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46話 『伝説の鍛冶師』

 山を登り岩場の多い場所に着くとすぐにルークの鞄から毒消しを取り出しライルに飲ませる。

 ほんの少しだけ落ち着きを取り戻したようだがまだ油断はできない。



「グウゥゥ……」


「あぁわかってる」



 まだ少し距離はあるが目立つように二匹、そして左右から一匹ずつ、一応連携するための脳はあるようだな。岩場だから影が見え隠れしてるが森だったら完全に危なかった。残った爆薬は二つ、まずはあいつからか。

 モンスターが岩場の陰に入るのを待ち導火線に火をつけると、その横にあった大きな岩に投げつけた。爆発が起きるとモンスターを巻き込み岩場が崩れていく。


 よし、これで残るは三匹。爆薬は最後の一つだが、一匹まで減らせればルークだけでもなんとかなるはずだ。



「ルーク、どっちでもいい、正面の二匹に空から奇襲をかけてくれ。そして俺がこいつを投げたら逆のモンスターを頼む」


「クゥ!」



 ルークは翼を広げるとすぐに空へ飛び急降下を始める。気づいた一匹が素早く動いた。そしてその逃げ道を塞ぐように俺は爆薬を投げつける。


 大きな爆発が起きると一匹は崩れた岩の下敷きになり、もう一匹はルークが追い込む形で岩場の陰で戦っていた。

 ルークの唸り声が聞こえると何かが砕ける音が響く……。倒したモンスターを口で引きずりながらルークが岩場から出てきた。



「よし、残るは一匹」



 あとはルークが戻ってくればなんとか凌げる……。今回は危なかった。

 すぐに周りに目をやるが最後の一匹の姿がなかなか見当たらない。いったんライルの元へ戻ろうとしたとき、岩と岩の隙間を高速で動く影がみえた。



「まずい!! ルーク戻れ!」



 ルークが逆方向にいるため自分の力で登るしかなかった俺はその影よりも断然遅い。そして陰から躊躇なく姿を現したモンスターはそのままライルに襲い掛かった。



「まったく、うるさいわね」



 声がするとモンスターは真っ二つに切れ、己が斬られたことをわかっていないのか最初は動いていたがすぐに絶命した。

 岩場の上には鍛冶場からそのまま出てきたであろう恰好をした女性が立っており、手には剣を持っていたが大きな亀裂が入っていた。



「う~んこれもダメか~」


「あ、あの、助けてくれてありがとうございます」


「いいのいいの、それより早く解毒しないとその子、死ぬよ?」


「なッ!? やっぱり普通の毒消しじゃダメだったか!」


「持ってないの? もうしょうがないなぁ、ちょっと待ってて」



 そういうと女性はモンスターの残骸から何かを採取すると今度は草を取り始めた。ルークは戻ってくるなり、なぜかずっと女性を警戒している。

 戻ってきた女性は何かが描かれた布を取り出し地面に広げ材料を置く。



「そいやっ」



 なんとも気の抜けた掛け声をかけると布の上の材料は一つに混ざり合い粉が出来上がった。もしかしてこの人……。俺はその女性をみてみた。


【ものまねし:状態(錬金術師)】


 やはり錬金術師か! 解毒薬を作るのも手慣れているようだったし、なぜ鍛冶師の恰好なんか……。



「これを傷口に塗って、あとは水に入れて飲ませてやって」


「わ、わかった」



 言われた通り、すぐさまライルに治療を施すと呼吸も落ち着き寝息を立てはじめた。ふぅ……さすがに今度は大丈夫かな。

 礼を言おうと女性をみるとルークを興味深い目でみている。


 ルークは後ずさりし警戒感をあらわにしていた。こんなルークは見たことがない……いったいどうしたんだ?



「ほほ~……あなたドラゴンね? それにその鱗、脱皮はまだのようね」


「グウウゥ……」


「ルーク落ち着け。この人は助けてくれた恩人だ」


「あ、もしかしてこれが恐かった? 大丈夫、もう壊れちゃって使えないから」



 そういって女性は持っていた剣をプラプラさせる。ルークが警戒していたのは剣だったのか、自分が斬られる可能性を察知して……。

 あの剣はドラゴンすら斬れるかもしれない切れ味を持っていたということになる。そんなもの作れるなんて伝説の…………あれ、この人ってまさか……。



「もしかして……あなたが追放された伝説の鍛冶師?」


「むむ、追放とは失礼な! あれには訳があったのに誰も話を聞いてくれないんだもん」


「あの、俺はレニっていいます。実はこの剣を研ぎ直してもらいたくて」



 剣を出すと女性は真剣な表情で見つめてくる。



「それ、どこで拾ったの?」


「話すと長いんですが」



 そのとき山の下から呼ぶ声が聞こえ、振り返るとオミーネさんが軽やかに岩場を登ってくる。そして俺の元へ来るとすぐさま剣を抜き掲げた。



「待たせたな! この新しくなった聖剣、エクスカリバーの力をお見せしよう!!」


「あの、すいません。モンスターは全部倒しました」


「何、本当か? ライル君が倒れているがいったいどうしたんだ」


「モンスターの毒にやられちゃって……治療はしてあるので大丈夫です。この人が手伝ってくれました」



 俺は剣をしまい女性を紹介するとオミーネさんは礼儀正しくお辞儀をした。女性はオミーネさんが手に持った剣をずっと見ている。



「私の名はオミーネ、よければあなたの名前を教えてはくれないか」


「ローラよ。ところでその剣……誰が打ったの」


「これは里の少女が直してくれたもの、今までとは振り心地も違うが――心が入っている」


「あなた面白いこというのね。さてと、そろそろ日が暮れるわ、その子を連れて帰りなさい」


「待ってください、ムガルさんからあなたに会う許可はもらっています。この剣をどうか直してほしい!」


「来てもいいけど、その子はどうするの」



 一分一秒でも長く伝説と言われた鍛冶師のことを知りたい俺は、あろうことか頭の中でライルと剣の研ぎ直しを比べていた。



「ライル君は私が里まで運ぼう」


「で、でも……」


「ただし一人だけではきつい。すまないがルーク殿に協力してもらってもいいだろうか」



 ルークはその言葉を聞くと俺の心がわかっているのかオミーネさんのほうへ歩いていった。



「助かるよ、私だけではモンスターがでたときライル君を守り切れるか心配でね」


「…………オミーネさん、本当にありがとうございます」


「気にするな、君と僕の仲だ」


「話はついたかな? それじゃいくよ~」



 俺はみんなと別れローラさんについていった。ひたすら山を歩き奥深くまで入っていく――偏見になってしまうが、女性なのにこれほど足場の悪い山場をモノともせず歩き続けるのはドワーフだからこそだろうか……。普通だったら男でも休憩を挟まずには辛過ぎる。



「君はなかなかタフだねぇ。これならもう少し速度をあげても大丈夫か」


「はい、しっかりついていきますよ」



 どこまで進んでいくんだ……。辺りはもう暗くなり始めている。もしかして俺は試されているのか? だったら残念だが、ローラさんがへばんない限り俺は一生ついていけるぞ。


 目の前に伝説があるのだ、どこまでもいってやる。俺は今、伝説を追うストーカーだ!

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