23話 『探窟』
朝食をとると天気もよかったため、俺たちはすぐ洞窟へ向かうことにした。
「それじゃメユちゃん、ルーちゃんをお願いね」
「は~い!」
「ルーク、留守番頼んだぞ」
「クゥ!」
「二人とも気を付けてね。トス爺も無理しちゃダメよ」
「わかっとる」
しばらく歩いていくと山の壁面にぽっかりと空いた洞窟が現れる。その入り口は、雪が積もっても隠しきれないほどだった。
「これが伝説の洞窟……」
「ここと――あそこの土を触ってみろ」
中に入りトス爺に言われた箇所に触れてみる。片方は特に何もなかったが、もう一方を触ってみると水分で固まっているようにみえてたがぼろぼろと崩れ落ちてきた。
まるでコーヒーの粉を軽く固めたような感じだな。
「わかっただろう? それが至る所にあるんだ」
「これじゃあさすがに進めないですね」
「どうにかして固められないかなぁ」
コンクリートでもあればってところか……さすがに俺たちでは無理だな、いったん戻って考えてみるしかない。
「さ、もう十分だろう。お前たちはさっさと帰れ」
「あぁ……ってトス爺は?」
「俺は中を見てくる」
「お爺さん一人じゃ危ないですよ!」
「嬢ちゃんはみんなが助かるために考えるといったな。あの子のために諦めん。だからといってほかの奴らを巻き込むわけにはいかん」
それが儂の出した答えだといい、トス爺は荷物から採掘に使うであろう道具を取り出し準備を始める。
「さてと……石を見つけたらすぐに戻るから、お前たちは先に帰ってるんだぞ」
トス爺は俺たちの制止を聞かず洞窟の中へと入っていく。頑固者はこうなったら動かないからな……しかし一人であればいけるということは何か方法でもあるのか。
「レ、レニ君どうしよう?」
「仕方ない、リリアはすぐに戻ってアリッサさんに知らせてくれ。危険だから絶対に洞窟内には入らないように。俺はトス爺を追いかける」
「そんな……」
「トス爺をこのままにするわけにもいかないだろ。大丈夫、トス爺だって何か考えがあって一人で入ったはずだ」
「……わかった、無理だけはしないでね」
「あぁ、リリアも気をつけて戻るんだぞ」
実をいえばどうにか入る方法はないかと考えていたが、良くも悪くもトス爺を理由に入ることができたわけだ。
リリアが戻るのを見送ると、俺はトス爺を追い洞窟の奥へと入っていった。
* * * * * * * * * * * *
「やはり最奥でなければ見つからんか…………」
「ってことは、オアモールのいる場所に行かないといけないんですね……」
「………………」
「………………」
「なぜお前がここにいる」
「俺も何か力になれればと思いまして」
「素人が来ても足手まといになるだけだ、さっさと帰れ」
「トス爺が戻るなら俺も戻りますよ」
「ふんっ……あとから後悔してもしらんぞ」
そういうとトス爺は洞窟を進んでいく。
注意しないと脆い箇所から一気に崩れそうな気配は変わらないため俺も慎重についていった。
「これ……どこまで続くんでしょうね」
「わからん、儂もこんな洞窟は初めてだからな」
目が慣れてきてわかったことだが、この洞窟はそこら中にある鉱石が光を発光し反射し合って薄っすらと明るい。人工的でもなく天然のランプ……独特な雰囲気がある。
しばらく進むとトス爺が足を止めた。先のほうに目を凝らすと、奥の光が少し違う色を放っている。
「ついたか……あそこにオアモールがいるはずだ。だがヤツは寝ているわけではない、鉱石は絶対に踏むな」
「土でなく鉱石をですか?」
「そうだ」
「普通の石と違いがわからないものはどうしたら?」
「儂は【採掘師】だ、見れば鉱石かどうかの判断ができるから俺のあとをこい」
なるほど、もちろん経験もあるだろうけど職業があるからここまで自信を持って的確な判断ができていたのか。
それならば俺も力になれる可能性は大きいだろう。
「わかりました、ほかに注意点は?」
「絶対にヤツの前で鉱石を取るな。ヤツは餌を取られると暴れる」
「執着がすごいですね……倒すことはできないんですか」
「倒すことも可能だろうが儂は戦闘職じゃないからな、お前が倒すか?」
「無理ですね」
「ならば大人しくしておけ。万が一見られてもジッとしていれば暴れない」
俺が頷くとトス爺は広間へと入っていく。オアモール……いったいどんなモンスターなんだろう。
気持ちが昂るのを抑え、俺はトス爺の後ろをついていく――広間に入ると球状のように広がっていた。
「広いな……んっ? あれは……毛玉?」
下を見ると真っ白いふっさりとした毛玉があった。
「オアモールだ。普段休むときはああやって丸くなっている」
メユちゃんやリリアがいたら絶対喜びそうだな……なんかあんな感じのキーホルダーとかあった気がする(前世にだけど)。
トス爺は注意深く周りの鉱石を見ている。
「くそっ……みつからんな」
よし、俺も探してみるか。そう思いトス爺をものまねしようとしたそのとき――
「キュー……キュッ?」
下を見ると丸まっていた毛玉が横に広がり、よく見ると小さなゴマ粒のようなものが見える。あれってまさか、目?
退化してるから小さいのか、しかしその姿はどう見ても……女子受けを狙っているようにしか見えない。
「トス爺……あれって……」
「動くなよ」
しばらくオアモールはきょろきょろすると、俺たちがいることにやっと気づいたのか、こちらをジッと見つめた。
そしてそのゴマ粒のような小さな目から涙のようなものを流したと思うと分厚い爪を振ろうとしている。
「キュキュキュー!!」
「トス爺これはどうする?」
「……と、とりあえず逃げるぞ!」
急いできた道を戻ろうとするとオアモールは削り取るように道を崩し、その衝撃で出口も埋まってしまった。
「しまった!」
「くそ、やるしかないか」
可愛い顔してあの腕はヤバい!
追撃に備え構える――だがオアモールはそのまま倒れる。真っ白な毛の一部がちょっとだけ赤く染まっているが……。
「こいつ、怪我してるのか。どうします?」
「手負いのモンスターは危険だ。どうにかして倒すしかないな」
仕方ない、まずは離れて様子を見てみるか。
【ものまねし:状態】
微妙な違和感を感じるが……しかしそれだけで体は普通に動く。きっと痛みに慣れていないだけで動こうと思えば動ける状態なんだ。腕もかなり密度を感じる。
これなら鉱石すら砕――そう思ったときトス爺の頭上の土が崩れ落ちてきた。




