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32話 『遠い過去』

 なぜ……ただでさえ痛みを感じてる気配もないのだ、今更音に反応などするはずがない。音に反応するもの……反応したもの――。



「ルーク! もう一度だ、今度は空からやれ!」


「クゥ!」



 ルークが空に羽ばたくと地表に向かって雄叫びをあげる。


≪竜の咆哮≫


「ヒェッ」



 ほんの一瞬だがルークの声に交じって声が聞こえた――巻き添えだったら謝るしかないがこれほど戦いがあって逃げないのであればそいつは……!


【ものまねし:状態ドラゴン


 ルークが降り立つと即座に声のした方へ俺は雄叫びをあげた。



「そこだあああああああ!!」


≪竜の咆哮≫



「ギャーーーーーーー!!!!」



 叫び声が聞こえると獣の身体は完全に崩れた。すぐにルークが声のした茂みに入っていく――口には何かを咥え、俺の元まで戻るとそれを地面に置く。



「虫? いや、羽はあるが人間に似ている……」


「クゥ~」


「あぁ、モンスターが出てこないところを見ると元凶はこいつの可能性が高いな」



 ん~どうしたものか……話ができそうなら聞きたいことは山ほどあるが、敵意が残ってるかもしれないし一応縛っとくか。

 手ごろな蔓を拾い生物の脚と手を縛る。これならさすがに起きた瞬間から襲われるなんてことはないだろう。



「んっ……ん~」


「ククゥ」


「おっ、目覚めたか」


「ギャーーーーー! 魔族に掴まったあああああ!!」


「おい、まて落ち着け」



 生物は目を覚ますなり暴れだし、ルークが落ち着かせようと顔を舐める。



「クゥ」


「アッ……食われ…………」



 再びこの変な生物は気絶した――とりあえず喋れるみたいだし会話はできそうだな。さっき俺たちのことを魔族って言ってたし何かあったのかもしれない。

 色々と考察しているとルークが何かに反応するように、宙に目を配った。



「ミントを放せえええええ!」


「クゥッ」



 同じような生物がこちらに突っ込んでくる。だがルークは軽くその生物を叩き落とす――まるでハエ叩きだな。こうして二匹目? の生き物を捕獲することに成功し蔓で縛る。

 さて、起きたらどちらかでも話を聞いてくれるといいんだが……しばらく待つと、先に気絶した生物が目を覚ました。



「……はッ!? あれ……ライム、どうしてここに!」



 今度は俺たちよりも仲間の身を案じている。なんか悪者になった気分だがどうしたもんかなぁ……。

 ジーっと見ているともう一匹も起き、頭にあれが浮かぶ。


【ものまねし:状態(妖精)】


 こいつら妖精だったのか。見るのは初めてだったが、確かに言われればそのまんまの姿だな。



「んん……あ、ミント! 無事だったのね」


「なんで戻ってきた!? あれほど戻ってくるなって言ったのに」


「だってあなたが心配で……」


「くそっ、この蔓さえほどければ……」



 二匹で話が進んでるけど蔓はしっかりとふた結びしてるからな、よっぽどでなければ解けることもない。



「ダメだ、なんて固さなんだ」


「もうおしまいなのね……最後にミントの顔が見れてよかった」


「ま、まだあきらめるな――お、おい貴様、こいつをほどけー!」



 あ、やっとこっちに話しかけてくれた。



「まずは話し合いからだ、攻撃しないのなら解いてやる」


「魔族なんかに話が通じるか!」


「いや、見ての通り俺は普通の人間で魔族じゃないから」


「誰が騙されるもんか! 邪悪なドラゴンを召喚できるなんて魔族以外にいるわけがない!」



 ん~どうやって誤解を解いたらいいものか……こいつは興奮して話を聞いてくれそうにないし。



「ルーク、そういえば飯がまだだったなぁ」


「クッ?」


「そろそろ飯にするか」



 不敵な笑みに俺の考えてることがルークにも伝わったのか、ルークは嬉しそうにミントに近寄る。



「ッ!? よせ、やめろ! く、くるなあああああああ!!」


「クゥーッ」



 ペロリとルークに舐められたミントはそのまま気を失う。よしと、静かになったしもう片方は大丈夫かな?

 ライムと呼ばれたもう一匹はガタガタ震えながら静かにしていた。



「なぁ」


「ヒィッ!?」


「そんなに怯えないでくれ。彼には何もしていない、ちょっと興奮していたみたいだから落ち着いてもらっただけだ」



 彼かどうかはしらないが口調は男っぽかったし……間違えてたらあとで謝ろう。ミントが生存していることがわかるとライムは怯えた様子で俺をみた。ちょっと意地悪し過ぎたかも……ごめんね。



「なぁ、ここはいったいどこなんだ?」


「えっ……こ、ここは果ての大地です……」


「果ての大地?」


「えぇ、あなた方はわかってて来たんじゃ」


「あぁそれなんだが……っと失礼する」



 さすがに話を聞いてくれる相手を縛ったままにするわけにもいかない。俺は短剣を出し蔓を切った。ついでだし気絶してるミントの蔓も切っておこう。



「よしっと。すまなかったね」


「……い、いえ」


「俺たち魔術学校の図書室にいたんだけど――って言ってもわかるかな」


「魔術学校…………昔人間の国にあったと言われる場所ですか?」


「そう! そこで本を開いたらここに……って昔?」


「え、えぇ。魔術学校は何年か前に起きた魔術戦争で滅んでいると聞きましたが」


「な、なんだって!?」



 どういうことだ……ついさっきまで俺たちは魔術学校にいたはずだ……それが滅んでいるだと。



「そうだ、俺と同じくらいの女の子はみなかった?」


「もしかして預言の子でしょうか」


「いや、わからないが……その子と会わせてくれないか」


「難しいですね……魔族の目撃情報があってせいで、私たちも神聖樹の中には入れないんです」


「そうか……」



 預言の子……なんとか手掛かりになりそうなものは見つけたがこのままじゃ会えないか。



「その魔族ってどこにいるのかな」


「まさか、魔族に会うんですか!? 危険です! あいつらは召喚術に長けていて、私たちの女王様ですら退けるのがやっとだったんです」


「大丈夫、俺にはルークがいる。ついでに捕まえたら預言の子にも会わせてもらえるだろ」


「ですが……」


「頼む、その子は俺の大切な人かもしれないんだ」



 ライムは寝ている(気絶中)ミントの顔を見る。



「少し考えさせてください。今は入れませんが、とりあえず神聖樹の見えるところまでは案内します」


「ありがとう、ミントは起きるまでルークで運んでおくよ」



 ライムに案内され森を抜けると遠くにとても大きな大樹が見える。それは力強さと、はっきりとはわからないが不思議な魅力を感じることができた。



「あれが神聖樹です。あそこに私たちの女王様がいます」


「大きな樹だな~とても綺麗だ」


「あの、何か感じませんか?」


「迫力と力強さと、そして何か魅力を感じるよ!」


「いえそうではなくて……マナが疼いたりは?」


「ん? そのマナってのは?」


「あっ、えっと……人間界では確か魔力というのでしょうか」



 あぁそっちか。あの樹から魔力が出てるとかかな? 出てたとしても俺は魔力がないからわかんないし。

 つうか力強さとかまじめに返しちゃったじゃん、めちゃくちゃ恥ずかしいわ!



「あ~俺はその、マナだっけ……つまり魔力がないんだ」


「えぇッ!? マナのない人間なんて聞いたこと……」



 残念ながらいるんだよ。この広い世の中には! 俺以外にもきっと……少しは……たぶんいる。

 


「マナを持った生物は、あの樹に近づくと暴れ出すんです」


「う~ん何か原因でもあるのかな……ま、実際中を見なきゃわかんないか」



 そういう原因は案外ちゃんと調べてみればみつかったりするもんだ。だが今は入ることができない、やはり魔族をなんとかしなければ。



「…………魔族が目撃されたのは反対にいったずっと先、崖の上で争いがあった場所です」


「いいのか?」


「はい、マナに惑わされないあなたなら……それに、先に攻撃したミントや私を気遣ってくれたので……」


「本当にありがとう、魔族のことはどうにかしてみるよ」



 目的地も決まったところでちょうどミントも目を覚ました。

 タイミングがいい、あのまま目を覚まさなければライムに任せて置いていくところだった。



「う、う~ん……ハッ!? ライム、そいつから離れて!」


「ミント、この人は大丈夫よ」


「騙されるな! こいつは危険なドラゴンを連れている。今もどこかで僕らを狙っているはずだ……!」


「クゥ?」



 ルークの上で辺りを見渡すミントとルークの目が合う。



「でっ、でたあああああああ!」


「あ、ミントったら待ちなさい! お兄さんそれじゃあ気を付けて!」



 ライムは軽く手を振るとミントを追いかけていった――うん、彼のことは任せて大丈夫だろう。


 さぁてそれじゃあ目的地目指して、いっちょ走りますか!

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