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44話 『客人』

 オミーネさんは俺と同じでまったく分かっていないようだったがリビアはゆっくりと文字に目を通した。



「確かに……この字はトス爺が教えてくれた字と一緒……」


「爺さんと仲が良かったんだ?」


「だって私のお爺さんだもの」



 えーーー! まじかよ、あの爺さんにこんな子がいたなんて……。世の中ってのはわからないものだな。



「そういえばトス爺は今どこにいるんだ?」


「それが……行方がわからないの」



 行方不明……あの図体だし簡単にくたばるとは思えない、どこかで会えるといいんだが。さすがに二十年も経っていたらあの雪山にはもういないだろう。



「そういえばリビアのご両親はどこにいるんだ?」


「私がまだ子供の頃に亡くなったわ」


「そうか……すまないことを聞いた」


「大丈夫よ、もう慣れたし今は里のみんながよくしてくれてるから」


「ふむ、その歳でしっかりとしているのだな。きっと天国のご両親も鼻が高いことだろう」



 オミーネさんのその言葉は気遣いよりも純粋に感じたことを発しただけだろう……リビアも変に気を遣われたのではないとわかったのか、黙ってゆっくり頷くと木の板に話を戻した。



「うーん……表には世話になったとだけ書いてあるけどどういう意味だろ。裏に書いてあるのはたぶん人の名前かしら? 意図が全然分からない」


「ほかに分かりそうな人っているかな」


(おさ)ならたぶんわかるかもしれない」


「ムガルさんか、それじゃあとで聞きにいってみるとするか」



 なんとなくだが、お世話になったから対応よくしてあげてねってことだろう。別に急がなくてもいいな。



「今すぐじゃなくていいのかい」


「時間はありますからまずは剣をみてもらいましょう」


「それじゃ工房のほうに案内するわね」



 ある程度だが信じてもらえたようだし、遠目でも気になっていたのならばリビアも早く剣を確認したいだろう。外に出てしばらく歩くと扉の閉まった工房に着いた。

 扉にはしっかり鍵が掛けてあり手入れもちゃんとしているようだ。



「今開けるからちょっと待ってて」


「おいリビア! そいつらを工房に入れるつもりか!」



 その声に振り返ると俺と同じくらいの少年が立っていた。リビアは気にしてないようだが……。というか無視してない?



「おいってば! 脅されているんじゃないだろうな!?」


「うるさい。この人たちは大事なお客さんなの邪魔しないで」



 そういって鍵をガチャガチャと鳴らし外し始める。相変わらず素っ気ない態度だが知り合いだろうか。

 オミーネさんは少年の誤解を解こうと前にでていく。



「僕らは剣の修理をお願いしていてね」


「ほかにも鍛冶師はいるだろ!」



 なんか熱くなり過ぎてるし俺も一応フォローしておこう。



「たまたま最初に知り合った鍛冶師(・・・)が彼女だったんだ。何か企んでるというわけでもないから安心してくれ」


「お前、ちょっといいところ見せたからっていい気になるなよ!」



 えっなに、俺にだけあたりが強くない? もしかしてこいつもあれか、リビアのファン?



「君は彼女の友達かい」


「そ、そうだ!」


「ならば友の心配をするのは良いことだが、邪魔をしてはいけないな」



 オミーネさんが大人な対応をすると、少年は何かすごく言いたそうにしていたが、如何せん正論過ぎて返す言葉もないようだ。



「さ、二人とも中に入って――ほらあなたもどうぞ」


「ルーク、周りに気をつけろよ。大事なものがいっぱいだからな」


「クゥ~」


「リビア! 工房は大事なお父さんの道具があるんだろ! そんな奴らなんかに」


「ライルうるさい、邪魔しないで」



 そう言って俺たちが中に入るのを確認するとリビアは扉を閉めた。ん~お年頃の少年少女は難しいからな……俺がやれることは、少年よ頑張れとしかいえない。

 工房の中は綺麗に手入れされており、職人が使っていたであろう道具もきちんと整理されている。



「それじゃまずは僕の剣をみてくれ」



 リビアが剣を鞘から抜くと刃こぼれしているのが素人目でもわかる。まぁ普通の剣だから仕方ないだろう。



「結構欠けがひどいけど……でも錬金術と合わせれば直せそう」


「本当かい? いやーよかった。代金のほうはどのくらいになりそうだ? 手持ちが少ないから足りないようであれば別のもので補わせてもらいたいのだが」


「希少な素材は必要ないみたいだし、同じ鉱石代だけで大丈夫。もう少し良い鉱石を使えば強化できそうだけどどうする?」


「今は手持ちもないから修復だけお願いするよ」



 ある程度話がまとまるとリビアは剣を専用の棚に立てかけた。



「それじゃ次は俺の番か」


「おや、それはあのときの剣だね。古びてはいるがとても綺麗だ」



 リビアは俺から剣を受け取るとまず鞘をじっくり細かくみた……。そして慎重にゆっくりと剣を抜く。



「これは…………無理」



 そういうとリビアはため息をつきながら剣を鞘に納めた。

 やはり普通じゃないのは間違いないか……残念だが研ぎ直しできる人を探すしかないな。



「そういえば、お父さんの剣ではなかったかな?」


「違うどころかこんな剣普通の鍛冶師じゃ無理。伝説と呼ばれたあの人でもなければ」


「伝説……! その伝説の鍛冶師ってどこにいるかわかるか? ぜひとも会ってみたいんだけど」


「無理よ。あの人は山奥に追放されているわ」



 追放された伝説の鍛冶師……これは素晴らしい! 伝説級の腕を持ちながらもなぜ里を追放されたのか、まるで特番で告知されたような気分だ!!



「そこをなんとかってわけにはいかない?」


「長の許可が下りれば行けるかもしれないけど、今は途中にモンスターもいるから危ない」



 なんて都合の悪いモンスターだ。いっそルークと一緒に退治するから行かせてくれってムガルさんにお願いするか?

 どうしたものか悩んでいると工房の扉が開かれムガルさんが入ってくる。



「失礼するぞ。お~あれほど頑なに誰もいれなかったお主が工房に客をいれるとは……やはりお主たちは何か引き付けるものがあるのかもしれんのぅ」


「爺ちゃん、そんなことより早くあいつらを追い出してくれよ! ここはリビアの大事な――痛ったァ!?」


「たわけ! お前は自分の都合ばかり考えていないであの子の心を知ろうとせい!」


「な、なんだよそれ、俺はリビアのことが心配で……」



 少年はそこまで言うとムガルさんに睨まれ大人しくなった。この二人も爺さんと孫の関係だったのか。



「お爺さま、私は大丈夫なのでそれくらいで許してあげて」


「おぉそうか? 騒がせてすまんかった。ほれ、突っ立っておらんでお前もこの方達に名乗らんか!」


「……ライル、俺の名はライルだ! 覚えてろ!!」



 そういうとライルは走り去っていった…………。なんだろう、騒がしいけど少し面白いヤツだな。



「まったくあいつは……おや、その剣は」


「この剣のこと何かわかるんですか」


「その特異な性質…………あいつのものか」


「この剣は元の持ち主に託されたものでして、なんとか綺麗な状態に戻してあげたいと思ってるんです。これを作った人を教えてもらえませんか」


「ダメだ、いくらお前さんの頼みだろうとそれはできん」


「お爺さま、そこをなんとかできないの?」



 リビアの頼みということもあり一瞬揺らぎそうになったがすぐにムガルさんは首を横に振った。



「長よ、その者はどれほどの罪人なのだ?」


「あやつは一族の掟を破り、あろうことか責任を仲間に押しつけ逃げ去ったのじゃ」



 悪いといえば悪いが追放するほどのことなのだろうか。確かにトス爺も一族としての掟を第一にしていたような気がするけど……。



「あのときの人間の頼みもあり打ち首だけはせずにおったが……ぬっ? リビアよ、なんじゃそれは?」


「あ、これ? レニが持っていたもので、私じゃこの札の意図が分からないからお爺さまに聞こうとしてたの」


「どれ貸してみなさい。何々、世話になった?」



 ムガルさんは板の表面を読み裏返す。そして連なって書いてある文字を読み進めると震え出した。



「…………お、お主、これをどこで手に入れた!?」


「昔トス爺にもらったものなんです」


「お爺さま、何か分かったのなら私たちにも教えて」



 ムガルさんは木の板の文字を指差しながら俺たちにも見やすいようにし説明を始める。



「これは、我らドワーフ族に古から伝わる、恩人にいつか報いるために残すものじゃ。もっとも……恩は売っても借りるようなことはないから知る者は少ないのだが……表の文は何をしてもらったのか、後ろは関わった者たちの名じゃ」


「ということは、レニ君はたくさんのドワーフたちを助けたと?」


「あ~確かに助けたっちゃ助けましたが俺も助けてもらいましたし……」


「世話になったという一文は最大の賞賛の証――そし裏に表記されておる名前、これほどの人数が関わっとるのは普通ではない。いったい何があったのだ」


「えーっと、長くなっちゃいますけどいいですか?」



 全員がうなずくと俺は雪山であった一連の騒動を説明した。職業やパールのことはうまく濁し、たまたまや運がよかったと言って乗り切ることにした。


 話終えるとムガルさんは信じられないような顔をし、リビアとオミーネさんはさっきの話があったからか顔にはでていなかったが開いた口が塞がっていなかった。

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