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22話 『目的』

「よぉー! 食べてるかぁ!?」


「はい、こんなにご馳走になっちゃってなんか悪いですね」


「おいおい、何を言う! 遠慮なんてしないでほら、カンパイ――ん~? なくなっちまってらぁ」



 酔いどれ気分の男性がコップを片手に去っていく。今日は天気もよく、俺たちの歓迎をしたいと町の人たちが外で簡単なパーティを開いてくれた。



「みんな楽しそうだね~」


「あぁ、天気が晴れるとこんなに気持ちがいいんだな」



 子供たちはルークや美味しい食事に感心をよせ、大人たちは呑み喋りそれぞれ思い思いに楽しんでいる。そんな中、トス爺が隅で一人物思いにふけっていた。



「今日はありがとうございます」


「お前さんらには恩があるからな。それに客が来るのは珍しい、いい機会だった」



 トス爺はゆっくり酒を飲む……一緒に町を眺めていると、先ほどの酔っぱらった男性がふらふらとした足取りでやって来る。



「やぁ二人とも、さっきは酒がなくなっちまってすまんなぁ!」


「……おい、あんまり飲みすぎるなよ」


「んあ? トス爺はいつも飲んでんじゃねぇかよ」


「儂は飲んでも飲まれはせん」


「なぁに自分だけ棚にあげて……あのときだってそうだ」



 へらへらと男性はけしかけるように――だが、どこかまじめな口調で俺たちと、そしてトス爺にも聞こえるように喋り続けた。



「トス爺はな、目の前に伝説の洞窟があったってのに怖気づいて逃げたんだ」


「伝説の洞窟?」


「あぁ、その奥には希少な鉱石がたー……っくさん埋まっててな! そこならあの石だって」


「……おい、喋りすぎだ」


「おぉっと、それじゃあ俺はこの辺でおさらばするぜ」



 さすがにトス爺が本気で怒ってるとわかったらしく男性はそそくさと立ち去った。

 伝説の洞窟……洞窟なのに伝説?



「トス爺、伝説の洞窟ってどういうことだ、教えてくれ!」


「私も気になるなぁ、お爺さん教えてくれませんか?」


「……あいつめ、余計なことを……」



 俺に肩を掴まれリリアにお願いされたトス爺は逃げるすべもなく、観念したのか語りだした。



「ここからさらに山に登ると洞窟がある……が、もちろん普通の洞窟ではない」



 オアモール――通称、鉱石喰いと言われ人気のない山奥に生息し地中にある鉱物を食料としているモンスター。


 その中でも特に大きく成長したオアモールの食事はひたすら進みながら豪快に食べまくる。結果、人間の手では辿り着けない奥深くまでいき、その先には滅多にお目にかかれない鉱石の山が広がるという。

 だがそのままという訳ではない、一度食後に休んだオアモールの食事が再び始まれば、辺り一帯の鉱石はすべて食べ尽くされ道も崩れ去る。そしてオアモールは食後の睡眠……昼寝を始めれば数年は起きないとされている。



「まず大きくなる個体が非常に少ない、そこからさらに食事痕に出会えることは難しい」


「なるほど……それで伝説と言われているんですか」


「そのモンスターは食いしん坊なんだね~」



 リリアが笑いながらどんなモンスターか思い浮かべているとトス爺は優しく声をかけた。



「嬢ちゃんは……一人を犠牲にしてみんなが助かるか、全員が危険をおかして一人を助けるならどっちを選ぶ?」



 突然だな。普通に考えるなら誰が犠牲になるのか、切り捨てても(・・・・・・)いい人間かどうかによるってところか。

 ま、この場合は一人を犠牲にみんなが助かる方法になるだろう。みんなが一致団結して危険をおかすなんて0に近いし、言い方が悪いが実際そんなものだ。

 リリアは少し考えたがすぐに答えを出した。



「ん~、みんなが助かる方法を考える!」


「ほう? それがなければどうする」


「それでも何か……みんなで考えれば、きっと何かあるはずだよ!」


「……ふっ、嬢ちゃんはわがままだな」



 そういうと今まで少しも笑顔を見せることのなかったトス爺が、ほんの少しだけ笑ったような気がした。

 リリアは一人が長かったからな……。リリアには綺麗な心のままでいてほしい――頷きながらそう思っているとメユちゃんがやってきた。



「リリアお姉ちゃん! ルークちゃんと一緒に遊ぼう!」


「よーし、ちょっと待ってね。レニ君行ってくるね」


「おう、気を付けてな」



 残された俺はトス爺の横に座ると、本題を切り出した。



「……で、洞窟はまだあるんですか?」


「なんだ、欲にでも目が眩んだか」


「いえ、俺は単純に伝説と言われた場所が見たいだけです」


「俺の話を聞いてなかったのか? オアモールの食事が再開すれば」


「そこです、再開すればってことはまだ再開していないということですよね。それに、あの男性が言っていた石ってなんですか?」


「面倒なヤツめ……お前は本当に人間か? 見た目と中身があっとらんぞ」


「たまに言われますね」



 笑ってごまかすが、変に話をそらされないようにそれ以上何も言わずにいるとトス爺が立ち上がる。



「……話してやる、今夜お前一人で家へ来い」


「ま、まさか口封じで消すつもりじゃないでしょうね?」


「馬鹿なのか疑い深いのか……まぁ恐ければこなくていいぞ」



 世の中には油断させておいてってのもあるからな。

 パーティも終わったその夜、俺はリリアに説明し一人でトス爺の元へと向かった。




 * * * * * * * * * * * *




「さて、何から話すか……お前は氷雪結晶を知ってるか?」


「メユちゃんの首飾りのやつですね」


「知ってるなら話が早い」



 トス爺は頷くとそのまま静かにため息をついた。



「あの首飾りに使われているのは欠片だ。自分じゃ体温を下げられないあの子はこのままだと――死ぬ」


「ええぇッ!? く、首飾りはちゃんと動いてましたよ!」


「今はな、しかしあの子が成長すれば欠片では力が足りなくなる。時間の問題だ」


「そんな…………そうだ、昼間言っていたモンスターが作った洞窟なら!」


「あるだろうな」



 トス爺はさも当たり前のように言い放つと酒を飲む……どこか他人事のような言い方に俺は食って掛かった。



「そ、そこまでわかっててなぜ」


「オアモールの話は覚えてるか?」


「えっ? あ、はい」


「あいつは今掘り疲れて休んでいる状態だ。そして洞窟をみてわかった――あいつは洞窟内に罠を仕掛けている」


「罠?」


「あぁ、ところどころ土が異常に柔らかいんだ。それこそ少し叫べば崩落するくらいに」


「……だから奥まで行かず、すぐに引き返したんですね」



 万が一崩落した場合、全員が犠牲になる可能性を考えたわけか。これなら怖気づいたなどとは言えないな……。



「何か方法はないんですか」


「もろい土をモンスターに気づかれず進められればいいが……そんなことできるわけがない。それにできたとしても、もう時間がない」


「なぜです?」


「グロウジカの群れが動いただろう? あれはオアモールの腹の音がなったからだ」


「はっ?」


「あいつの腹の音は徐々に大きくなり動き出す前の合図になる。いくら鉱物ばかり食べると言っても、巻き込まれないように周りの生物は逃げるんだ」



 どんだけ大食いなんだよ。腹の虫ですら伝説級とか……行くしかないじゃないか!

 こんなよくわからない伝説に会えるチャンスだって、この機会を逃したらもう二度とないかもしれない……それにメユちゃんをなんとか助ける方法を見つけないと。

 いや、順序でいったらメユちゃんのためにいくべきなんだがこの際同時だから仕方がない。



「とりあえず明日、その場所へ連れてってくれませんか?」


「諦めが悪いな、まぁ見に行くだけならばいいだろう」


「ありがとうございます」


「このことはメユには秘密だぞ。いたずらに不安を煽るべきじゃないからな」


「はい、わかってます」



 トス爺と約束を取り付けると俺はすぐにアリッサさんの家へ戻りリリアと情報を共有した。

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