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26話 『己の力量②』

 全然違う鉱石なのは間違いない、だが何かが……雰囲気としか言えないが何かが似ている。トス爺は騒ぎ立てる俺たちに興味を示すことなく黙々と準備をしていた。



「な、なぁトス爺…………これ、何かわかるか?」



 俺はそういってリリアの手の中にある鉱石を指差した。



「なんだゴミでも拾ったか」



 立ち上がると近づいてきたトス爺は目を見開きリリアの手を掴む。



「こ、これは……ど、どこで手に入れた!」


「お爺さん、い、痛いッ!」


「お、おぉぉすまん!」



 すぐに謝りリリアの手を放すがトス爺は興奮したまま、一心不乱にリリアの手のひらの石を見ている。



「この石、やっぱり普通じゃないのか?」



 俺の言葉が聞こえたかはわからないが少しだけ間を置くとトス爺が反応した。



「これは永久氷雪………………そうだ、こうしちゃおれん! すぐに行くぞ!」


「ちょっ、どこに行くんだトス爺!?」



 俺たちは状況もわからないまま外に出ていったトス爺のあとをついていく。

 そしてアリッサさんの家に着くとトス爺は玄関の扉を開けた。溢れでる冷気が玄関外まで一気に凍りつかせていった。



「ぬぅ、このままでは……アリッサ! 聞こえるか!?」



 家の中から反応はない。



「メユちゃんの看病をしてるのかも……お爺さん、あとからきたらどうですか?」


「ダメだ、雪人族が自身を冷やすのと相手を冷やすのでは魔力の消費が違う。ましてや同族ともなれば一気に芯まで冷やし続けねばならん……魔力量が足りぬ場合、アリッサ自身も危険なのだ」



 だからアリッサさんはあのとき冷やすだけなのに、俺たちがいると危険だといっていたのか。



「仕方ない、危険だが中に……嬢ちゃん、すまんがその鉱石を貸してくれ」


「それじゃお爺さんが危ないよ! もう少し待って――」


「俺がいくよ」


「何を言う、よそ者のお前たちにこれ以上危険な橋を渡らせられるか」


「メユちゃんの部屋は確か二階だったな。走れば10秒もしないしいける」


「ついたとしてもアリッサを止めねばお前が凍りつくことになるんだぞ」


「俺の職業はちょっとだけ便利なんです。な、リリア」



 そういってリリアを見ると、リリアは何かを思い出すように声をあげた。



「そっかレニ君なら……でもアリッサさんのところまでいかないと」


「大丈夫、今度こそ俺がなんとかする」


「お、おい待て!」



 不安そうにするリリアから鉱石を受け取り、トス爺の声を振り切ると俺は走り出した。家の中に入ると皮膚が一瞬で凍り始める。

 メユちゃんの部屋は二階の……あそこか! 一つだけ扉の下が周りよりも更に凍りついている。



「アリッサさん! あけてください!!」



 声を出したそのとき、冷気が口の中から入り込み水分を凍らせていく。

 まずい……まさかここまでとは!


 扉を叩くと表面が凍り付いているためか、まるでコンクリートを叩いてるように振動が伝わらない。さらに体当たりをしてみるが、まだ軽いこの体では簡単に跳ね返され、呼吸もまともにできなくなってきた俺の体は徐々に自由もきかなくなっていく。


 ほかに何か手はないか頭をフル回転させた俺は咄嗟に叫んだ――それは声なのか、心の声なのかはわからない。



 ルーク!! こいっ!!!!



 外から声がしたと思うとルークがものすごい速さで走ってきた。だがルークの体も徐々に凍りつき白くなっていく。

 俺がやろうとしていることが伝わっていたのかルークは扉に体当たりすると、何度目かでようやく扉を壊し中に入る。俺も続いて入っていくとちょうどアリッサさんがこちらを見ていた。



【ものまねし:状態(雪人)】



 その瞬間、今まで凍えるような寒さだったのがまるでこれが当たり前のような――むしろ暑い体を冷やしてくれる感覚すら覚えた。

 ま……間に合った!!



「あなたたち……こ、ここは危険よ早く出てって!」


「ルーク、助かった。先に戻っててくれ」


「クゥ!」



 すでに身体の半分が白くなっていたルークは頷くと部屋を出ていく。俺はアリッサさんに近づき鉱石を見せる。



「アリッサさん、これを使ってください」


「これは……」


「トス爺が言うには永久氷雪という鉱石らしいです」


「どうしてそんなものが……でもこれなら! お借りします!」



 鉱石を渡すとアリッサさんはメユちゃんの胸元に置き両手をかざした。


 アリッサさんが鉱石に魔力を流した瞬間、メユちゃんの体は白く染まっていく――しばらくするとアリッサさんは立ち上がり、振り返ったその目には涙が流れていた。



「これでもう大丈夫、本当にありがとう」


「いえ、あの……俺のせいでメユちゃんの大事な首飾りが…………しかもこんなことになって……ごめんなさい」



 もちろんメユちゃんにも謝るべきだが、一番不安になっていたのはアリッサさんだろう。目の前で子供の生命に関わるものを無くしたんだ……しゃれにならないことくらい俺だってわかってる。

 アリッサさんは俺の手に鉱石を返すとそのまま手を添えた。



「あなたは……この町に来てすぐにみんなを助けてくれたわね」


「あ、あれはたまたまというか……それに、その石は俺が見つけたわけじゃありません」


「それでも、あなたがいなければこの石はここにはなかったわ」



 ――『俺がいなくてもどこかで見つかっていたかもしれません』――その言葉の変わりになるものを必死に考え、俺の口からでた言葉は情けないものだった。



「あの、それは差し上げます。メユちゃんに必要でしょう?」


「ふふふ、気持ちだけでいいのよ。この鉱石は私たちが一生かかっても買えない物なの。それにね」



 アリッサさんは寝ているメユちゃんの頭を撫でる。メユちゃんは白く透き通った肌になっていた。



「その鉱石のおかげでメユは本来の雪人と同じくらいまで回復した。それに、今後魔力の扱いを覚えれば自分で制御できるようになるかもしれない」


「ほ、本当に?」


「えぇ、だから感謝はしても恨んでるなんてことはないわ」


「……ありがとう……ございます」


「あら、なんであなたが礼を言うの」



 そういうとアリッサさんは俯いていた俺の頭を撫でてくれた。そして空気を変えるように明るく言い放つ。



「さてと、トス爺にもう大丈夫だって報告しなきゃ! レニさんもほら、みんな待ってるわよ!」



 元気になったアリッサさんと一緒に外へ出て行くと、冷気が収まり察していたのか笑顔でみんなが迎えてくれた。

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