30話 『残されたもの①』
「なるほどのぅ……それにしても永久氷雪をくれてやるとは、価値をわかっとらんかったのか?」
「ははは、俺たちが持っていても使い道はなかったですから。いつか使うならあのとき使うことが最善だったと思うことにしますよ」
「アリッサさんとメユちゃんの助けになるならそれでよかったもんね~」
その通り、それにリリアが最後まで諦めず動いたからこそ手に入ったようなもんだ。もしあのままだったら本当に俺はあいつの腹をやってたかもしれなかった……。
「本当にありがとう! なんとお礼をいったらいいか」
「まったくじゃ! 貴様は恩人に対する態度ってもんを本当にわかっとるのか?!」
「も、もちろん僕だってそれくらいは知ってるさ!」
コルターさんが一生懸命に反論しているところを見るとさすがに思うところがあったみたいだし、今回は止めるか。
「もうそれくらいで勘弁してあげてください。コルターさんだって今まで大変だったでしょうし」
「わかってくれるのかい? 本当に君はいい奴だな!」
「まったく調子のいい……しかし氷雪結晶ならいざ知らず、永久氷雪ほどのものとなると返せる物などないぞ」
「ん~別に何かほしくて助けたわけでもないからなぁ」
きっと本音だろう、リリアはそういうと俺に何かないかと目線を送った。う~ん困ったものだ……。
「いいかい、貸した恩というのは必ず何かしらで返してもらう。これがお互い後腐れしないための利口な生き方ってもんだよ」
「そう言ってもなぁ」
「無理にとは言わんが、少し考えてみるといい」
お金や旅に必要な物は王都を離れるときソフィアさんとタイラーさんにもらっている。
もちろんお金はあればあるほどいいのだろうが、旅で動き回る俺たちには多すぎると困るもの……となると、ここでしか得られないものとすればまずは情報あたりか。
「ならせっかく魔法学校に来たんだし魔法について聞いてみるってのはどうだろ?」
「それならいいかも、もしかすると私と同じ人もいるかもしれない!」
「決まったかの?」
「はい、魔法について教えてもらえたらなと思いまして」
「ほう? 今のあんたらなら家の一つでも要求できるのにそんなものでいいのかい」
「旅をしてる身としては知恵も大事ですからね」
「ここまできて智を選ぶとは面白いヤツらだ……気に入った。何を聞きたい?」
「えーっととりあえず、魔法と魔術の違いって何なんですか?」
俺が質問するとムントゥムさんは顔色を変えた。コルターさんも表情は変わらないがどこか空気が変わっている。何かまずかったか? 魔法か魔術を否定した言葉をいっちゃったとか?
「違いも何も、魔術を扱う者たちを総称して魔法使いと呼んでおるのはわかるじゃろ?」
「それは知っています。だけど、魔術師ではなく魔法使いがいるとしたら?」
無言の間が続き、真剣な表情でムントゥムさんは俺たちを見る――そして、しばらくすると重い口を開いた。
「一つ聞くがどうして魔法使いがいると思った?」
その言葉にリリアと俺は顔を合わせたが答えるように頷く。安易に言っていい訳ではないがムントゥムさんはルークを見ても特に驚いた様子もなかった。ということはその手の存在にはある程度知識が多い可能性が高い。
「私がその【魔法使い】なんです」
「な、なんだって?!」
「…………コルター、この話は他言無用じゃ。お主たちこれから時間は?」
「宿がまだなのでとらないと、それ以降ならあります」
「ならば今の時間は……訓練所が開いていたな。なに、すぐに終わる。お主たちの話が本当かどうか見せてもらうぞ」
「わかりました。ルーク移動するよ」
「クゥ!」
退屈で昼寝を始めていたルークを起こし俺たちは訓練所へと向かった。中に入ると学生の気配はなく静まり返っている。
「さて、どんな魔法があるんじゃ?」
「覚えたてなのであまりないのですが……サポートするタイプと攻撃用のがあります」
「ならばあそこの的へ魔法を当ててもらえるかの」
「はい」
リリアが前へ出ると一呼吸おき、魔法陣を描いていく。
〖タカノツメ〗
初めて目にする魔法を前に二人が茫然とする中、リリアは杖を振ると燃えさかる爪は勢いよく的を切り裂き燃え上がらせた。
「これは……」
「なんてことだ……本当にあったなんて……」
「コルター、二人の宿を取っておけ。儂らは図書館に行く」
「まさかあの話を? あれは子供たちが知っていいものじゃ……!」
急にコルターさんが止めに入る。俺たちが知っちゃいけないって……二人の急変した態度にジッと反応を待つ。
「これも運命なのかもしれん」
「……わかりました。あとで私も向かいます」
「二人ともついてこい」
そういってムントゥムさんは立ち上がり俺たちをつれ学校の図書館へと向かった。ひときわ大きな扉を開けるとそこには、とてつもない数の本棚と机が並べられている。これだけでも魔法のすべてがわかりそうなくらいだ。
だがどの本棚にも目もくれずムントゥムさんは奥へと進んでいき、ついた先には鍵のついた扉があった。扉を開けると地下へ続く階段が伸びており、降りていくとそこには古ぼけた本が数冊飾られている。
「あっ、あれは!」
リリアが一つの本に反応を示す。それは、古ぼけているがリリアが持っている絵日記と同じ本が飾られていた。
「先ほどの魔法といい、それがわかるということは……魔法使いということは本当だったか」
そういうとムントゥムさんは一冊の本を手に取り俺たちに渡す。
『魔法と魔術』
「それはこの学校の創設者、オーランが残したものじゃ」
「読んでみても?」
ムントゥムさんが頷くのを確認すると、俺とリリアはページを開く。