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48話 『父の背中』

 師でもある父さんの教え――鍛冶師というのは人を見抜き、扱う者の願いを叶えるために道具を作らなければならない。もしお前が誰かに道具を作ったのなら――それは持った者の運命に関わるということ。未熟な者に立派な剣を持たせればいつかそれが仇となり、常に戦いに身を置く剣豪に未熟な剣を渡せばいつしかそれが死線となる。


 ローラさんは、どこか自分にも言い聞かせるように淡々と説明した。言うのは簡単だがさすがに無理があるような……。まるで取引先の、先の先まで読めといっているような、例えがうまく思いつかないがそのくらい無茶なことだと思うぞ。



「さすが伝説と呼ばれる人の教えですね。でも、大変失礼なことを言いますがその教えと研ぎ直しができないのはどういう関係が?」


「簡単なこと。この剣がここにあるということは二人の願いを叶えるほどの出来ではなかった、私にとってこれは失敗作なの」


「そんな……二人はこの剣をとても大事にしていました。そしてこの剣がどれほど素晴らしいものか知っていたからこそ、俺に託してくれたんです」



 失敗作という言葉を撤回させるようと俺は必死になっていく。だがローラさんはそんなことを意に介さず言葉を放った。



「もし、父さんが剣を打っていたなら男の人は死なずに済んでた」


「あれは……変えられない運命だったんです」



 そう、ヴァイスさんは言っていた。占い師にあって自分は死ぬ運命にあると……。だから誰が作ったとしてもそれは仕方がないことだ。



「いや、父さんならその運命すら変えていたはず、だからこそ伝説と言われるまでになったのよ」


「運命を変える? まさかそんなこと」


「本当に運命というものが存在しているのならば何もいえないけどね。あくまでイメージと思ってちょうだい」


「しかし、お父さんにはそう思わせるくらいの何かがある……ということですか?」



 ローラさんはお茶を飲み干すと立ち上がる。



「さ、今日はここまで! もう夜も遅いし寝よー。あ、一応汚れを拭いて綺麗にはしておくから今夜だけ剣を借りるね」



 畳み掛けるようにローラさんは俺を寝室へと案内した。色々と聞きたかったがあまりしつこいと嫌われてしまうもの、こういうときは時間をかけて説得するしかない。

 とりあえず今日のところは寝るとして明日また聞くとしよう。そう思い布団にもぐり込む――しかし、無理に寝ようとしたせいか眠りにつくことができず時間だけが過ぎていった。



「……ちょっと夜風にあたってくるか」



 ローラさんもすでに寝ているはず、起こさないように静かに外へ出ると川のほうに人の気配を感じる。あれは……ローラさん、まだ剣の手入れをしていたのか。



「うーん聞こえない。ごめんね酷いこと言って」



 剣に語り掛けるその姿は少し悲し気であった。自分が作ったものだからこそ思うところがあるんだろうな……。

 なんとか元気になってほしいものだが今はそっとしておこう。



「ふあぁぁ~……あっ、おはよー。早いね」


「おはようございます。さっそくですが今日の予定は?」


「ん~昨日の試作品もダメだったし……今日は休みかな~」


「それじゃあ俺に鍛冶を教えてください」


「えっ、君鍛冶師なの?」


「違いますけど?」


「どうしたの突然」


「だってローラさんがこの剣を研いでくれないなら、俺が自分でやるしかないじゃないですか」



 俺は昨日寝る前に考えていた――研ぎ直ししてもらえないのであれば、俺がローラさんを真似て自分で研げばいいと。まぁそれ以外にも考えはあるんだが。



「…………馬鹿にしてる?」


「していません。あ、そういえば20年ほど前に、ローラさんは間違えて氷雪結晶の欠片を売っちゃったことがありましたね」


「げっ、なんでそれを知ってるの……」


「だって俺、トス爺たちと一緒だった家族に会いましたから。あ、ちなみに子供は無事でしたよ」


「君はいったい何歳よ……まぁいいわ、あの子が無事と知れてよかった」



 やはり悪いとは思っていたようでローラさんはホッとした様子をみせる。これでわざとじゃないということがわかった、あとは理由だな。



「どうして騙すようなことをしちゃったんです?」


「あのときどうしても必要な鉱石が売りに出されててね。その資金に氷雪結晶を売ろうとしてたらほしいって言われて、舞い上がっちゃって欠片だって説明するのを忘れちゃったの。一通り仕事も落ち着いて戻ってきたら大変なことになってるし……もうびっくりだったよー」


「どんだけほしい鉱石だったんですか……」


「魔封石、その剣に使われてる鉱石だよ」



 そういってローラさんは俺の剣を指した。



「そんなに前からこの剣を作ろうとしてたんですか?」


「元々構想は練っていたんだ。私は鍛冶師じゃなく錬金術師だから単純な精製では鍛冶師には勝てない。だから錬金術を使った鍛冶製法というものを考えた」



 きっと秘伝の製法だろう……。うまくいけば教えてもらうことができるかもしれない。



「そ、それは普通のと何が違うんです?」


「それはね…………朝ごはん、まだだったね。何か作れる?」


「今すぐにでも!」



 俺は全力で適当に残った材料を使い朝飯を作った。今日は休みにするって言ってたからじっくり話をできると思うが、絶妙なところで止められてしまうと気になり続けてしまう。

 礼をいうとローラさんは美味しそうに食べ始めたが、俺は心を落ち着かせるため自分にお茶を淹れた。



「手際がいいねー」


「何度も飲んでいますから、それより早く食べて教えてください」


「まぁまぁ、そんなに急がなくても飯は逃げな――うぐっ!」


「何やってるんですか、よく噛まないとダメですよ。しっかり噛んで急いで食べてください!」


「なかなか酷いことをいうね……」



 やっとのことローラさんが食べ終わり、俺にとっては何時間も経ったような気分だったが、ついに話を聞くことができた。



「錬金術ってのはね、物質と物質を混ぜ新しいものを作り出すんだ。みたと思うけど材料さえあればすぐに解毒薬だって作れる」


「作り出すだけなら知識があれば誰でもできそうですけど」


「錬金術の本当の力――それは、この世にないものを生み出せること」

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