表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/200

78話 『サーニャ』

「あの……ごめんなさい」



 王女は申し訳なさそうに頭を下げ、フィルは顔を抑え俯いていた。ここで俺まで怒っていたら話が進まない。社会の荒波にもまれていた頃をまさか感謝する日がくるとはな……。



「いや、止められなかった俺のせいでもある。それよりあんたとその子はどういう関係なんだ?」


「フィルは私が子供のときに出会ったセイレーンなんです。歌を聴いても影響を受けない私はフィルの歌をたびたび聴かせてもらってました」


「何か対策でもしてたのか?」


「いえ、それがわからないんです……」



 魔法の耐性が高いとか? でも魅了は精神に対する攻撃だ。ドラゴン並みの精神や意思がなければ対策しない限り防ぎようはないはず。疑問が解けないまま話を進めていくと部屋の扉がノックされる。



「おい、入っていいか」



 この声はラカムか、何か企んでいることはないだろうが用心しておこう。俺は扉から見えずらい位置へ移動した。



「ゆっくり入れ」


「わかった」



 ラカムは言われた通り静かに、そしてゆっくりと入ってくる。結構重傷だったはずなのに回復の早い奴だな。



「夕飯前にちょっと話を――っと、人数が減ってるようだが」


「気にするな、外に出てるだけだ」


「そうか、まぁ騒がしくなくていいかもしれん」


「で、話っていうのは?」


「そうだな……少し長くなるから座ってくれ」



 そういうとラカムは先にその場に座ったため、俺たちも適当な場所に座った。



「まず一つ、お前はサーニャ姫を国に連れ戻してどうするつもりだ」


「別に何もしない。爺さんにサーニャさんを連れて戻るとしか約束してないからな」


「あの国が近いうちに滅ぶとしてもか」


「何?」



 内戦でも起きているのか? 爺さんは何も言ってなかったが……きな臭いな。補足するようにサーニャさんが口を開く。



「ラカムがいうには砂漠の国との縁談が切れた今、水の国の資源を狙った隣国が攻め込んでくるというのです」


「そんなの戦うしかないだろ? 今まで攻められてなかったんだ、多少なりとも力はあるはずだ」


「昔だったらな。だがある程度力をつけてきた隣国の連中は弱った瞬間叩きにくる。今はその一手をどの国がやるかの探り合いさ」



 なるほど、最初を防衛したところで二回三回と攻められればいずれ落ちる。援軍もないとわかればなおさらだ。



「それでもサーニャさんは戻りたいんだろ」


「…………」



 サーニャさんは無言だが頷く。それをみたフィルはまた慌てだした。



「いっちゃダメ! サーニャはここに残ればいい、この男も残ってほしいっていってたでしょ!」


「フィル……なんでそこまでこだわるの?」


「そ、それは……」


「俺が説明する」



 ラカムがそういうとフィルは話を止めようとしたが、サーニャさんに強く制止されると、しぶしぶその場へと座り直した。



「サーニャ姫はセイレーンの血を引いている。そしてそれは……王家が隠してきた秘密でもある」


「えっ…………」



 突然の話にサーニャさん自身も茫然としている。フィルは知っていたのか黙り込んでいた。セイレーンの血筋……だからフィルの歌も平気だったんだな。



「でも、フィルがサーニャさんを守ろうとしてることに何の関係があるんだ」


「それにはサーニャ姫の過去を話す必要があるが……いいか?」


「構いません。私は国のことを何もしらない、ならばせめて自分自身のことくらいは知っていたいのです」


「いい覚悟だ。安心しろ、国の秘密も知ることになる」



 そういうとラカムは語り出した――――



 サーニャ姫が職業を授かり数日後、城では祝いのパーティが開かれていた。俺もそんとき両親の都合で城にいたんだが、ガキが城でやることなんてほとんどない。暇になった俺は城から町を見下ろしていたんだ。すると横に初老の爺さんを連れた女の子がやってきた。

 そう、サーニャ姫だ。俺は面倒事が嫌いだったからな、その場から気づかれないようにゆっくり離れて隠れた。小さな体で精一杯背伸びし、城下町を見下ろしたサーニャ姫はこういった。



「みんな……私のことをお祝いしてくれたの?」


「えぇそうですとも。職業を与えられるというのは神の祝福ともいって、お嬢様も神様に祝福されたのです」


「そうなんだ……ねぇ爺や、私はみんなにも幸せになってほしい!」


「お嬢様はお優しいですね。きっと素晴らしいお姫様になれますよ」


「うん! そうだ、うまくできるかわかんないけど」



 そういってサーニャ姫はその場で歌い出した。誰もが知ってる簡単な歌だったが、なぜかそれは異様に響き――気づけば城、そして町中の人間が聴き入った。

 俺はたまたま正装として家でつけられたアクセサリーが精神異常に強いものでな、すぐに異変に気付くことができた。


 城にも何人か異変に気付いた者がいて、すぐにこのことは王様へと伝えられた。サーニャ姫は眠らされると記憶も曖昧になっていたパーティの参加者には、まだ子供だからと説明されお開きになった。


 それ以降、サーニャ姫は歌うことを禁じられ、国内でもそういった行事はすべて指定の人間、場所以外で歌うことは禁じられた。




 ラカムはそこまで話すと一度体をほぐし区切りをつける。



「そんな……歌は私にとって特別なものになったから、許可された場所以外では歌ってはダメだと……」


「歌う施設はすべて耐魔を施してあった。そこから国の秘密に繋がるんだが」



 ラカムが続けようとしたとき、扉がゆっくりと開かれリリアたちが帰ってきた。



「あ……ラカムさんもいたんですね。部下の方が夕飯はどこで食うのか聞いてきてくれって」


「お、もうそんなに経っていたか。続きは飯のあとにでもしよう。お前らはどうする? ここに持ってこさせることもできるが」



 ここまで話をして今更毒を盛るなどしないだろうが……そんな俺の心配を察したのかラカムは立ち上がる。



「毒を盛るなんざしないが……なんなら外で全員一緒に食うか? 全員同じ鍋で食えば少しは安心できるだろ」



 なかなかいい提案だった。確かに同じ容器から食べればピンポイントで毒をもられる可能性も減る、食器なんかはミントにその辺の木で作ってもらえば安心だ。



「それじゃ、そうしてもらえるか」


「おう、あいつら(部下たち)も仲間内でばっかりだったからな。少しうるさくなると思うがそこは勘弁してくれ」


「わかった。ただし、俺たちに酒は無しだぞ」


「わかってるよ、俺も酒は飲まん。そんじゃちょっくら伝えてくるからまたあとで呼びにくる」



 そういってラカムは部屋を出ていった。戻ってきたリリアは申し訳なさそうにしている。



「リリア、フィルも色々と訳があったんだ。許してやってくれないか」


「あ、あれは私が悪かったから……」



 そう言いつつも、まるで俺は大丈夫なのかと言わんばかりに見つめられたが、俺は問題ないと少し微笑んだ。ミントはフィルとリリアを見比べながら口を開く。



「こうして反省してるってのに、どっちが子供かわからないよ」


「……ッ!」



 フィルはミントを睨みつけたが、すぐにサーニャさんに睨まれると俺とリリアの前に無理やり連れ出された。



「最初に突っかかったのはあなたよ。理由はどうであれ、相手がこうして反省しているのにあなたは謝ることもできないの?」


「わ、わかったわよ! 謝ればいいんでしょ謝れば! か、髪のこと……ごめん」


「ほらもう一人いるでしょ。あなたがなんで叩かれたかわからないの?」


「ほ、本当のことをいっただけじゃないか」


「あなたは本当にバカね……いい? 年頃の女の子が男の子のためにあんなに怒ることができるなんて、愛があるからなの」


「ッ!?」


「愛?」



 話を聞きまじめに悩むフィルと、無言で逆毛が立ちそうな驚き方をし、みるみるうちに顔が赤くなっていくリリア――サーニャさんってロマンチストなのか?



「サ、サーニャさん! も、も、もう十分です! フィルさんも、私怒ってませんから!」


「いいえ、この際フィルにははっきり教えないといけません! いいですか、そもそも男女がお互いのために怒れるということ自体が……」



 サーニャさんの話は続き、フィルが話を聞きながらうんうんと頷いている。止めることをできなかったリリアは真っ赤になった顔を静かに両手で隠しルークの体にもたれかかった。



「ルーちゃん……しばらくこうさせて」


「クゥ~」


「君も大変だねぇ」


「ミントがいてくれて本当によかったよ」



 サーニャさんの説教は長々と続き、終わったのは食事の連絡がきたのと同時だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ