21話 『何事も経験です』
そんなに飲み過ぎたわけじゃないからそのうち起きてくるだろう……幸せそうな顔してるがよっぽどいい夢でも見てるんだろうか?
「よしっと……本当に助かりました、ありがとうございます」
「どういたしまして。そういえば自己紹介がまだだったわね。私はアリッサ、この子はメユよ」
「お兄ちゃんさっきはありがとう。それにドラゴンを連れてる人なんて私初めてみた!」
「名前はルークって言うんだ。俺はレニ、あの子はリリア、よろしくね」
簡単な自己紹介を終えると下で待っているルークの元へ行く。
やはりドラゴンというのが珍しいのか二人は興味深そうにルークを見ていた。
「ルークちゃん、私はメユ。よろしくね」
「クゥ~」
着物の母子にドラゴン、その異様な光景は絵的に映えているとは思うが…………。
その姿はどう見ても寒そうだ。というかそもそも、寒冷地で着物みたいな服を着てるってのがおかしい。
「二人はその格好で寒くないんですか?」
「私とメユは雪人族だから寒さには強いの」
雪人族……雪女みたいなもんかな?
メユちゃんは気に入っているのか自慢げに着物をひらひらさせた。
「えっへへ~お父さんにもらったんだ~! あとこれもお兄ちゃんに見せてあげる!」
そういってメユちゃんは首飾りを手のひらに乗せた。真ん中には小さな宝石のようなものがはめ込まれている。
「綺麗なネックレスだね」
「これに魔力を込めると冷たくなるんだよ! ほら――」
メユちゃんが手に持った首飾りの宝石は徐々に青くなる。すると周りの空気がキラキラと輝き出し、途端に吐く息が白くなっていった。
こりゃあすごい…………だ、だが普通の人間には寒すぎる! 下手をすれば一時的にでも外のほうがましと思えるくらいの寒さだ。
「すごいでしょ~!」
「う、うん……すっ、すっ、すごっいね~……」
「メユ、そろそろやめなさい。お兄ちゃんが困っているわ」
「あ、そうだったごめんなさい!」
宝石の色が戻るとすぐに部屋の気温は暖炉によって温められていく。助かった……でもあの寒さで普通ならもしかして暖炉をつけてると二人とも辛いんじゃ……。
そんなことを思ってると寒さにも平然としていたルークが階段を見る。
「お、リリア起きたか」
「皆さん……ご、ご迷惑をおかけしました……」
「体調は大丈夫? まだ寝ていてもいいのよ」
「い、いえ大丈夫です!」
リリアが急いで階段を降りてくるとメユちゃんは駆け寄っていく。
「リリアお姉ちゃんおはよう!」
「お、おはよう。えっと……」
「その子はメユちゃん、こちらがお母さんのアリッサさんだ」
「メユちゃんおはよう。あの、ご迷惑をおかけしました」
「助けてもらったのはこちらのほうよ、だから気にしないで。さて、それじゃそろそろ夕食の準備をしようかしら」
「お母さん、今日のご飯は何~?」
「レニさんのおかげでグロウジカのお肉も手に入ったことだし、今日はお肉を使ったシチューにしましょうか」
「やったー!」
「すみません、ご馳走になります」
「色々とすみません……あ、私も手伝います!」
リリアがお辞儀をすると全員で準備を手伝い夕食を済ませる。こっちの世界のシチューというのがどんなものか気になっていたが以外に肉がメインで美味かった。むしろこんな場所だからこそというのもあるんだろうか?
「美味しかった~!」
「ご馳走様でした」
メユちゃんが大満足のように腹をさすると、温かいミルクを飲みながらみんなで一息つけた。
「二人は温かい食べ物とか大丈夫だったんですか?」
「このくらいは平気よ。温かいご飯が美味しいっていうのは私たちも一緒だし――それに雪人族は元々体内を冷やす能力があるの。メユはできないけど首飾りがあるからね」
「さっきレニ君が言ってたやつかな?」
「お姉ちゃんにも見せてあげる!」
そういって首飾りを取り出しリリアに見せた。もしかしてまた魔力を込めるのか!?
だが、メユちゃんはリリアが確認するとそのまま首飾りをしまった。
「綺麗な宝石だね~」
「うん! 氷雪結晶って名前だったかな? お父さんはこれの研究ばかりでほとんどいないんだ~」
そう言って寂しそうにするメユちゃんを見るとアリッサさんはすぐに話題を変えた。
「さぁ、そろそろ片付けをしましょうか。二人とも疲れてるだろうし今日は先に休んでてもらっていいわよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、洗い物だけでもやりますね」
みんなで片付けを終わらせるとさすがに慣れない雪山で疲れていたのか、俺はルークを連れ部屋に入るとすぐに横になった。
* * * * * * * * * * * *
~その夜、リリア視点~
「なんであんなこと…………」
ベッドにうつ伏せになり枕に顔を沈めると、ミルクを飲んだ後の記憶が転々と脳裏に浮かぶ。
どうして私はあんなこと……それにおんぶしてだなんて!
今思い出しても顔から火が出ると思うくらい恥ずかしい。しかもそのまま寝てしまう始末……さっき謝ったら笑いながら気にしないでって言ってたけど、絶対重いとか思われてるよ……。
「もう最悪……」
少しだけ寝たせいかまだ眠りにはつけそうにない……なんとなしに横を向くと机に置かれた鞄がみえた。そういえばあの絵本どうなったかな?
椅子に座り絵本を取り出す。表紙にはしっかりと【リリアちゃんの絵日記】と書かれていた。
どれどれ…………
『薬をもらいに初めて村へ入ったら魔女と間違われちゃった……こわくて泣いていたら男の子が助けに来てくれた。だけど私のせいで顔にケガをしちゃったの……それなのに男の子は鞄の心配ばかり、変な子だったなぁ……ありがとう』
『明日、初めて外の村に行くことになった! いつもなら厳しく止めてたおばあちゃんも最近すごく優しいし何かあったのかな? あの男の子のおかげ? また会えるといいなぁ』
『今日も村の子供たちに誘われて大忙し――でも、最近お家の手伝いができていない。レニ君がよくくるから大丈夫って言ってたけど、おばあちゃんとばっかりお話してるし……』
懐かしい思い出を見ながら何枚かめくると、後半のページが変わっていることに気がついた。
≪タカノツメ≫
鋭く燃え盛る炎の爪が標的を焼き斬る。同時にあの頃の辛い思い出も蘇る……。
「この絵……これって魔法のこと?」
次のページにはクマの絵が描いてあった。
〖サポートベアー〗
困ったときのお助けクマさん――使用状況、魔力によって現れる姿は様々。
性格は使用者に依存する。
「あのときはモンスター《ブラッドベアー》のイメージが強かったからなぁ……可愛くなっててよかった……」
今のところはこれだけだが、新しい魔法を覚えたとき魔法の詳細が分かるのであれば今後も役に立つだろう。あとでレニ君にも教えよっと。
ただし絵日記の中身だけは絶対に見せられない。
懐かしいで済むページもあれば済まないページもいくつかあった――読まれないようにだけは気をつけないと。
そう決心し本をしまうと、明日に備え布団にもぐり目を閉じた。