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198話 『絆の邂逅②』

 果ての大地……外ではそう呼ばれているようだけどこっちからすればここが中心であり、異常に広い人間界や魔界のほうが果ての大地といっていいだろう。



 世界樹の頂上、そこには何百年も咲き続ける花があった。魔力が凝縮され光り輝くそれは彗星のようにさえみえる。



「――まさかこのときのために残してくれてたとはね」



 世界樹の魔力を受け入れる器となるべく育った羽はラーティアのように輝きを放ち、幻獣の島で得た力に勝るとも劣らない魔力を感じる。

 僕の記憶が戻ったのは城の書庫で時の英雄、ラーティアについて調べていたときのことだった。



 彼女は、幻獣を捕らえようと愚策した王族を捕らえ群衆を味方につけると女王様に直訴した。その後、妖精の在り方を見直させ外の世界へ導いた彼女はメッセージを残し姿を消した。


 その一文に王や群衆は、ラーティア自身が病に侵され死を悟り、後進となる者にあとを託した――という解釈をしていたが、記憶の戻った僕からすればそれはわざとらしく残されたヒントだった。



「さて、こんなもんかな、あとは……」


「ちょっとこんなところにいたのねッ!? 護衛隊長のあなたがサボってばかりだと女王様に迷惑がかかるの! 少しは自覚を――」


「それなんだけど僕、今から大事な約束があるから出掛けてくるよ。女王様にはもういってあるから、あとのことはよろしくね」


「えっ? ちょ、ちょっとミント!!」



 なんだかんだでライムは勘が鋭く女王様の補佐には僕よりも適任だ。護衛たちだってさすがにベヒーモス相手に勝てるとまではいわないが、そんじゃそこらの軍隊相手なら数人で十分なほど強い。


 ま、それでも僕は負けないけど。下手な気は起こさないようにちゃんと教えているし、力は守るものがあって初めて意味を成す。


 必要以上に奪うならさらに強大な力に奪われるだけ、そんな欲望の果てがアビスだったのかもしれない。



 空を飛び結界を抜けるとあっという間に砂漠がみえてくる。この国では色々と世話になった……まさかとは思うが念のため視ていくか。


 変わったところといえば神殿だったものが城になっているくらいで露店の商人たちも活気に溢れている。問題はなさそうだ――そう思った矢先、目に入ってきたのは人間の少年少女を模した石像、その間には小さな女の子、横には竜とその背には偉そうに腕を組んだ妖精がいた。



「なにこれ……まさか……」



 確信はないがその予感に導かれるように城の中へ入り込むと見慣れた人物が部屋に入るのがみえた。

 あとをつけ部屋に入るとこの国の王に王子、そして水の国の王女サーニャ、三人は机に置かれた本を前に言葉を交わしていた。



「父上! すぐにでも向かわねば手遅れになってしまいます!!」


「巫女が残した本ではそろそろのはずじゃ。兵にはそれらしき来訪者があればすぐに伝えるよう言っておる、今は待つのじゃ」


「……申し訳ございません。私にもっと力があれば……」



 サーニャが力なく肩を落としているのをみると砂漠の国にきた理由が原因だろう。ついでに気になるのが本の中身だ、それにあの石像、いったい何がどうしてああなったのか聞いてみるしかないな。



「ねぇ、何かお困り? 僕であれば力を貸すよ」


「な、何奴だ!?」


「おっと騒ぐのはやめてね。僕も約束があるからあんまりここに長居してられないんだ」



 兵を呼ばれたら面倒だと思ったがすぐに三人は口を噤んだ。そして慎重に、まるで選択を間違えないようゆっくりと王は口を開いた。



「妖精よ、そなたは世界を救ったという伝説のパーティの一人、ラーティアの子孫か?」


「へっ? ラーティアは確かに英雄だけど祖先なんかじゃ……待って、その本、何が書いてあるの」


「これは昔、国がモンスターの大群に襲われたとき少女が不思議な魔法で助けてくれた際に置いていったものじゃ。何かわかるのであれば読んでみとくれ」



 王は慌てて本を手に取ると差し出してきた。ページを開いてみると丁寧な言葉が並べられている。




 この世界は滅ぶべき運命にあった。

 終焉と深淵の災厄、英雄たちは集いそれを阻止した。


 そして新たな世界が始まり――目覚めし英雄が集い始める。


 また巡り合うそのときを待て。



 シャルの本に間違いなさそうだがシャルが考えるような内容じゃない。いったい何があった?

 内容を読みながらそんなことを考えていると本が光出し、魔法陣が展開されると見覚えのある空間が現れた。



「ミントおじちゃんみーつけたー!!」


「シャル、この内容誰が考えたの? それにあの石像はなんなの?」


「ママだよーまだこっちにはでてこれないから、わかりやすいように目印をおこうって決めたのー!」



 なるほどシトリーだったか、どうやら変な気は起こしていないようだな。確かに妖精で名を馳せた英雄といえばラーティアくらいだから勘違いするのも頷ける。

 久しぶりの再会に喜んでいると恐る恐る王子が声をかけてきた。



「巫女様、我らをどうか導きください!」


「むー? シャルは帰らないとダメだからミントおじちゃんに頼んでー。ばいばーい!」



 そういえば次元回廊がある限りシャルはまだこっちにいることはできないんだったな。早く解放してあげたいが、まずはあいつらの状況もみてやんなきゃいけないから今は急ごう。



「あの……妖精様……」


「様なんてやめてくれ。君たちの問題はなんとなくわかるけど僕も時間が惜しいからね。何があったのか全部話してくれれば解決策を教えるよ。それでもダメなら伝説の英雄が助けに来てくれるから安心して」



 たぶんまた来そうな気がするし、これなら今度きたときはオアシスでゆっくりできそうだ。


 案の定話を聞くと水の国が隣国の脅威にさらされているとのことだった。すぐさまサーニャに歴史を確認すると、セイレーンの歴史はそのままらしくフィル、そしてラカムに協力を求めるように伝える。



「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか? 私なんかがそんなこと……」


「君は強い、やり遂げようと信じればできるよ。それに今は一人じゃない、彼がいるだろ?」



 王子は相当な力を持っていた。サーニャだって本来ならラカムたちをまとめることができるはずだし、今なら二人で人々を導くこともできるだろう。



「もし、どうしても危なくなったら石像と同じ竜を連れた少年を探して、僕もそこにいるから」


「は、はい! 色々とありがとうございます!」


「それじゃあまた――っと、この本は仲間のものだからもらっていくよ」



 頭を下げる三人を背に本を抱えると仲間たちのいる村を目指した。

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