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49話 『真実への道①』

「ちょっと大袈裟だったね、例えばその剣に使っている魔封石は魔力を吸い取って発光するんだけど少しでもいじるとただの石となってしまう、でも――」


「その性質を維持したまま剣にした……ってことは吸収と放出までできるようにしたってことか!」


「正確には魔力への干渉を可能にした、もちろん条件付きだけど。彼らは二人で旅をするために剣を作りに来た――どんな敵にも負けない、お互いを助けられる剣を求めていたわけ」



 シンプルだがただの切れ味のいい剣だけじゃ折れたら終わりだ。だからといって重すぎればレイラさんが扱うことは困難、そしてお互いを助けられること。



「いくらなんでも無謀すぎません?」


「普通ならそうだろね。だけどこれを完成させたとき私は父さんと並ぶことができると思った……まぁ結果は見ての通りだけどね」



 むしろひとつの完成形を作ったと思うんだが、職人からすれば結果が全てなんだろうな。ローラさんは気を取り直すように両手を叩く。



「さ~て、それじゃあいつぞやのミスを取り返してくれた恩人君に鍛冶というものを教えてあげよう」


「そんな簡単に教えちゃっていいんですか。父親からの一子相伝だとか秘伝の方法とかあるんじゃ?」


「あーないない。真似できるならしてくれて結構よ、真似されるくらいの技術ならその程度ってことだし」



 ローラさんは立ち上がり食器を片付ける。飯を食ったからなのか、鍛冶のことだからなのか少しテンションが上がっているようだ。



「それじゃあ工房へれっつごー」



 工房には作成途中であろう剣や盾、防具などが置いてあった。そして箱の中から鉄のような塊を取り出す。



「じゃあさっそく作ってみよう」


「もうですか?」


「最初は見てればいいよ、後から同じの作ってもらうから」



 そういってローラさんは炉に火を入れ塊を熱していく。真っ赤になった塊を取り出すと台座に置きひたすら叩き……何度か工程を繰り返すと冷水にいれ研ぎ始める。



「こんなもんかなーちょっと使ってみて」



 まだ柄が取り付けられていないナイフを手渡してくる。ローラさんは角材を持ってくると台に置いた。言われるがままナイフで角材を切ると、切る勢いに何の抵抗も感じずスコンという音とともにナイフは台座に刺さる。



「ッ!? き、切れすぎですよこれ……」


「あっはっはっは! まぁ出来立てだしそんなもんだよ」


「こんなものが世に広まったらどうなることか……」


「それはないよ、ほら」



 ローラさんがナイフを持ち金槌で軽く叩くとナイフは割れてしまった。



「切れ味が上がれば耐久は下がる。耐久をあげれば切れ味が落ちていく。これは鍛冶にとっての基本」


「なるほど……そこからどうするかが鍛冶師の腕の見せ所ってやつですね」


「そういうこと、まずは基本から教えてあげよう」



 俺は鍛冶に関する基礎を学ぶとローラさんと同じ流れにそってナイフを作ってみる。真似しただけあってなかなかのはずだが形が不出来になってしまった。



「ん~想像と全然違う。打ち所も難しいし仕上げの研ぎも繊細すぎる、力加減だけじゃどうにもならないとこがあるな」


「そこまでわかるなら上出来」



 そう言ってローラさんは俺の作ったナイフを持つと研ぎ直しを始めた。さすがに知識や経験までは真似できないからな……俺も辛うじて前世の記憶でここまで来たが実際に打ったことはない。

 漫画やテレビでそれっぽい動きを真似してた時期もあったがまさかこんなところで使うとは思わなかった。



「はい完成ー」



 出来上がったナイフを持ち先ほどの角材で試し切りをしてみる。数センチ入り込んだと思うとすぐに止まってしまった。



「まぁこんなもんか」


「切り方が違うんだよ。みてて」



 ローラさんはナイフを取り同じように切り始めると角材は抵抗なくすっぱりと切れた。



「すごっ……何が違うんだろ」


「完成したものによって切り方が違うのよ」


「そんなことまでわかるんですか?」


「作られたものにはそれぞれ性格があるの」


「性格って……まるで人間みたいですね」


「そうね、父さんは声が聞こえるって言っていたわ」



 噂になっていた鉱石の声ってやつか……あ、もしかしてお父さんが伝説と呼ばれる理由ってそれが一番なんじゃ。俺はハッとするとローラさんは昨日の続きのように話をした。



「父さんは鍛冶をしているときいつも声を聞いていた。その声が真実に導くと――あとは最高の腕をかけてその姿に作り上げればいいだけだって」


「なんかとんでもないこと言ってますね」


「実はね、君のその剣も父さんからの試練だったんだ。真実に辿り着けたら俺と一緒だって」


「真実ですか……なぁ、お前はどうしたいんだ?」



 剣に向かって聞いてみたが反応はない。まぁ正直この剣だってそんなこと言われても困ってそうな気もするけどな。もしかしたら、もうたくさんだ~なんて思ってるかも。



 ――まだやれる――


「えっ、ほかに何かやります?」


「あなたがまだ試したいならいいけど」


「あ、いや今声が聞こえたような……お前がいったのか?」



 まさか剣が喋るなんてことはありえないだろうが……やはり剣を見ても反応はない。



「……君、剣の意思が聞こえた?」


「確かにまだやれるって誰かが」


「…………」



 ローラさんは何か考えるように剣を見つめた。



「何か聞こえます?」


「いいや、何も。だけどなんだろ……この違和感どこかで……あ、あの男が持っていた剣だ」


「オミーネさんのことですか? 確かに剣に心が入っているとは言ってましたが、あれはあくまでも例えなんじゃないでしょうか」


「わからない、だけどこれを知らなければ私は父さんを超えられない気がする」



 直感というやつだろうか、ローラさんは曖昧な言葉や表現を並べたが真剣な表情をしている。



「お願いがあるんだけど。あの男の剣と作った人を連れてきてくれない?」


「聞いてみないとわかりませんが……それにここから里まで遠いし時間かかっちゃいますよ」


「大丈夫、ちょっと待ってて」



 そういうとローラさんは隅に置いてあった箱を開け何やら布のようなものを取り出した。



「これを使って」


「これは……マント?」


「羽織るとそのマントの効果で体が軽くなるの。ただし魔力が必要だけどね」



 素晴らしい、まるでスーパーな男のようになれるアイテムじゃないか! しかし大事なことが一つ足りない。



「あの……実は俺、魔力がまったくないんですけど」


「…………まじ?」


「はい、まじです」


「そんなに使わないんだけど……少しくらいは?」


「まったくないです」



 これにはさすがのローラさんも何度も嘘じゃないかと確認してきた。職業のおかげであんまり意識したことなかったけど、魔力がないってこの世界じゃおかしいんだったな。



「君には驚かされてばかりな気がする」


「ローラさんでも驚くことあるんですね」


「私もまだまだってこと……でもどうしたものか。また歩くのも時間がかかりすぎる……せっかく何か掴めそうだったのにー」


「ん~、俺の魔力の変わりになるものを取り付けられないですか?」


「変わり?」


「ほら、魔封石は魔力を吸ってましたが似たように魔力を溜めておける器があれば」



 ローラさんの魔力を何かに溜めておいてそれを取り付ければ――そんな曖昧な説明をしているとローラさんはぶつぶつ独り言をいい、そして顔をあげ俺を指差した。



「そうか、その手があったか……君天才」



 ローラさんは走り回り何か作業を始める。こういうときは邪魔をせずおとなしく待ってろってことが多いからゆっくり待つとしよう。

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