201話 『始まり』
「父さん、母さん、それじゃあ行ってくるよ」
「リリアちゃん、シャルちゃん、このバカをよろしくお願いね」
「ミント殿、ルーク殿、このバカをよろしく頼む!」
「ちょっ、なんで俺ばっかり!?」
「ふふふ、こちらこそしばらくの間レニ君をお借りしますね」
あれから数日、私はこの世界のどこかにいる両親を探しにいくため旅に出る準備をしていると、突然レニ君が旅に出ると言い出した。
どうやらルークで空を飛んだのがきっかけらしく、今まで抑えていたモノが爆発したらしい――ということで今日は私たちの旅立ちの日となるのだが。
「パパは強いから大丈夫だよー」
「シャルうぅぅ、王都についたら買い物いこうな!」
「そうやって甘やかさないの、シャルは王都についたらミントと勉強だからね」
「「ええぇぇそんなー!!」」
レニ君はみんなのことを大事にしてくれる。シャルに甘々なのが玉に瑕なのだが、これはこれで楽しいものだ。
「はいはい二人とも痴話喧嘩はそこまでにして。王都じゃ竜の巫女の末裔だとか噂が広がってるみたいだし、さっさと誤解を解きにいかないと」
「それもそうだな。母さん、婆さんのことよろしく頼んだよ」
「あぁもちろん、リリアちゃんも安心していってきなさい。親御さんが早く見つかるように祈ってるよ」
「おば様、ありがとうございます。みんな、それじゃあいこっか!」
ルークに乗り王都へ向かう。はじめは大騒ぎしていた王城も今では担当者となったソフィアさんとタイラーさんのおかげで竜は王都の象徴となった。
「よぉお前ら、相変わらず元気そうだな」
「タイラーさんもお元気そうで何よりです。修行のほうはどうですか?」
「黒竜に鍛えられるなんざ命がいくつあっても足りねぇよ! ま、俺とソフィアにとっちゃありがたい限りだがな、こうみえて感謝してるよ」
二人は力をつけるため山に住むニッグから鍛えてもらうことになったのだが――これはニッグからの提案だった。竜に鍛えてもらえる人間など人類史上初らしく、ニッグにとっては暇つぶし兼遊びにもなると好都合だったらしい。
時々空いた時間を使ってソフィアさんは私たちに魔法の使い方や心構えを教えてくれた。シャルだけでなくミントにも思い当たるところはあったらしく、とてもいい勉強になったといっていた。
「ところで俺たちのこと、竜の巫女の関係者だって噂が立ってるようなんですが」
「そりゃあそうだろう。竜を従えた人間なんておとぎ話だからな」
「僕は目立ちたくないんだ、ここは商人も多いんだしそんなこと言ってないで変に広がる前に抑えてよ」
ミントのいう通り変な期待や勘違いをされてもなぁ。まぁ実際私のお母さんが竜の巫女だったわけだから間違えてはいないんだけど……あんまり目立っちゃうのもよくないよね。
「残念だけどそれは無理かも。どこぞの国であなたたちによく似た像があると聞いたわ。なんでも世界を救った伝説のパーティだとか」
ソフィアさんは出遅れたことに謝罪しながらも不敵な笑みを浮かべていた。それをみたミントは何かを察したのか声をあげる。
「げっ……それって……」
「ママと作ったやつだー! かっこいいんだよー!」
「何か知ってるみたいだな。とにかく、そのこともあってお前らに似た奴らの噂はあることないことでもちきりだ」
「ねぇシャル、その像ってどこにあるの」
「えっとー、砂漠と、ワンワンがいたところと、あとはー――」
「ワンワンってまさか……魔界にも作ったの!?」
「そうだよー! シャル、みんなといったところ目印つけたー!」
ということはまさか魔法都市やエルフの森にも!?
「ミントッ!」
「僕は知らないよ!? まさかそんなことになってるとはね。シャルだって悪気があったわけじゃないしどうしたものか……」
「なぁ、みんなでその像を見に行こうよ! どうせまだ旅の目的はリリアの両親を探すくらいで、どこにいったか情報もないんだしさ!」
「さんせーい!!」
みんなで旅をした場所か……楽しいことも辛いこともいっぱいあったけどそれが今の私たちをつくったんだ。
レニ君がいつも前を歩き道をつくり、引っ張ってくれたからこそ……いつか隣に立って――か。
「……そうだね、いこう! みんなで、一緒に!!」
「仕方ない、あまりにも酷かったら破壊するからね」
「そうと決まれば善は急げだ! ルーク、準備はいいな!?」
「グォォォオオオオオオオオ!!」
「たまには顔出しにこいよ、いつでも待ってるからな」
「あなたたちの旅の無事を祈ってるわ」
「ありがとうございます! それじゃあ――行ってきます!!」
レニ君が号令を出すとルークが羽ばたく――この先どこかでレニ君の記憶が戻るかもしれないし、戻らないかもしらない。
だけど一緒に旅をした彼はここにいる、いつもと変わらないメンバーと共に。
私たちが足掻いて手に入れた未来、新しい旅はまだ始まったばかり。