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47話 『適材適所』

 原生林のような森を歩き続けると、川が現れその隣には小さな木造の家と工房らしき小屋が立っている。俺が生まれた村と同じくらい綺麗なところだ。

 家と、そしてあれが工房か……。伝説の鍛冶師が使う工房、つまり伝説の工房といっても過言ではないのでは?


 鍛冶師と工房というのは一心同体、鍛冶師がいなければ始まらないが工房の存在がなければ作れるものもつくれない。鍛冶師がいての工房、そして工房があっての鍛冶師ということ……今、そう考えただけだが。



「君、釣りはできる?」


「少しくらいならできますが」


「よ~し、はいこれ」



 ローラさんが木でできたバケツと釣り竿を渡してくる。針には虫の形をした疑似餌が取り付けてあった。



「ちょっと掃除してくるから二、三匹釣っておいて。それが夕飯になるから頑張ってね~」



 ローラさんは手袋をはずしながら工房に入っていく。釣りなんて見様見真似で少しやったことがある程度だぞ……。もしや俺は試されているのか?

 伝説の剣を所有するに値する人間なのかを……。伝説の試練というわけか、やってやろうじゃないか!!



 まずは魚がいそうなポイントを探そう。前世で読んだ雑誌では魚というのは木の根元や岩下、それっぽいところにいることが多いらしい。

 ポイントを絞り釣り糸を垂らす。ウキのようなものも付いていないため、竿の先端が沈む瞬間を待つしかない。

 一見簡単そうに見えるが、呼吸の乱れが竿に伝わると先端が揺れ動くためジッと耐える忍耐力と集中力が問われる。


 俺はひたすら釣りに没頭した……己はこの景色の一部だと思い込み、もはやどのくらい経ったのかわからない……そして…………。



「……どうしよう」



 釣果はというと――めちゃくちゃ釣れた。最初はゆっくりだったがあっという間に釣れまくり、二三匹どころか魚でバケツがいっぱいになってしまった。まさか俺って釣りの才能があった?

 釣り名人気分の俺は、重くなったバケツを持ちローラさんの家へ向かう。



「どうですかこれ」


「うわっ、いっぱい釣ったねぇ。それじゃあ……これとこれと……あとは逃がしてきて~」


「逃がしちゃっていいんですか?」


「必要十分ってやつよ。しかし君、魔力を隠すのがうまいのね」


「どういうことです?」


「この魚は魔力を察知するとすぐに逃げるの。だから二三匹釣れればいいほうかなーと思ってたんだけど」



 なるほど、魔力を感知する魚たちは、まったく魔力のない俺を感知できずにただの餌があるとしか思わなかったわけか……。誰だよ釣り名人とかいったやつは。



「……逃がしてきますね」



 得意げになっていた自分がちょっと恥ずかしい……。さようなら魚君、いい試合をありがとう。空になったバケツと釣り竿を片付けると俺は家の中に入った。



「適当に座ってて。えーっとこれだっけ……違うな、ここ? あっ」



 ローラさんが奥で何やらやっていると突然火柱が上がる。



「ちょッ!? 何やってるんですか!」


「いやー久しぶりのお客さんだし料理でもしてみようと思ってね」


「そ、そんな呑気にみてないで火を止めてください!」


「はははは、そんなに慌てなさんな。えーっと火は……これだったかな」



 ローラさんがまた何かをいじると今度は隣から火柱が上がった。



「点けてどうするんですか!!」


「お~君もそう思ったか。私も点けてどうするんだと思ったところだ」


「もう俺が見てみます!」



 ほんの少しずつ装置を動かし使い方を覚えるとなんとか火を止める。なんであんなに火力強いんだよ、家庭用にしてはパワーありすぎだろ……。



「と、とりあえず収まりました……」


「なかなかやるな、君」


「気を付けてください! 家が燃えちゃったらどうするんですか」


「また作るしかないだろう」



 あ、この人ならできそう……。鍛冶師なのに錬金術師ってある意味万能すぎないか。



「それもそうですね……あの、俺も少しくらいなら料理できるので夕飯作ります」



 もちろん一泊の恩もあるが、家を焼かないためにも。

 ローラさんは食材に関してはなんだかんだ知識を持っていたので、教えてもらいながら料理を作ることにした。色とりどりというわけにはいかないが味はきっと大丈夫……。味見もしたし、漢飯とは見た目より味が大事だ!



「それじゃいただこう」


「はい」



 ローラさんは躊躇することなく料理を口に運ぶ。母さんの手伝いで鍛えていたから大丈夫なはずだが、見知らぬ人に飯を作ると緊張するな。



「うっ……」


「あ、お口に合わなかったですか!?」


「うまーい! 君すごいねーこんなに美味しい食事はいつぶりだろ」



 もう疲れた……。料理にがっつくローラさんをよそに俺はゆっくりと食事をとった。食後に一息つけるとローラさんが話を切り出す。



「それで、剣を研ぎ直したいんだっけ?」


「はい、今持ってきます――これなんですが」


「……やはり見間違いじゃなかったかー。これ、どこで拾ったの?」


「拾ったというか頂いたんです」



 俺はレイラさんとヴァイスさんのことを話すとローラさんも心当たりがあったのか、ところどころ頷きながら聞いていた。



「あの魔族と一緒の子ね。なかなかの腕を持ってたもんな…………力不足だったかー」


「あの二人でも扱いきれない剣だったんですか?」


「あー違う違う、私のほう」


「伝説の鍛冶師と言われたローラさんでも力不足って……どういうことですか」


「伝説と言われていたのは父さんよ。私はまだ修行中、父さんの足元にも及ばないわ」



 伝説は父親のほうだったのか! でもそれなら娘のローラさんも伝説……にはならないな、さすがにそれは無理がある。伝説はそんな簡単なものではないのだ。

 しかし、ヴァイスさんたちのことを知っているとなると剣を作ったのは間違いないはず、作った本人なら研ぐことくらいできると思うが。



「ローラさんでも剣の研ぎ直しはできないんですか?」


「できるけど、無理」



 迷うことなく、俺にそう言い放ったローラさんの表情はふざけた様子もなく、いたってまじめだった。

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