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37話 『思惑①』

 ベヒーモスがいなくなり、辺りは静まりかえる。正直これだけ荒らした状態では協定もくそもないだろう……アビスがついていたというのも信じてくれるかどうか。



「ヴァイスはまだそこに?」


「えぇ」


「少し話をさせてもらえないかしら」


「わかりました、俺が間を持ちます」



 レイラさんは立ち上がりヴァイスさんの前に立つ。



「あなたがそこにいるということは……やはりあの場に裏切り者がいたのね」


『ああ、まさかあいつだったとは』


「……わかったわ、必ず仇は討つ」


『私が未熟だったばかりに嫌な役をさせてしまうね』


「いいのよ、あの戦争を止められなかった私たちの責任だわ」


「ね、ねぇ裏切り者ってなんのことよ」



 ライムがこちらの話に混ざってくるとレイラさんは向き直り説明する。



「信じられないと思うけど私とヴァイスは元々、戦争を止めるために果ての大地に来ていたの」


「止めるって……戦争を仕掛けてきたのは魔族のほうでしょ?」


「正確には魔族と妖精族、そして人間の一部の連中に嵌められていたと言った方がいいわね」



 そこからレイラさんは俺たち全員にわかるように説明をした。そいつらはアビスの存在に気づき、利用を企てていたという。罠にはめられたレイラさんたちは逃げ場を失い、ヴァイスさんが犠牲になることでレイラさんはなんとか生き延びることができたとのことだった。



「どこまであいつらが根を張っているのかわからなかったからすぐには動けなかったわ」


「だからお父様もお母様も不届きものを成敗するって言ってたんですね」


「ええ、魔族のほうはある程度片付いたけど、妖精と人間にも真実を伝えて協力しないとってことになったのよ」


「で、でも……いくらそれが真実だからって誰も信じないでしょ」


「そうだよ、みんな魔族は敵だって言ってるし」



 う~ん犯人をあぶりださないといけないわけか、ちょっと危険だが。



「妖精側にいる犯人の目処はあります?」


『あの場にいた奴らには魔力香をつけておいた。いつかこの日がくるために、とても小さい匂いだが……しかし私はこの石碑から少しの距離しか離れられないんだ。力になれずすまない』


「それならルークがいけるかもしれません」


「クゥ!!」


「ああ、今回は頼りにしてるぞ」



 ベヒーモス相手に何もできなかったことが悔しかったのかやる気に溢れているな。俺はヴァイスさんに聞いたことをみんなに伝えた。



「なるほど……あとはどうやって中に入り込むか、か」


「それに魔力香がついてるからってそいつらがどこにいるかなんてわかんないじゃん」


「そうよ、そんな情報だけじゃ誰も信じるはずがないわ」


「二人の言う通りだ。そこでだ、ちょっと危険かもしれないが一つだけ作戦がある」


「お姉さまや魔族の罪が晴れるならどんなことだろうと……やります!」



 俺は全員に作戦を説明するとミントとライムが無茶だと騒ぎ、休憩もかねて一晩考えてみることになったが……。

 ほかにいい案は浮かばず二人はしぶしぶ了承し、翌朝、俺たちは神聖樹へと向かった。



「おい、止まれ!」


「ま、ままま魔族の奴らを捕らえたぞ! 女王様に報告するからここを通せ!」


「お前たちがだと?」


「失礼ね、この方が協力してくれたのよ」


「なぜ人間がここに……」


「俺は相棒と旅をしていてね、一度妖精の国を見てみたかったんだ」


「クゥ」


「リザード種のテイマーとは珍しいな」


「早く女王様の元へ報告にいかせてくれないかしら。また暴れられたりしたら大変だわ」


「そうだったな、ついてこい」



 神聖樹の中に入り歩いていく。中にいる妖精はミントたちと違い、人間のように身長があった。



「なあ、ミントやライムはみんなより小さいけど何が違うんだ?」


「妖精は私たちのように小型でマナが高いタイプと、あなたたち人間のように大きく身体能力が高いタイプに分かれているのよ」


「へ~だから魔法が主体だったんだな」


「当たり前だろ、正面にでるなんて危なくてやってらんないよ。まったく」


「あんたはもう少し根性があればねぇ……マナは十分に高いんだから」



 ライムがため息交じりにそういうとミントは軽くあしらった。ミントもいざというときはやるみたいなんだがなぁ、たぶんあとがなくなると本領発揮するタイプなのかもしれない。

 初めて会った時も一人で頑張っていたし、レイラさんのときもなんだかんだ……逃げ足の速さもすごいがきっとやるときはやるはずだ。


 しばらく階段を上っていくと豪華な扉の前で止まり、兵士が先に入っていく。



「入れ。失礼のないようにな」



 中に入ると数人の兵士が並んでおりその奥には女性が椅子に座っていた。そしてその前には男性が立っている。あれは……人間か? がちがちに緊張しているミントの後ろをついていく。



「じょ、じょ、女王様! 魔族を捕らえました!」


「噂は本当だったのね……怪我はありませんか?」


「は、はい! 無傷です! 大丈夫です!」


「女王様、お話があるのですがよろしいでしょうか」



 ライムが発言しようとすると男性がこちらへ歩き出し、レイラさんの前で立ち止まった。



「なんと美しい方だ……手が縛られてるじゃないか! お怪我はありませんか? お嬢さんも怪我は?」


「い、いえ、あなたは……」


「これは失礼、僕の名前はオミーネ。この混沌とした世界で愛と平和を取り戻すべく旅をしている……しがない勇者さ」



 勇者だと……もしかして預言の子っていうのはこいつのこと……? しかもなんだよそのダサいポーズは。確かに周りの空気に負けず堂々とそれができるのはある意味で勇者だが。



「オミーネ様はこれから魔族の調査に向かうところだったのですが」


「あなたのような美しい女性が争いなどするはずがない、僕にはわかる。何か理由があってここに来たのだろう?」


「えっ、ええまぁ」


「女王様、この者たちは安全だ。縄を解いてくれ」


「おい、何を言ってる! 魔族が暴れたりしたらどうするんだ!」



 警備をしていた何人かの兵士が声をあげる――魔族に対する印象がよくないというのは間違いないみたいだな。



「そんなことはない、僕にはわかる……彼女たちは平和を求めてここにきたはずだ!!」



 まさかの根拠のないその一言に兵士たちは騒然としたが、その直感は当たっていた。何も知らないはずなのに堂々と言えるところがすごい……。



「えーっと、女王様。お話がしたいのですが――よろしいでしょうか?」


「もう少し待っててくれ……君たちの無実は僕が必ず証明してみせる!」



 オミーネさんにうんざり気味のライムが説明を始める。

 逆にあいつはどうやって無実を証明するつもりだったんだろう……俺はルークに魔力香の反応がないか警戒することにした。



「女王様、私が彼女たちを見つけたときにはアビスにのまれていました。ミントと協力しましたが力が足りず、この方に助けてもらったところです」


「それはまことですか」


「俺も旅をしていたついででしたし、力になれてよかったですよ」


「さぁもういいだろう。早く彼女たちを解放するんだ」



 う~ん確かに解放したいのはやまやまなんだが……できればもう少し粘りたい。もう少し頑張って引き延ばしてくれ! 俺はライムに目で訴えた。



「ですが、彼女たちの目的がわからない以上、迂闊に動かれてもと思い縛ってまして……えーっと、目的がいったい何なのか聞いてからじゃないと解放するのも危険というかなんというか……」


「そんなもの見ればわかるじゃないか、彼女たちは一切暴れる気などない。早く解放してあげるんだ!」



 ライムが今にもこの男をぶっ飛ばしてやりたそうな顔をしていると勢いよく扉が開かれ、数人の兵士が入ってきた。

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