24話 『好物』
「危ない!」
トス爺を押しのけ降り注ぐ土に埋もれていく……外からはトス爺の声が聞こえた。
痛みはない、手でそのまま土を搔き分けられたため中から這い出る。
「あっぶねぇ……うへ、口の中がじゃりじゃりする」
「お、おい大丈夫なのか」
「はい、それよりあいつ、まだまだ動けますよ」
そういってオアモールを見ると、オアモールもこちらを見ている。
『なんで追ってくるんだよぉ~もう無理だよ死んじゃうよぉ~!』
「本人は死ぬとか言ってますが全然元気みたいです」
「……何を言っとる? やはり頭を打ってたか」
トス爺はまじめな顔で俺の心配をしていた。
あれ、もしかして今の声って……ドラゴンのときと同じ?
「あいつの声、聞こえていないんですか?」
「何を言って」
『お前ら出ていけー!』
「攻撃がきます、避けてください!」
オアモールは下の土を巻き込みながら腕を振り上げると、土に交じり岩石の欠片がこちらに向かってくる。俺たちは互いに離れるように飛ぶと銃弾でも撃ったような音と砂埃が舞う。
「う、うおおおぉぉ……!」
「危なかった……」
なんて力だ、しかしその力があるなら俺にも!
転がっていた石を手に取りオアモールの顔目掛け投げつける。
「その図体じゃ避けれないだろ!」
見事オアモールの顔……というか毛玉なので毛にめり込んだような感じになったが命中はした。オアモールはそのまま後ろに倒れるとじたばたし始める。
『い、痛いよぉ~! もうやだよぉ~!』
なんかやりずらいなコイツ……。
正直ちょっとだけ顔に違和感がある程度で、毛にほとんど衝撃を吸収されたのかダメージはなかったようだ。
「お、おい! なんとか倒せそうか?」
トス爺がなんともいえない顔で聞いてくる……残念だけど俺には無理なんですよね。
「倒すことはできませんが、そこから動かないでください」
トス爺が頷くのを確認すると、俺はオアモールに近づき声をかけた。
「なぁ」
『ヒィッ!? もう終わりだぁ~……』
「落ち着けって、攻撃しないから話を聞いてくれ」
『ほ、本当?』
「本当だ、お前怪我は大丈夫なのか」
『えっ、僕怪我してるの!?』
えっ、こいつ気づいてなかったの? 鈍いにもほどがある気がするが……一応教えてやるか。
「ほらここだ、ここ。血がついてるぞ」
『ほ、ほんとだぁ!? もう終わりだぁー!』
「さっきも死ぬって言ってたが相当やばいのか?」
『うん……もうお腹ぺこぺこで……』
そういうことかよ!
確かにこいつからすれば、ちょうど飯時に俺たちが来たようなもんだけどさ。
「ここを出してくれればその傷も治療してあげることができるんだが、外に出してもらえないか」
『もしかしてお兄さん、先駆者が言ってた人?』
「なんだ先駆者ってのは?」
『昔ね、お腹が空いて困ってたら先駆者って人がご飯をくれたの。お礼を言ったら、次に僕がまた困ってるとき、助けてくれる人間が現れるからその子を助けてあげてって言われたんだ』
前世でも困ってる人を助けた人が、困ってる人がいたら助けてあげてって言って善の連鎖みたいになる話があったけど……この世界でもそんな人いるんだな。
「確かに困っているんだが……それじゃあ治療が終わったら一つだけお願いを聞いてもらってもいいか?」
『うんいいよ~。それじゃ外にでるから僕の背中に掴まって~』
そういうとオアモールはうつ伏せになる。これはいい絨毯に……とても気持ちがよさそう。トス爺に説明しオアモールの背に乗る。
「お、おい大丈夫なのか」
「大丈夫ですよ、落ちないようにだけ注意してください。お~、ふかふかで気持ちいいなお前」
『ぬっふっふ~毛繕いはちゃんとしているんだ。それじゃしっかり掴まっててね』
言われた通り俺とトス爺は毛にしがみつく。柔らかさはありつつもしっかりとした毛並みはかなりの衝撃を吸収してくれそうだ。
『よーし行っくよー!』
そういって意気揚々と進んでいった先は俺たちが入ってきた場所と違う。
「お、おいそっちじゃな――」
俺の言葉は届かずオアモールはひたすら豆腐を掘るようにどんどん進んでいく――しばらくすると軽い衝撃と共に瞼に光が差し込んだ。
『到着~!』
「ふぅ、ありがとう助かったよ」
俺が先に降りるとなれない状況にトス爺がふらふらと地面に降りようとしたため手をかす。ジェットコースターだと思えばいけたが、この世界にそんなものないだろうから仕方ないか。
「レ、レニ君なんでここに!?」
「おっ? リリアか、それにみんなも……ってお前、こんなとこにでちゃったのか」
町の人たちが集まっており、総出で今からどこかに出かける服装と装備をしている。
よく見てみると周りには建物があり町の中だった。
『うん、なんかすっごくいい匂いがしてるの』
「匂い? まぁとりあえず待ってろ、治療だってしないといけないしな」
どうやら、リリアが戻ったあとで町の人たちは今すぐ助けに行こうという組と、対策を練ってからいくべきだという意見で分かれ話し合いになっていたらしい。
「とにかく二人とも無事でよかったわ……その子は私が看てみますね」
「もこもこ~! ルークちゃんいくよ!」
「クゥ!」
アリッサさんに続きメユちゃんとルークがオアモールの元へ走っていく。氷雪結晶については治療が終わったら聞いてみよう。
「怪我のほうはどうですか」
「これくらいなら大丈夫よ。モンスターに効くかわからないけど一応薬草も塗っておくから」
「わかりました。傷のほうは大丈夫みたいだぞ、今から薬草を塗るからジッとしててくれよ」
『うん、わかった~』
治療も終わり、大人しく座っているオアモールにメユちゃんとルークがひっつき遊び始めた。本人も満足そうだ。
「ちょっと聞きたいんだが、氷雪結晶って石知らないか」
『う~ん……名前を言われてもわかんないなぁ。どんな味か教えてもらえれば思い出すかもしれないんだけど』
石の味なんて知りません、そもそも石を食べる生物なんて見たことも聞いたこともありません。
「レニお兄ちゃん、氷雪結晶がどうかしたの?」
「メユちゃん悪いんだけど、そいつに首飾りを見せてあげてくれないか」
「うん、いいよ!」
そういうとメユちゃんは首飾りをはずしオアモールに見せる。
『いい匂い……あ、これかぁ!』
オアモールは鼻を近づけ匂いを嗅いだと思うと次の瞬間、器用に舌を使い首飾りを食べてしまった。