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27話 『一族の掟』

 町の人を集めアリッサさんとトス爺が事情を説明する。無事に解決したということで町は大盛り上がりをみせていた。



「ちょっと……あいつのところ行ってくる」


「えっ? う、うん」



 鉱石をリリアへと返すと俺はオアモールの元へと向かった。



「なぁ」


『ひぃッ! やっぱりあの石じゃダメだった……?』


「いや、十分助かったよ」


『じゃ、じゃあ殺されずに済むの……?』



 掘った穴から顔だけ出しているオアモールはぷるぷると震えている。



「すまない、元々そんなつもりはなかったんだ。あのときは俺も動揺してて……悪かった」


『ほ、本当?』


「あぁ」



 俺の言ってることが伝わったのかオアモールは穴からゆっくりと出てくる。



『僕も……大事なもの食べちゃってゴメンね』


「仕方ないさ、腹が減ってたんだから。今は大丈夫なのか?」


『うん、石を探しにいったとき少し食べてきたから!』


「そういえば氷雪結晶……えーっと、お前が食べた石はこの辺にはないって言ってたけど、なんであの石はあるって知ってたんだ?」


『だって僕が食べたやつはちょうどいい味になったヤツだったもん。さっき取ってきたのはかなり濃いから……割ってしばらくしないと美味しくないんだ。しかもかなり硬いし面倒くさいんだよ』



 なんだよ濃い味って……そんな鉱石の味をわかるヤツなんて普通いないわ。成分とか魔力量の違いなのか? 原石に近いほど濃いとか? ま、何はともあれその味覚に救われたわけだ。



「味のことはわからんが本当に助かった」



 礼を言うとちょうどそこへリリアとルークがやってくる。



「ねぇ、メユちゃんももうすぐ起きるだろうから今日の夜は宴だって!」


『それじゃあ僕はお礼もできたし帰るねー』


「あっ! 待っ――」



 オアモールは俺の返事を待たず、すぐに穴に入ると帰っていった――律儀に穴は塞ぎ直されている。いや、あの臆病っぷりだ。普段は穴を追ってこられると危険なため塞いでいるのかもしれない。



「あれ、あの子は帰っちゃったの?」


「あぁ……戻ろう」



 そのあと宴の準備をしているとメユちゃんも無事目を覚ました。あまり元気はなかったが……アリッサさんが言うには父親にもらった首飾りがなくなったショックがまだ残っているらしい。

 宴も始まり俺たちは英雄扱いのようにされていた。



「よぉ、お二人さん!」


「あ、あなたは」



 何度かトス爺に突っかかっていた男性だ。また酔いに酔ってる……大丈夫かこの人。



「いやーついにやってくれた! まさか本当に見つかるとは、これで俺たちも心置きなく帰れるぜ」


「帰るって?」


「あぁ? トス爺のやつ言ってないのかよ。ここは元々俺たちドワーフが切り開いた場所だ」


「えっ、ドワーフ!?」


「俺は若いからそうは見えないか。トス爺なんかこの町じゃ最年長だし、まんまドワーフって感じだろ?」



 どう見ても某魔法学校の校長とかクリスマスに活躍するおじさんにしか見えなかったぞ。俺とリリアが顔を合わせ驚くが、そんなことは気に留めず男性は話し続ける。



「初めは採れてた鉱石も、すぐに出なくなっちまってな。ぼちぼち帰るかってときにあの家族が来たんだ」



 男性はアリッサさんとメユちゃんを指す。



「なんでも、氷雪結晶を探して俺たちの国に行ったらしいんだが、そこで欠片と知らず大金はたいて買っちまったらしいんだよ」


「メユちゃんのお父さん、間違えちゃったのかな?」


「いや…………騙されたんだ」



 そういうと男性は酒を飲み、ばつが悪そうに続けた。



俺たち(ドワーフ)は確かに客やそのときの気分で値段を変える。だが商売じゃ決して嘘はつかない、偽物は売らない、それが信条なんだ」



 そう話す男性は酔っているはずが真剣な表情をしている。



「氷雪結晶を探し続けたのは……この山は雪が降り続けて雪人族の二人にはちょうどよかった。首飾りもだいぶ消耗し国まで帰れそうになかったからな。研究者の親父さんが何か解決策を見つけるか、石がでるまでこの町にいることにしたんだ。あとは、ドワーフ族としての罪滅ぼしみたいなもんだ」


「……そうだったんですね」


「皆さんはこのあとどうするんですか?」


「無事に目的も果たせそうだし町をたたんでおさらばさ。鉱石だってオアモールが食べ尽くすだろうからな」



 確かにこんな雪山じゃ暮らすには不便すぎる。それにあいつ(オアモール)に、都合よく鉱石は残してくださいなんて言えないし。



「さっ、長くなっちまったが楽しんでくれ! 俺はもう一飲みするぜ」



 そういうと男性は去っていく。



「みんなも大変だったんだね」


「……ああ」


「どうしたの?」



 俺はなんとなくオアモールのことが気にかかっていた……ふと景色を眺めていると、少し遠くにある木の陰が異様に膨らんでいるのがみえる。



「リリア、すまんがちょっといってくる」


「えっ、うん」



 訳も分からず応えるリリアを背に俺は走った。みんなに声を掛けられたがトイレだと言ってごまかし、ようやくあいつの元に辿り着く。



「よぉ」


『ッ!!』



 オアモールは声をかけられびっくりすると、すぐに穴に隠れた。



「俺だ俺……って名前までは言ってなかったな。俺はレニだ」


『あっ……君か。どうしたの?』


「それはこっちのセリフだ」


『ぼ、僕は…………』


「色々騒がせて悪かったな。傷だってそんなにたいしたものじゃなかったのに」


『…………』


「どうして俺たちに協力してくれたんだ? お前なら逃げ切ることだってできたはずだ」


『……友達がほしかったの。僕はみんなより大きいから狙われるし、ご飯を食べようとするとなぜか追われるし』



 鉱石狙いの人たちが集まってくるんだろうな……この大きさならよっぽどでないと簡単に追跡されてしまうのだろう。



『先駆者って人が教えてくれたんだ。ここにくれば狙われることもなくなる、それに友達になってくれる人が現れるって』


「その先駆者ってどんな人なんだ?」


『あのときは夜だったからわかんない……』



 うーん、さすがにこれだけじゃ情報が少なすぎるか。



「なるほどな、そのうちその人にも礼を言わないとな」


『そうなの! お礼はちゃんと返すのが礼儀ってものらしいの!』


「ははは、それは人間が決めただけさ。まぁ確かに礼儀っていうなら……俺もお前には随分助けられた」


『そうなの?』


「あぁそうさ。だからよかったら――俺と友達になるってのはどうだ?」



 そういうとオアモールは少しだけキョトンとした顔をすると、穴から出たり入ったりした。



『ほ、ほ、ほんとに?』


「あぁ、俺の友達にはドラゴンだっているんだ。ちょっとだけ生意気でいい奴さ」


『ひょえーーーあの怪物が友達!?』



 オアモールは半ばパニックになっているがこれはこれで面白いな。



「だからお前も友達になってくれると嬉しいんだが」


『ぼ、僕も嬉しい!』


「じゃ、今日から俺たちは友達だな。俺のことはレニって呼んでくれ」


『レ、レ、レ、レ、レニー!』


「ははは、そんなに緊張すんなって。そういえばお前の名前を聞いてなかったな」


『そんなものないけど』



 そういえばモンスターに名前なんて普通ないのか。あのドラゴンも言ってなかったし……いや、あったとしても教えてくれなそうだな。ん~この見た目……。



「それじゃあ、パールドブルム。少しややこしいが、とある地方の花の名前だ。前だけとるとパール。これも、ある地方の宝石の名前なんだ」


『ぱーるどぶるむ? なんかかっこいいね、それにする!』


「よし、お前は今日からパールドブルム、パールだ!」


『やったー! レニありがとう!』


「はっはっは、よろしくな!」



 パールがはしゃぎ回っていると後ろから声がしてきた。



「もうこんなところに……ってその子は」


「お、リリアすまん。ちょうどこいつと友達になったとこでな」


「キュキュキュキュ! キュー!」


「友達!? この子なんて言ってるの?」


「あぁ、自分の名前はパールドブルム、パールって呼んでだってさ。まぁ俺がさっきつけた名前なんだけどな」


「パール君か~! かっこいい名前だね、私はリリアだよ、よろしく!」


「キュー!」




 その後、俺は何度かパールへ人間についての注意点、あくまで話せるのは俺だけであり、先駆者という人間もよっぽど特殊だったと教えた。

 あとはこの町の人たちにもパールの友人になってもらうことにして――もちろん、ドワーフの名に懸けてパールから鉱石を奪うようなことはしないと約束をした。


 メユちゃんは最初首飾りのことで元気がなかったが、リリアやルークと遊んでいるうちにどんどん元気になっていき……そして数日後、俺たちは先にメユちゃんの親父さんへ報告に向かうということになった。

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