬ前に一度だけでも……無理かぁ……俺たちに春がくるのはいつになるんだろうな……」



 妙な勘違いが広がっているが……まぁ抑止力になっているのであればそのままでいいか。そんな感じで俺たちも飯を食っているとラカムがやってきた。



「騒がしくてすまんな」


「いや、このくらい大丈夫だ」


「海賊ってよくあんなに騒げるね。僕たちのこと、もっと警戒するとかないの?」


「俺たちはいつも生きるか死ぬかのその日暮らしだからな。俺が負けた時点で本当なら全員死んでいた。それに、昨日の敵は今日の友ってやつさ」



 どうせ死ぬなら精一杯その日を生きようってことなのかな? そんな重く考えていないのかもしれないが、さっぱりとした海賊たちを見ると今を生きているというのが伝わってくる。未だ警戒してる俺たちのほうがバカに思えるくらいだ。



「いや~しかし、お前ら全員、見た目の割りにとんでもない強さなんだな」


「何言ってんの……おっさんも異常な強さじゃん。【裁縫師】って聞いたけど絶対に嘘でしょ」


「いや、間違いない。昔、腕を買われて城に勤めていたことだってある」



 嘘をついているようには見えないが、一応俺はラカムをみた。


【ものまね士:状態(裁縫師)】


 嘘ではないな……いくら強いからといっても無傷でミントとリリアを相手にできるのは、よほど魔法使いにとって相性が悪くないとできないはずだ。それが戦闘職じゃない裁縫師が追い詰めるなど……にわかには信じ難いが。



「なんか秘密があるんでしょ、せっかくだから教えてよ」


「あぁ? 秘密というほどのもんじゃねぇよ。職業ってのはあくまで個性、それをどう扱うかは本人次第ってやつだろ」


「それと何が関係してるんだ? いくら裁縫師が剣士になろうとしても本物の剣士には勝てないだろ?」


「あ~そこからか。まぁお前たちの年齢なら知らないのも仕方ないわな……よく考えてみろ、ただ布を切って縫い合わせるなんざ誰でもできる。それじゃあ裁縫師ってのはなんだ」



 少し授業のような雰囲気でラカムが質問してくる。今まで深く考えたこともなかった疑問に俺とミントは真面目に答えた。



「早く作れるとか? ほら一瞬でシュバババッ! って」


「一瞬でっていうのは確かに無理があるが、練習すりゃある程度速さなんざカバーできる」


「形が綺麗に作れるとか……ほら、城に呼ばれるくらいだから結構な服やドレスを作っていたんだろ?」


「形も一緒だ。練習すりゃある程度はうまくなれるし、いいか悪いかなんてもらう側の意見だろ。それに絵師であればデザイン画を描けるしな」



 ん~言われてみれば確かに……。俺やリリアはちょっと特殊すぎてほかと比べることができなかったからな。



「もう、さっさと教えてよ」


「落ち着け、自分で考えるってのもこんな世の中じゃ大事なことだ。ヒントをやる――生産職と言われる職業と、戦闘職の違い、それはなんだ」



 物が作れる……は、さっきラカムがいったようにやろうと思えば誰でもできる。


 逆に考えてみよう、戦闘職にあって生産職にないもの……俺は過去に出会ったタイラーさん、ソフィアさん、そして師匠(ローラさん)を思い返した。タイラーさんは見るからに体が強靭で、戦ってる姿をちゃんとみてはいないが剣を持っていたから戦闘職だろう。


 ソフィアさんに関してはミントに負けず劣らずの強さだった。努力を重ねてあそこまで至ったと聞いたが……逆に師匠に関してはどうだ? ドワーフではあったが女性で体は普通。だが、あのときモンスターを倒し、ルークにすら警戒されていた。ルークが最も警戒したもの……それは……。



「わかった、スキルだろ! 剣士や僕らは魔法や攻撃用のスキルを使えるけど、生産職が攻撃スキルを使ってるところは僕の中じゃ見たことがないからね」


「ほう? いいところに気づいたが、残念。そこじゃないんだ」


「もしかして、制作物に対する身体能力や性能の向上……いや、付与といったほうがいいか」


「なぜそう思った?」


「俺の師匠に一度マントを借りたことがあった。体が軽くなるものだったが、あんなもの戦闘職がいくら真似しても作るなんて無理だ」


「え、そんなことできるの?」



 俺の話を聞いたミントが疑いの目でラカムをみてると頷く。



「正解だ。俺たち生産職の真髄は制作物に力を付与できること。もちろん、使う素材と作り手次第で様々だがな」


「それがなんで裁縫師である君の強さになるんだよ」


「まだわかんねぇか? 俺の服は自前だ、身に着けるものすべてに身体能力の向上や耐性を付けてある」


「な、なんだよそれ!? ずりぃー!」


「といっても、今はあちこちボロボロで辛うじて立っている状態だがな」


「全然平気そうに見えるが……回復したんじゃないのか?」


「多少はな、だがお前さんの一撃は骨を砕き内臓までダメージがあった。今はほとんどの服を体の補助に使っている。あとは……部下たちに無様な姿をいつまでも見せるわけにはいかないからな」



 そういってラカムは苦笑いする。師匠ですらあれほどの才能でも努力を続けていた……この人も相当な苦労があったんだろう。

 なんとなくだが、ラカムは悪い奴ではない、そんな気がする。

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