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200話 『仲間』

 空を徘徊している竜は間違いなく私を探しているようだが森ということもありなかなか降り立つことができないようだ。



「ストップ―!」


「だ、誰ッ!?」



 声のするほうをみると木で作られたような獣がいつの間にかこちらへ向かってきていた。あんなモンスター見たことも聞いたこともない。

 空からは竜、地上では獣、執拗に二匹が追いかけてくる。なぜこんなことになっているのか……普段の自分の行いが悪かったのかは謎だが今は必死に逃げるしかない。


 こうして追いつめられるように逃げた先には崖が現れ、その下には透き通るように綺麗な泉があった。


 ここは一度レニ君に教えてもらった場所……一見浅いようにみえるが、泉はかなりの深さがありここから飛び降りても平気だって言っていた。



「グウウウウゥゥ!!」


「ちょ、ちょっと逃げないでよ」



 なぜか喋る獣がこちらに寄って来ると、後ろには竜が大きな翼を羽ばたかせながら降りてきている。どのみち助かる見込みはない、ならば一か八かモンスター同士争わないか掛けてみるしか……。


 レニ君は昔自分で飛び込んで確かめたって、でもこんな高いところ――。

 崖から跳ぼうとするも足がすくんだ私にほんの一瞬彼の声が聞こえる。咄嗟に地面を蹴り泉へと飛び込む。


 疲労からか水を吸い込んだ服の重さを感じながらどんどん身体は沈んでいく。最後の希望を信じてあがくことなく息を止め続けていると誰かが身体を掴むのがわかる。


 薄っすら目を開けるとそこには彼の姿があり、安心からか私はゆっくりと意識を手放した。




 * * * * *




「はぁはぁはぁ……くそ、くるならこいッ!!」


「僕らは敵じゃないって! 彼女が誤解しただけで僕らは味方、君たちを助けにきたんだ!」


「グウウゥゥ」



 体中に張り付いた衣服が重い……仰向けになったままゆっくり戻ってくる意識の端で言い争う声が耳に入る。

 目で声を追いかけるとそこでは私を守るように立ちふさがる男の子と、困ったように首を振る蒼い竜、その横で必死に何かを訴えかける妖精――そう、私は彼らを知っている。




『選択をしたのはあなた自身。さぁ、進みなさい』


 ……そうだ、私が彼を守るんだ。



 長い間忘れていた記憶が蘇っていく。全て思い出すともう一度あの声が頭に響いた。




『リリア、13歳、職業――魔女、夢は現実となり、現実は夢となる』




 これは神の祝福……記憶が戻る瞬間を待っていたのだろうか? とにかく、みんなを止めないと!!

 すぐに体を起こし立ち上がると気づいたみんなが駆け寄ってくる。試しに体を乾かしてみようと魔法を使うとあっという間に含んでいた水分がなくなった。



「リリア無事だったのか!? 反応がなかったからてっきりもうダメかと……よかった……」


「心配かけてごめんね。ミントとルークも元気そうで何より」


「僕の方こそ遅くなっちゃったみたいで悪かったね。ルークがいて助かったよ」


「グゥルルルルルル」



 頭を下げたルークをなでていると未だ状況が理解できていないのかレニ君が恐る恐る話しかけてくる。



「リリア、このドラゴンは……それにこの子は妖精? 知り合いなのか?」


「……うん。みんな、私たち(・・・)の仲間だよ」


「そうだ、もう一人忘れてるよ、ほらっ」



 ミントが一冊の本を持ってくる。これは――本を受け取り中身を開くと魔法陣が現れる。



「パパ、ママ、みーつけた!!」


「シャル! あ、もしかしてまだ次元回廊にいる?」


「うんー、ママなんとかできなーい?」


「やってみるわ」



 持っている本に対し魔法を使うと光り出し消えていく――これで大丈夫だろう。【魔女】の力は魔法使い以上に単純で強力みたい、もしかするとあれ(・・)もできてしまうのだろうか。



「うん、これで大丈夫みたいね」


「うぉー! ママすごーい!!」



 抱きついてくるシャルの頭を撫でているとレニ君がまたしても手をあげて質問を投げかけてくる。



「リ、リリア……その子はいったい……今、本から出てこなかった? それにパパって誰のことをいって……」


「パパはパパだよー! シャルはシャルー!」


「えっ、お、俺!? シャルちゃん、誰かと勘違いしていない?」



 どう説明すべきかな……レニ君は記憶がない、だけど今の私ならきっとあの頃の記憶を戻してあげることだって――。



「ちょっと失礼――この子は本に閉じ込められてたんだ。両親は遠い昔に亡くなっていてね、彼女と君のことを両親の代わりと思ってるんだ。気持ちを汲んでもらえないかな? ついでに僕はミント、彼はルーク、よろしく頼むよ」


「あ、あぁよろしく。事情はわかった、シャルちゃん、俺はレニ、よろしくね」


「パパよろしくー!!」



 こんな調子がずっと続く……これからも、ずっと……。どこか息苦しさを感じつついるとレニ君がそわそわとした様子でこちらを見てくる。



「リリア悪いんだけどさ、その……ドラゴン、えーっと、ルークに触ってもいいか聞いてもらえないか?」


「それなら大丈夫だよ。ルークはレニ君が大好きだから、いっぱい撫でてあげて」



 最初は緊張した様子で触っていたが徐々に慣れたのか、まるで以前のようにシャルも一緒になって遊んでいる。



「ねぇ、君余計なこと考えてるんじゃないの? あいつの記憶を戻そうとかさ」


「えッ!? そ、そんなこと……」



 思ってないとはいえない、だって……そうなればどれほどいいかと考えてしまっているから。



「気持ちはわかるよ、でもメアがいってただろ。ここは新しい世界だ、過去にとらわれることのないようにって」


「うん……」


「ほら、あいつをちゃんと見て。記憶がなくなったからって以前とどこか変わってる? 僕は同じように感じるよ」



 ミントはルークの背に乗りはしゃいでいるレニ君をみた。当たり前だが姿は一緒だし性格も変わらない。ただ一つあるとすればそう――私たちとの思い出がないだけで。



「なぁルーク、俺を乗せたまま飛ぶことはできる?」


「グォォオオオオオオ!!」



 ルークは嬉しそうに声をあげると一気に翼を羽ばたかせ空に飛び立った。



「あっ、バカ! まて――」


「ッうわああああああああああああ!!!」



 初めて乗ったレニ君はバランスを崩して落ちてしまう可能性がある。ミントはすぐに後を追い、シャルと私は万が一に備えすぐに魔法を使えるように構えた。



「――ううぅぅっひゃぁぁぁあああああああ!! ルーク、最高だよー!!!」



 悲鳴交じりで聞こえてきた声は冒険をしていた頃と同じ彼の声だった。すぐにミントが戻ってくると空で縦横無尽に飛び回るルークを指して肩をすくめた。



「心配して損したよ」


「ぷっ……あはははははっ!!」


「パパ楽しそー!」


「やれやれ、あんなに飛び回っちゃって、村になんて説明しようかねぇ」


「お城にも報告しないとね。ソフィアさんとタイラーさんにも会えるかも!」



 レニ君は何も変わっていない。変わったのは私たちのほうであり、それは望んだことでもあったんだ。

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