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38話 『思惑②』

「隊長、こいつらです!」


「よぉし全員ここで待機だ」


「無礼者! ここをどこだと思っている!」


「魔族がこの神聖樹に入り込んだと聞きましていち早く討伐に参ったところです」



 隊長と呼ばれた男は悪びれる様子もなくずかずかと歩いてくる。そして俺たちの後ろまでくるとルークが僅かに反応を示した。



「クゥ~」


「ん? なんだこいつは」


「そいつは俺の相棒で、挨拶するときはそうやって近づくんです」


「テイマーか。子供なのにリザード種とは大層なくせにしつけがなっていないな……まぁそんなことはいい、さぁ女王様、さっさとその魔族どもを始末してしまいましょう」


「根拠もなく何を言ってるんだ、彼女たちは無実だ!!」



 確かに無実と言えば無実なんだが、お前は何の根拠で無実と思ったんだとツッコむのはやめておこう。

 ルークが隊長から後ろで待機中の兵士まで一周して戻ってくる。そして一回鳴くとミントが大きな声をあげた。



「えーーーこいつら全員!?」


「女王様、この者達は英雄ヴァイスを裏切り……戦争を企てた連中です!」


「ど、どういうこと?」


「はーはっはっはっは! 突然何を言い出すかと思えば、魔族から仲間になるようかどわかされたか!」



 あくまで(しら)を切る気か。俺はすぐに二人の縄を切り、レイラさんにヴァイスさんの剣を渡すと女王様の前へ盾になるように並んだ。



「ヴァイスさんは倒れる直前、犯人たちに魔力香をつけていました。俺が本人に聞いたので間違いないです――メアリアさん」



 ヴァイスさんが教えてくれた、女王様を説得するに値する情報――それは彼女の名前だ。みんなが女王様と呼ぶため名前を知る者はよほど親しい者でなければいない。

 ましてや外の人間の俺がその名を口にするのはあり得ないことなのだ。名を呼んだことでメアリアさんはジッと俺をみていた。



「故人がしゃべるとでもいうのか、バカバカしい」


「残念ながら俺にはそれができたんだよ。あとはお前ら全員調べてみればわかることだ」


「ふんっ、話にならん。女王様、こいつら全員捕らえてしまいましょう」


「待ちなさい。魔力香には付けた者の魔力が宿っているはず、まずはあなた方を調べさせていただきます」



 その言葉に後ろの兵士たちはざわざわと騒ぎ始める。男は黙っていたがいきなり剣を抜いた。



「…………どうやら女王様は魔族と人間に操られてしまっているようだ。皆の者、こいつらを始末して女王様を助け出すぞ!」



 後ろの兵士たちが声をあげ一斉に剣を抜き始める。それをみた周りの兵士たちはすぐさま臨戦態勢に入った。



「何を考えているお前たち!? 気でも狂ったか!」


「おっと、こいつらもすでに手遅れのようだ」



 そういうと男は近づいてきた兵士を躊躇なく斬り伏せた。場が騒然とするなか、男は漆黒に染まった石を取り出す――石が光出すと周りの兵士、そしてミントたちが倒れ始めた。



「な、なに、急にマナが……」


「うえええぇぇ気持ち悪っ……」


「み、みんなどうした!?」



 状況を確認するとまともに立てているのは俺とルーク、そしてオミーネさんと男が連れてきた兵士たちだ。メアリアさんも倒れてはいないが椅子に掴まりかなり辛そうな表情をしている。レイラさんとアリスも同様に膝をつくと苦しそうにしていた。



「貴様、彼女たちに何をした!」


「ほう、これに耐えられるとはな。さすが予言の子といったところか」


「も、もしやそれは……マナを暴走させ、耐性がない者は最悪死に至らしめるという乱麻石」



 その言葉を聞くと男は手首を叩き拍手をした。



「さすが女王様、よくわかってらっしゃる。しかしこの石にはもう一つ使い方がありましてね」



 男はそういうと平然と立っていた兵士の腕を見せる。そこには黒く光った石の欠片が埋め込まれていた。



「生き物の身体の中にいれてやるとマナが強化されるのですよ。もちろん、様々な代償はありますがね」


「なんてことを……」


「さてと、話が長くなってしまいました。女王様にはここで死んでもらうとしましょう」


「そうはいくか! 僕と、この聖剣エクスカリバーがお前の野望を止める!」



 オミーネさんが剣を抜き放つ――それはどう見ても普通の剣だった。この人の強さが分からないが、今は俺たちでなんとかやるしかない。



「ルーク、できるだけ兵士を近づけさせるなよ」


「グウゥ」


「さぁ、こいつらを始末してしまえ!」



 その言葉を合図に兵士たちが襲ってくる。短剣じゃ分が悪いが……立ち回りでなんとかするしかない。



「くらえ! 聖剣スラーーーーッシュ!!」



 兵士に斬りかかっていったオミーネさんは形だけは剣士だったが酷いものだった。

 俺は兵士を相手にどう動きを封じるか手段を考えていたが、あれは助けないと間違いなくやられてしまう。そして今、二度目の聖剣スラッシュも避けられ、隙だらけのその背に兵士が斬りかかっていた。



「その首もらったあああぁぁ――ぐはッ!?」



 だが、兵士はルークがぶっ飛ばした兵士に巻き込まれ飛んでいく。オミーネさんはとっさに後ろを振り向いたがすでに兵士はいない。



「ミ、ミント何とかしなさいよ……このままじゃみんなやられちゃう」


「そういってもこれじゃあ……うぇ~目が回る~」



 よっぽど辛いようだな。まったく影響のなさそうなオミーネさんは敵陣に走り出す。



「次はお前たちの番だ、くらえ! 聖剣ダイナミック!!」


「ミント……は、早く! 根性絞り出しなさい!」


「ううぅ……こ、これでどぉ……!! だうぇ~~」



 オミーネさんは高くジャンプすると兵士目掛け剣を振り下ろした。見た目はいいがやはり全員に避けられてしまう……だが、振り切った剣が地面にぶつかると突如トランポリンのように大きく揺れ、天井や壁にぶつけられた兵士たちは気を失っていた。



「な、なんだとおおおぉぉ!?」


「ま、間に合っだぁー……ガクッ」



 ミント、よくやった……。これで形勢は逆転した、残るはこの男一人。



「残るはお前だけだ観念しろ!」


「くそ、これほどまでの力とは……しかし私にはこの石がある!」



 男が乱麻石を掲げると禍々しい光はさらに強くなる。そしてその光は男の身体を包み込んだ。


【ものまねし:状態(魔剣士)】



「ぐうううぅぅ…………力が、力が湧いてくるぞぉーーーーッ!!」


「くっ、気を付けて二人共!」



 ライムが声を振り絞り、男は力を制御しようと動きが止まっていた。俺はその隙をついて短剣で斬りかかる――だが短剣は身体に弾かれポッキリと根元から折れてしまった。



「小賢しいことを、もはやこの身体には傷一つつけることはできん!」


「くそっ、剣が――オミーネさん、攻撃を!」


「……ダメだ。さっきの聖剣ダイナミックで刃が欠けてしまった」


「はっはっはっは! もはやお前たちに為す術はないようだな。まずはお前から……死ねええええぇぇッ!」



 魔力を纏った剣が俺に向かって振り下ろされたが、ヴァイスさんの剣が投げ込まれ男の剣を弾いた。

 レイラさんが辛うじて立ち上がっていた。



「これを使って!!」

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