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74話 『年の功』

 しばらくミントのあとをついていくと、薄っすらと歌のような声が聞こえてくる――注意深く聞こうとしたそのとき、クマが突然慌てだした。



「クックマ! クマ―!」


「えっ、歌を聴くなって? どういうこと?」


「クマクマ! クマ!」


「歌を聴くと魅了されるって!? じゃあミントはもしかして……」



 どうりでさっきから何度も声をかけたのに曖昧な反応しかしなかったわけか。



「ねぇ魅了の解き方はわかる?」


「クマッ、クマ―クーマー」


「意識をそらせればいいのね。やってみる!」



 ミントの小さな体をさすったり軽く叩いたが反応は変わらない。どうしようこのままじゃ……そうだ、こんなときこそ!



『レニ君、聞こえる?』


『おうどうした?』


『海岸沿いで歌が聞こえてきてね。どうやらそのせいでミントが魅了にかかっているらしいの』


『なんだって……それで、今ミントは?』


『歌のほうにどんどん近づいていってる。あまり近くなっちゃうと私たちも危ないしどうしよう……』


『クマに解き方は聞いてみたか?』


『クマがいうには意識をそらせればいいって。でもミントの体を軽く叩いたりしたけど全然変わらなくて……』


『なるほど…………よし、持っている杖で殴ってみてくれ。遠慮せずおもいっきりな』


『えっ、そんなことしたら』


『大丈夫、ミントはそんなにやわじゃない。それに魅了されて敵になったりしたら厄介だ』


『わ、わかったやってみる』



 急いでミントの前に立ち杖を強く握りしめる。



「……ごめんねミント!」



 私はミントの顔目掛け杖を振った。ミントの顔に杖が直撃し抵抗することなく岩の上を転がる……死んでないよね……? クマは手で目を隠していた。



「痛てててて……あれ? 僕は何を」


「ミント、意識が戻ったのね! よかったぁ」


「えっ、どういうこと? なんかめちゃくちゃ顔が痛いんだけど」



 ミントの頬っぺたは真っ赤に腫れあがっている……黙っておこう……助けるためだったし仕方ない。



『レニ君、ミントの意識が戻ったよ!』


『そうか、よかった。とりあえず歌に関しては耳を塞ぐか聞こえない位置まで離れてくれ』


「この歌がどうかしたの?」


「歌を聞いちゃダメ! この歌を聴くと魅了されるの」


「えっ、それで僕魅了されちゃってたわけ? なんたる失態……よくもやってくれたな」



 ミントが飛び上がり詠唱を始めると一瞬強く風が吹き、歌が徐々に遠くなっていく。


≪ウィンドバリア≫



「ちょっと強めにかけたから、これで気にならないでしょ」


「全然聴こえなくなった……すごーい!」


「僕だってわかってさえいれば対策することくらい楽勝さ。さぁ、いくよ」


「いくって……危ないから離れてたほうがいいんじゃない?」


「何を言ってるの? 大なり小なり危険なんてつきものなんだから、今更変わらないよ。それより早くしないとお姫様の身が危ないんじゃない?」


「じゃ、じゃあレニ君に連絡を」


「それもいらない。君はいちいちあいつの許可をとらないと決められないの」


「で、でも……」


「前から思ってたんだけどさ、あいつは君の保護者かなんかなの?」


「えっ」


昔の(・・)君たちの関係がどうだったか知らないけどさ。あいつ、君とあってから人が変わったように危険なことを避け始めた。出会ったときは面倒くさくて変なやつだと思ってたけど、ふたをあけてみればベヒーモスに突っ込んでいくくらいのバカだったのに。そこが面白くてついてきたのになぁ」



 私と会ってから……昔のレニ君は大人のように賢くて、でもたまにバカなことをしてみんなを驚かせて、でも今のレニ君は……もしかして私のせいで――



「砂漠でもちゃんと話をしなかったでしょ。あいつの隣に立つって、君の意気込みを汲んで特訓に付き合ったのにまたあいつに頼ってどうするのさ。それとも君の決心なんてその程度だったの?」


「私の…………」


「クマ―……」



 少しくらい強くなったからって勘違いしてた。私がどんなに強くなってもいつまでも頼っていたらレニ君はずっと一人だ……それじゃ何も変わらない、自分が変わらなきゃ――変えられない。



「おっと、僕としたことが柄にもないことを、今のは忘れて」


「…………ありがとうミント」


「なんだよ急に……ってちょっと!?」


「クマッ!?」



 私は自分の頬を両手で思いっっっきり叩いた。ものすごく痛かったが、それ以上にミントにはっきりと言われた言葉のほうが痛い――でも、なんだか楽になった。



「さ、いきましょう。まずは歌の主と状況を確認するのよ」


「だからそういって……まぁいっか」



 私たちは歌が聴こえてた岩場の奥へと向かう。大きな空洞があり中にはさらわれた王女と、歌う女性がいた。女性は歌い終わるとお辞儀をした。



「いた……今なら助け出せそうだけど」


「待って、あの女……セイレーンだ」


「セイレーン?」


「鳥人間みたいなもんだよ。今は擬態してるようだけど知性があって厄介な連中さ」



 何やら話をしているため、ミントは魔法を解く。



「いつ聴いても素敵な歌ね」


「ちゃんと聴いてくれるのはサーニャだけだよ。みんなぼんやりして酷いんだから……誘惑だかなんだが知らないけどさ」


「あなたは魔力が強いから仕方ないわ。それよりどうして私をここに連れてきたの」


「そうだった。サーニャ、あなた結婚させられそうになってたんでしょ?」


「……もう破棄になったわよ」


「ほんと!? よかったぁ……でもどうして」


「わからないわ、だけどこれで私には何もなくなってしまった」



 どうやらあのセイレーンが王女様を連れ去るように指示したようだけど……とりあえずレニ君に報告したほうがいいな。私たちがその場を離れようとしたとき、男の声が響く。



「やぁ、元気そうじゃないかサーニャ姫」


「あなたは……」


「貴様、なぜここに!?」


「あの程度の歌で俺を操れると思ったか?」



 セイレーンが動こうとした瞬間、男は足元にナイフを投げつけた。



「おっと、動くなよ。下手に動けば姫様に当たるかもしれん」


「くっ……!」


「仲間にゃお前の歌は厄介だからな。おい、これでそいつの手と口を塞げ」



 男はサーニャ姫に布を投げつける。仲間割れかしら……とりあえず、いったんここはレニ君に報告しよう。

 クマが三人の魔力を覚えたのを確認すると私たちはその場を離れた。

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