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25話 『己の力量①』

『う~ん美味しい~』


「馬鹿! すぐに吐き出せ!!」



 よっぽどお腹が空いていたのか満足気に口をもぐもぐするオアモールを前に、呆気にとられていたメユちゃんの顔は何が起こったのか理解したのか徐々に泣き顔になっていく。



「あっ………………お父さんにもらった首飾り…………ぅわーーーーん!!!」



 何もない手の平を突き出しながらアリッサさんの元へ歩いていく。

 アリッサさんも何が起こったのかは理解したが、動揺のあまりどうすることもできず、メユちゃんを慰めることもできていない。

 後ろで見ていたトス爺も開いた口が塞がらない状態だ。



「な、なんてこと…………!」


『どうしたの?』


「お前、なんで食ったりしたんだ!?」


『だってもうお腹空いてたし……くれたんじゃないの?』


「鉱石なんてほかにいっぱいあっただろ! あれはあの子にとってとても大切なものだったんだ!」


『でも、僕……あの石が好物で……そうだ、お礼だっけ? 先駆者が助けてもらったらちゃんとお礼しろって言ってたから――』


「それどころじゃない!」



 騒然とする中、後ろでトス爺が全員に声をかけた。



「…………お前ら、明日洞窟へ入る。覚悟のある者だけついてこい」


「ついにきたか! そうこなきゃな、俺はいくぜ!」



 男性が声をあげると、ところどころから賛成の声があがる。アリッサさんが止めようとするがトス爺たちはすぐにその場をあとにした。



「くそ、どうする……おい、今食べた石はこの辺りにあるのか!?」


『えっ? あれはないよ。だって』


「まじかよ、どうしてくれるんだ! こうなりゃお前の腹を切って……ッ!」


『ぼ、僕殺されちゃうの!?』



 オアモールが遠くまで逃げていく。酷いようだがトス爺たちが見つける可能性も限りなく0だ、最悪の選択だって頭に入れないと……。



「……二君! レニ君落ち着いて!」


「あ、あぁリリアどうした」


「メユちゃんが!」



 目を配ると、さっきまであんなに泣き叫んでいたメユちゃんがアリッサさんに抱えられ苦しそうにしている。ルークも心配そうに寄り添っていた。



「一気に感情が昂ったから体温のコントロールができなくなったのよ……ひとまず家で寝かせないと」


「お、俺も手伝います!」


「大丈夫、あなたたちが近くにいると危険なのよ」



 そういうとアリッサさんはメユちゃんを抱え直し去っていく。その場に残された俺は何もできることがなく、次第に自責の念に駆られていった。



「俺が…………あんなこと言わなきゃ……」


「レニ君のせいじゃないよ! それにほら、何かないかあの子に聞いてみよう!」


「いや、もう聞いたんだ……この辺りに氷雪結晶はないらしい……腹に残ってないか、一か八かあいつを殺すしか」


「そんなこと言っちゃダメだよ、もう一度ちゃんと話を聞いてみよう? ほらっ」



 リリアは俺の手をひっぱり、それでも足取りの重い俺を急かすようにルークが押してくる。ビクビクしているオアモールの元につくと、言葉がわからないはずのリリアが声をかけた。



「驚かせてゴメンね。あなたが食べた石って本当にもうないの?」


「……キュキュ―(うん、この辺りにあれはないよ)」


「ん~何を言ってるかわかんないけど、レニ君が言ってたようにやっぱりないのかなぁ」



 正直、こいつに悪気がないのはわかっている。死にそうなくらい空腹で飯を目の前に出されたら……誰だって食うに決まっていた。人間であれば礼儀や知能があるからこれは食べていいのかと確認できるがこいつはモンスターだ。空腹の野生動物の前に餌を出せば食らいつくのは当然。


 俺は会話ができるせいで(言い訳がましいが)、心のどこかで同じ人間としての対応を相手にも強要していたのだ。自分がしでかした失態がとんでもない事態を巻き起こし、己で解決することもままならない。


 社会経験もありどこか自惚れていた俺は自分が思っている以上に精神的ダメージを負っていた。



「ねぇ、あの石の変わりになるようなものはない?」


「キュキュー……(変わりというか……)」


「うーん伝わってるのかなぁ? 普通は人間の言葉をわからないって言うし、さすがにルーちゃんみたいには伝わってないのかぁ」


「クゥ~」



 リリアは必死にオアモールとの会話を試み、一緒にいたルークもリリアの横で相槌を打つように首をかしげたりしている。

 すぐ側にいる俺に一言聞けばいいだろうに……気を遣ってるのか、一切俺に頼ろうとしない。いつの間にか一人でなんでもできると天狗になっていた俺にはいい薬だ。


 リリアの諦めない姿は、俺などいなくても解決できそうな予感すら感じさせる。



「……あるってさ、石」


「本当?」


「といっても……氷雪結晶じゃないけどな」


「そっかー、でも何もないよりはいいかも! その石持ってきてくれる?」


「キューキュー(いいよー探してくる)」



 オアモールは地面を掘り始めるとあっという間に地中深く消えていった。



「伝わった、のかな?」


「クゥ?」


「探してくるって……ほかに何か方法でも考えよう」



 柄(38歳)にもなく拗ねた気分の俺は辛うじて平静を装う。しかし、そう簡単に思いつくこともなく…………日も暮れ始めていった。



「なぁトス爺、酒ないか」


「気でも狂ったか?」


「こういうときこそ飲んでないとやってられないだろ?」


「ふん、若造が何を言うかと思ったら酒に逃げようとはな」



 トス爺はガチャガチャと道具の手入れをしながらも俺の相手をしてくれている。

 アリッサさんの家に行くわけにもいかずトス爺の家に厄介になった俺たちだったが、それでも、都合よくいい案など思いつくことはなかった。

 リリアとルークは気分転換に外でオアモールの帰りを待っている。



「そりゃあ飲みたくもなるよ…………俺なら力になれるって思って……その結果がこのザマだ」


「はっ、うぬぼれるな。お前一人の力でできることなど最初(はな)から知れとるわ」



 一切反論の余地がない言葉だった。たまたまリリアを救い、たまたまドラゴンから村を救い、たまたまルークを救い、そして一人……気づけば英雄気取りになっていた。


 婆さんがくれた魔法瓶がなければリリアを助けられなかったかもしれない、それどころか俺が助けたリリアはとっくに身を削って子供たちを助けていた。

 王都では裏で常に動いてくれていたタイラーさん、先陣切って動き俺たちを助けてくれたソフィアさん、そしてリリアの魔法、みんながいなければルークを救うことはできなかっただろう。


 結局何一つ、自分の力では解決できていなかった――何もいえずそんな事を思っているとトス爺がホットミルクを置く。



「……だがな、お前がいなければここまで進むこともなかった」


「わかりませんよ。ここで見つからなくても首飾りがあるうちにどこかで見つかっていたかもしれません」


「かもしれないなどこの世では通用せん。お前もいずれわかる……それよりも礼がまだだったな。洞窟では助かった」



 それだけいうとトス爺はまた道具の手入れを続けた。

 助かった……まだ何一つ解決したわけじゃないのにその言葉が一区切りつけてくれた気がする。



「酒、いれてないんですね」


「嬢ちゃんのようになられちゃ困るからな」



 さすがにあぁは……なってたかもしれないな。

 少しはそんな冗談も考える余裕ができたので、リリアたちの様子を見に行こうと席を立つと音を立てて扉が開かれた。



「どうしたんだそんなに慌てて」


「レ、レニ君! ねぇこの石……さっきのと似てない!?」



 リリアが見せた手のひらには氷雪結晶と色は違えど、どことなく雰囲気が似ている石があった。

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