表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/200

57話 『不注意』

 まずは予言の本を見つけて内容の確認、そしてリリアの状況把握、あわよくば王子をぶん殴る――よし、とりあえずこれが作戦だ。

 しばらく進むと人の気配もなくなり地下への階段を見つける。実に怪しい……。こんな朝早くから地下にいく奴なんて普通はいないから監視も手薄のはず、調べるなら今だろう。ミントに地下を調べてみようと合図を送る。



「じゃあ先に行くけど、音に注意してよ」


「あぁわかってる」



 薄暗い階段を降りていくと入り口では兵士が椅子に座り居眠りをしていた。ここは地下牢か……。視界の端に見える牢の中の男たちは全員屈強な体つきをしている。この先には何もなさそうだが念のため奥の扉も確認してみるか。


 ミントに合図し、扉の前までいくと鍵が掛けてある。たぶん鍵は看守が持っているんだろう、危険をおかしてまで開ける必要はないだろう。

 興味本位だったのか、ミントが覗き穴から中を調べているととても小さく弱々しい声が聞こえてくる。



「…………誰か……そこにおるのか」



 ミントは驚いて俺をみたが、俺は返事をしないようにすぐ首を振った。病人? もしかして疫病持ちとか? とにかく俺たちは見えていないはずだ。



「……いや、誰でもいい……もしそこにいるのであれば儂の話を聞いてくれ…………」



 ミントが早く帰りたそうに出口の階段を指すが、俺は気になりその場に留まるように合図した。小さいが必死に訴えるような声が聞こえてくる。



「王子を……止めろ…………予言の本を……燃やせ……」



 王子が何かを企んでいる? それに予言の本を燃やせって、この人は本のことを知っているのか。俺はミントと一緒に扉まで近づき極力小さな声で覗き穴に向けて喋った。



「預言の本はどこにある?」


「……祭壇の……下を……」


「んあ? 誰かいんのか?」



 声が響き俺とミントはジッと構え様子を伺った。寝ていた兵士が目をこすりながら辺りを見渡す。



「って誰も来てねぇのにいるわけねぇか。ふぁ~、さすがに徹夜明けはきついぜ…………」



 そういうと兵士は椅子に座りまた居眠りを始めた。ミントが即座に出口の階段を指すと俺は頷きその場を後にした。来た道を戻り人気のない廊下へと戻ってくる。



「祭壇の下って言ってたな」


「本を燃やせとか王子を止めろとか、これってまた面倒ごとなんじゃないの?」


「今更だろ、ついでだと思えばいい」


「……気になってたんだけどさ、君ってもしかしてトラブルメーカー?」


「まぁ、どちらかというと巻き込まれてるほうが多いな」


「だんだん魔族のほうがマシに思えてきたよ」


「ありがとう、さぁ祭壇を探そうか」



 俺たちは中を歩き回ったが祭壇らしきものは見当たらない。それにこの神殿、よく見てみると内部のところどころがあやふやだ……。まるで神殿の外観しか知らない人が作ったように……。

 そしてまたしばらく進むと侍女たちの会話が聞こえてくる。



「ねぇ聞いた? 救いの魔女様、なんでもまともな魔法が一つも使えないらしいわよ」


「そんなので大丈夫かしら……もしモンスターが来たりでもしたら……」


「王子様はまったく気にしてないみたいだけど、王様の言う通り他国に助けを求めたらよかったんじゃないかしら」


「ちょっと! そんなこと聞かれたらあなたも牢屋行よ」



 侍女の一人が失言したと口を抑え、周りを確認する。誰も来ていないことを確認すると別の侍女が口を開く。



「でも、王子様も変わっちゃったわよねぇ。昔はあんなにギラギラしてないっていうか……」


「サーニャ姫ともあんなに親しそうにしていたのにね」


「あのお姫様、私は結構好きだったんだけどなぁ」



 しばらく話し込んだと思うと侍女の一人が手を叩き切り上げた。



「さぁそろそろ仕事に戻るわよ。あなた、祭壇のほうはやった?」


「あー! 忘れてた!」


「あそこもちゃんとしておかないとダメよ」



 あの侍女についていけば祭壇にいけるかもしれない。侍女は外に出ると裏手のほうに向かう。後をついて行くとそこには祭壇の上に小さな台座があり、上には本が置かれ祭られていた。だが警備が一人ついている。



「何の用だ」


「祭壇の掃除にきました」


「わかった、昼には王子様がくるため早く済ませるように」


「かしこまりました」



 侍女が掃除を始めると俺たちは一度神殿の陰に隠れ作戦を練った。



「あの本を燃やせってこと?」


「いや、あの人は祭壇の下だと言っていた。まずは上にある本の中身を確認してから周りを調べよう」


「あの警備はどうするの」


「魔法で氷は創れるか」


「こんなところじゃ、こ~んなちっちゃなものしかできないよ……」



 ミントは指で小さく丸を作った。



「それで十分。いいか、手順はこうだ――」



 俺たちは祭壇に向かう。侍女が横にある灯篭のようなものを掃除し始めたそのとき、俺の合図でミントが小さな氷を作るとそのまま侍女の首元に放り込む。



「ッ?! キャアアアアアアアアアア!!」


「な、何事だ!!」



 よし、今だ! 俺はとっさに祭壇の本を取る。

 表紙には何も書いていない、中を開くと真っ白なページだけでいくらめくっても何も書かれてはいなかった……そしてすぐに後ろから声がする。



「ただの勘違いだろう、まったく……驚かせるな」


「も、申し訳ありません」



 俺はすぐさま本を戻し台座の裏に隠れ、ミントが戻ってくると俺はすぐに体を消した。

 やはりあれは偽物……本物はこの下にあるってことか。次にどうしようか考えていると警備の男が声をあげる。



「動くな!!」


「ど、どうなさいました?」


「……足跡がある」


「わ、私のじゃ?」


「いや、歩幅がまるで違う。静かに歩いたような……見ろ、祭壇に続いている」


「私は一人でここに来ましたが……まさか」


「侵入したやつがいるかもしれん。祭壇を調べる、お前は逆からいけ」



 しまった……致命的な凡ミスだ……。姿は見えないといっても物理的な干渉は受ける、砂であれば靴跡が残ることくらい注意するべきだった。

 ミントが大慌てで左右からくる侍女と男を交互に見ている。くそっ、バレるが無理にでも突破するしか――そう思い身を乗り出そうとしたそのとき、大きな声が響く。



「お前たち、何をしている!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ