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64話 『深層』

「……うぅ……ん……ここは……」



 目が覚めると綺麗な星空が目に映った。体を少しだけ動かすと軽く痛みが走り、記憶が鮮明に蘇っていく。



「そうだ……レニ君とルーちゃんは……きゃっ?!」



 突然何かに顔を舐められすぐに懐かしい声がする。



「クゥ~」


「お、目が覚めた?」


「あっ……あの、あなたは?」



 隣で寝そべっているルーちゃんの背中に、羽をつけた小人が座っていた。誰だろう……ちっちゃいお人形さんみたい。



「あーそっか君は初めてか。僕はミント、見ての通り妖精だよ」


「妖精さん……か、可愛いー!!」


「うわっ?! な、なんだよ急に!」


「あ、ごめんなさい――そうだルーちゃん怪我は?!」


「クルルルルル」


「こいつなら大丈夫、君が思ってるよりも元気だよ」



 ルーちゃんは平気だとばかりに体を動かしてみせる。よかった…………薄っすらと覚えてる記憶のなかで、私ではない私が暴れていた…………あれはいったいなんだったんだろう。



「本当にごめんね……」


「クウゥ」



 もしあのとき――レニ君の声が聞こえなかったらきっと、私は……。



「そういえばレニ君は?!」


「あっちで寝てるよ、夜の番をするからもう少ししたら起こせだって」


「そっか……また迷惑かけちゃったな……」


「あいつ無茶ばっかりするんだもん、大変だったよもう」


「ミントちゃんも強力してくれてありがとね」


「ミントでいいよ……ちゃんなんて子供じゃないんだから」



 どうやらこの子は本当に苦労してたみたい、きっとここまで色々あったんだろうな。



「でもあいつ、少し変わったよなー」


「クゥ……」


「えっ、どうして?」


「君も見てただろ? あのとんでもない魔法――あれ、一人であいつがやったんだぞ」


「えっ……レニ君は一人じゃ魔法は使えないはず……」



 そういえばあのとき……無我夢中だったけど、確かにあれはレニ君がすべて一人でやっているようだった。それに職業を使ったとしても近くに同じ魔法が使える人がいないとダメなはずで……。



「あいつの職業だとあんなことできるなんて思っていなかったんだけどなぁ。しまいにはこの国を消すとか言い出すし」


「えっ……どういうこと?」


「ククゥ…………」


「僕もさすがに冗談だと思ったよ。あいつら(王子たち)を脅すために言った冗談だってね。でも……」



 ミントが寝ているレニ君を見ると、ルーちゃんはなんとなく悲しそうにしていた。



「で、でもこうして無事に残ってるよ? やっぱり何か訳があって……」


「僕が止めたとき、本気でこの辺り一帯を消す気だった。君がもしあのとき止めていなかったら――間違いなくあの町は無くなっていたよ」


「そ、そんなこと…………」



 そんなことするはずがないと言いたい……だけどあのときのレニ君の姿は異常だった。いつもはどこか冷静で大人みたいで、だけど子供みたいに何か企んでいて、失敗しても必死に考えて……。



「ま、それくらい今回は頭にきたんだろう。よっぽど君のことが好きみたいだね」


「クゥ……」


「そうだ、あいつが作った飯があるんだった。これが美味いんだよ、起きたら温めて食べさせろって言われてたの忘れてたよ」



 話題を変えるようにミントが作り置きしてある料理を指し、下に置いてある石に火を灯す。徐々に料理が温まりいい匂いがしてくる。



「ほら、これをつけて食うとすっごく美味いんだ!」


「クゥ!」


「ありがとう……いただきます……」



 食べてみると今まで食べたことがないような不思議な味がした。初めてなのにどんどん口に運びたくなるくらい美味しい……どこでこんな料理覚えたんだろ? もしかして自分で発見したのかな。



「ふ~美味しかったぁ、ご馳走様でした」


「よし、そんじゃそろそろあいつを起こすか」


「待って、もう少し寝かせてあげて」


「別にいいけどさ……僕そろそろ眠いんだけど」


「大丈夫、私がレニ君を起こすから先に休んでて」


「クゥクゥ」


「えっ、ルーちゃんはもう少し起きてるって? ふふ、ありがと」


「それじゃあ僕はお言葉にあまえてお先に、おやすみ~」



 ミントはそういって少し離れたところに魔法で寝床を作り眠りにつく。片付けが終わると石に灯った火がまだ強く、周りを明るく照らしている――ふと自分の体を見ると結構汚れが酷いことに気づく。ルーちゃんの体もよく見ると汚れが多い。


 体を拭けそうなものがないか周りを見てみると箱があり、中をみると毛布などがたくさん入ってて十分使えそうだった。別の箱には私の鞄もある。



「これ、使ってもいいのかな……少し借りよう」


「ククゥ」


「ルーちゃん、少し水浴びして体を綺麗にしましょ!」


「クゥー!」



 火が灯った石を火傷しないように調理道具で持ち、二人を起こさないように少し遠くに離れた。



「よし、ここなら――あっ」



 ふと水面に映った自分の姿が目にはいる。いつの間にか髪がところどころ黒くなってしまっていた。明かりを置き髪を触ってみるが……汚れじゃない……芯から真っ黒に染まっている。



「どうしよう……こんな姿じゃ……」


「クウゥ?」


「ふふ、きっとみんなに迷惑ばかりかけちゃってるから罰があたったのかも……さ、ルーちゃん入ろっか。みんな寝てるから静かにね」


「ククゥ」



 体の汚れを洗い流す。ずっと寝ていたせいか気持ちがいい……ルーちゃんは顔を出したまま静かに泳いでいた。器用だなぁ……私も水の中に入り体を預けると仰向けに浮かぶ、目の前には綺麗な星空が広がっている。


 ――あのとき、レニ君は泣いていた。初めてみた涙――私が泣いているといつも声をかけてくれて、それがなんだか安心して、メユちゃんのときだって自分だけ責めて…………自分だけ? もしかして、今までずっと一人で背負ってきた?


 まさか今回も自分のせいでって思って……? それじゃあレニ君は誰が助けてくれるの?



 誰も――――――


 ――――


 ――


 いや、いた。



「まだ…………私がいる!!」



 あの頃(一人)がどれほど辛いか私は知っている。ずっと我慢しているといつか急に潰れるんだ。レニ君もきっと、あの涙はもう限界だって……心が私に訴えていたんだ!



「ルーちゃん! やるわよ、レニ君を救うの!」


「クゥ?」


「さぁ、そうと決まればまずは綺麗にしましょ! おいで!」


「クウゥ、ククゥー」



 ついつい大きな声になってしまいルーちゃんは静かにとばかり小さく鳴いて近づいてくる。そう、今はルーちゃんもいる……もう一人じゃない、髪くらい何だっていうんだ! 自分のことばかり気にするのはもう……やめだ!

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