33話 『頼みの綱』
【ものまねし:状態】
「日も暮れてきたな……ルーク、モンスターがでるかもしれないから警戒は解くなよ」
「クゥ!」
しばらく森の中を走ると滝が見えてくる。この上が目的地……しかしなんてでかい崖なんだ。高さもあれば横幅も広い……まるで地面そのものが隆起したような。
「ここを登るのも一苦労しそうだな」
「クゥ~」
「はははっ、もう少しでかくなったら頼むよ」
ルークは俺を乗せて飛ぼうとするがさすがにまだ体格差がありすぎる。メユちゃんくらいなら乗れそうだが、さすがに俺は飛べないし地道に登ることにするか。
「ククゥ~……クッ?」
「ん? どうした」
これは、足跡……滝の裏側まで続いてる。
「クゥ」
「あぁ、一人ではないみたいだ、確認してみるか」
さすがに不意打ちされると生身の状態じゃ俺は雑魚だ……ルークに先頭を任せよう。進んでいくとルークがくぼみを見つける――その奥では女の子が倒れており周りを確認してもほかに誰もいなかった。
「子供がどうしてこんなところに……おい、大丈夫か?」
「うぅっ……」
「ここじゃ暗すぎる、ちょっと失礼するよ」
女の子を抱え外に出ると地面に寝かせルークの鞄から回復薬を取り出す。見たところ大きな怪我はない。
少しずつ回復薬を飲み込んでいくと、呼吸は深くなりゆっくりと寝息をたて始めた。
「クゥ」
「ああ、とりあえずこれで大丈夫なはず。あとは起きるまで待とう」
「クゥクゥ」
「そうだな……たぶんこの子が魔族だろう」
女の子は人間のような姿をしているが見た目がまったく異なっている。危険だというが普通の女の子にしか見えないし話してみないことにはわからないな。
とりあえず起きるまで待つとして、ちょうど腹も減ってきたし飯にしよう。
「ルーク、飯の準備をするからその子を見ててくれ」
「クゥ~」
まぁ飯といってもいざというときのためにとっておいた非常食なんだけど。
滝の水も綺麗だから飲めるだろう――うん、美味い。これで腹にあたったらもう仕方ないな。
「少ないが非常時だからこれで我慢してくれ」
「クゥクゥ」
夜空には大きな月が昇り火がなくても十分明るかった。ルークの隣に座り一緒に食べていると女の子が目を覚まし身体を起こす。
「んっ……あれ、私……」
「目が覚めたようだね、痛いところはないか?」
「は、はい。あの……あなたは」
「俺はレニ、こいつはルークだ」
「クゥクゥ」
「君があの滝の裏で倒れていたのを見つけてね。余計だったかな」
「あ、いえ! 助けて頂いてありがとうございます」
女の子はきちんと座り直すと礼儀正しく頭を下げる。まだ小さいのにちゃんとしている……もしかして貴族とか、なんか位の高いところのお嬢様か?
そんなことを思ってると女の子のお腹が鳴った――恥ずかしそうにしているが、腹が減るってことは健康な証拠だ。
「よかったら一緒に食べるか? あんまり量はないが腹の足しにはなるはずだ」
「……す、すいません……いただきます」
食料を渡すと女の子は礼を言って食べ始める。色々聞きたいことはあるけど……食べ終わるまでゆっくり待つとするか。
「どうだ~登れそうなところはあるか~?」
「ククゥ~」
「そうか、わかった~気を付けて降りてこ~い!」
以外にも足をかける場所は多そうだな。それによくみると垂直というより若干斜めになっているようだ。これなら登るのも大丈夫だろう。
「あの……ご馳走様でした」
「おっ、体調はどうだ」
「おかげさまで……ありがとうございました」
顔色もだいぶよさそうだし、色々と聞いてみるか。
「君はなんであんなとこに倒れてたんだ?」
「………………」
女の子はうつむき何か喋ろうとはするが答えない。ん~無理に聞くのもなんだし話題を変えよう。
「君は魔族かな?」
「……は、はい」
「そうか、よければ名前を教えてくれないか」
やっぱり魔族だった……でも話してみると普通の女の子と変わらないしむしろ俺のガキの頃より礼儀正しい。
子供はやんちゃなのもいいが礼儀というのも大切だ。ルークもまだ子供だし、この子みたいに少しは礼儀というものを教えないとなぁ。
「遅くなり申し訳ありません、私はアリスといいます。あの……魔族を恐れないんですか?」
「ははは、普通の女の子と変わらないよ」
「あなたは…………あの、お姉さまを止めてもらえませんか!?」
ということは滝にあったもう一つの足跡はお姉さんのものか、何をしようとしてるんだろう。
「できる限り俺たちも力になるから教えてくれ」
「は、はい。実は私たち」
アリスが説明しようとしたそのとき、夜空に聞いたことのない咆哮が響き渡る。ルークがいち早く反応したが今までとは違う反応を示す。
「グルルルル……グウウウゥゥ!!」
「ルーク落ち着け! なんだ今の声は……」
「急がないと……このままではこの地が、妖精達の国が滅んでしまいます!」
「どうしたらいい?」
「とにかく崖の上へ、でもこんなのどうやって登れば……」
「わかった、すぐに行こう! ルーク、さっきの道を先導してくれ」
「クゥ!」
「アリス、悪いがジッとしててくれ」
「えっ……きゃッ!?」
すぐにアリスを抱え走り出し、飛び立つルークの後を追いながら崖の岩を跳び登っていく。野生動物なんかはでっぱりがあれば登るヤツもいたがこんな気分だったのか、足元は心もとないはずなのになぜか安心感がある。
一気に駆け上りアリスを抱えたまま突っ走る――ルークが示す方向に走り続けると月の光に照らされた大きな広場にでた。
「ここは……」
アリスを降ろし辺りを見渡すとところどころ地面が抉れ倒木には苔が生えている。まるで過去に大きな争いがあったような……中央には石碑のようなものがあり、その前には人影ともう一つ、大きな獣の影があった。