196話 『終局』
戻ってくるなりメアさんは『過去は正常に戻った』ということだけ伝えてきた。それ以外のことは未来に変化を及ぼしてしまうため今は何もいえないとのことだ。
「あらっ、一人足りないようだけど何があったの?」
「それがね――」
ネーナさんがメアさんに伝えると顔をしかめ何かを考え、しばらくすると徐々に独り言が漏れる。
「今まで一切反応を示さなかった神が彼に干渉した……? もしかしてあのときも……やってくれたわね。リリアちゃん、私だったモノに何を言われた?」
「えっ……」
「ほんの一瞬、私じゃないモノがあなたに接触したはず。私にとってはほんの違和感程度だったけど、たぶんネーナが魔法を使おうとしたときね」
そういえばメアさんはあのとき借り身っていっていた。あれは神様だったっていうこと?
問われたため答えただけで特別助けるとも言われていないことを説明するとメアさんは口に手を当て考え始めた。
「彼の話と照らし合わせてみるときっとその神は何もしていない。何かするのはもう一人の神……まさか神が二人いるとは……」
「ねぇ、あいつはその問いになんて答えたのかわからないの? きっとそれが原因で一人だけ残るとか言い出したんだよ! 君だってきっとそのせいだ! 何か、洗脳されてるのかもしれない!!」
本当にそうなのだろうか。むしろどちらかと言えば本音をあぶりだされたような気がする。望むのであれば何かを捨てなければいけない――今まで魔法使いだけは例外だと思っていたが、あの声を聞いてはっきりとわかった。
私たち魔法使いもみんなと同じ、例外なんてものはなく知らず知らずのうちに何かを望んでは何かを捨てていたんだ。
もし例外があるとすればやっぱりレニ君のように外からきた人だけってことなのかも。
「神が洗脳なんて考えにくいわ。聡い彼のことだからきっと初めからわかっていたのかもしれない。見た感じあなたも洗脳されてるようには見えないからね」
「私もそう思います……。問われたとき、まるで一切の嘘が通じないようでした。本当の望みとそのために必要な覚悟……それを確認させられたような、はっきりとは説明できないんですが……」
そう、レニ君には自由に生きてほしい。だから次の世界では私が守る。彼の隣には立てないかもしれないけど、自分が死ぬという運命にあるのならばこの記憶を利用し絶対に生き延びてみせる。
そこに今の彼はいない、いるのは新しく生まれ変わり何も知ることのない彼。だけど記憶がなくたって一緒だ、レニ君は変わらない。
改めてあの問いを思い返すと今の彼を連れ戻したいというのがいかに自分勝手だったのかがわかる。
「本当にあきらめるの? 今までのことはどうなるんだよ、確かに辛いことは多かったけど……あいつの中にある僕らとの思い出だって消えるんだよ?」
「レニ君は私たちのことを考えてくれたんだと思う。だから最後の約束、守ってあげようよ」
「……わかった、君がそう決めたのなら従う。だけどシャルにはどう説明するの? 暴れられても困るしまた予言の本なんて出されたら困るのは僕らだよ」
「私が説明するわ。メアさん、まだ時間は大丈夫ですか?」
それほど切羽詰まってるわけではないようでメアさんはゆっくりと頷く。レニ君がしてきたようにルークの元にみんなを集めると作戦会議を始めた。
「ルーク! あなたはまだ生まれていなかったけど、卵の中に生命としてすでにいたからきっと記憶は残るはずよ。思い出したらすぐに村へきて」
「グゥッ!!」
「ミントは国に異常がないようならすぐに村へ、まだ子どもの私たちじゃ力はないから助けてほしいの」
「こんな遠くまで無茶をいうねー。ま、あいつほどじゃないから簡単か」
「そしてシャル!!」
「はーい!!」
やっと自分の番がきたと楽しそうにしている。この子にはすべて話すべきか悩むところもあったが正直に話そう。だが、伝え方が肝心だということを学んだ。
「パパはね、世界を救ったけど生まれ変わることになるの。私たちやシャルのことはもう覚えていないけど、そんなパパをシャルは助けてくれる?」
「忘れちゃったのー? 魔法で思い出させようよ!」
「それはダメよ、パパは記憶を失ったわけじゃなくて無くなるの。だからね、パパからの約束で新しいパパのことを頼んだっていわれてるから協力してくれない?」
「ん-? 新しくなってもパパなんだよね?」
「……そうね、新しくなってもパパはパパよ。記憶がないだけで今までのパパと変わらないから!」
「じゃあパパを助けなきゃー! シャルは何をしたらいいの?」
生まれ変わってもレニ君はレニ君か……そのとおりね。初めて出会ったあの頃と何も変わらない。私たちが変わったとしても、レニ君は変わらないんだ。
「あなたは前にいたお家に戻ることになる。辛いでしょうけど、絶対に私たちが迎えにいくからそれまで予言の本――いいえ、パパがしてきたように人助けをしててほしいの。難しかったら私たちがくるって待っててもらえばいいから」
「またあのお家に戻るのー?」
「シャル、私が一緒にいてあげるから安心なさい。あなたはまだまだ知識が足りないからね」
シトリー……協力してくれてありがとう。
一通り話がまとまった私たちの元へみんなが集まってくる。
「俺たちもそんくらいまとまりがありゃいいんだがなぁ」
「あら、違う時代の除け者同士ってのも悪くなかったじゃない」
メアさんのパーティは皮肉を交えつつもなんだかんだ楽しそうな雰囲気だ。種族も関係なくみんな仲がよくて、きっとレニ君が求めていたのもこんな感じだったのかな。
『我もお主らには借りがある。戻ったらできる限り手を貸そう』
「ニッグさん……ありがとうございます」
「こいつだけじゃない、俺も借りができちまった。まさかあんな形で助かるとは――」
「おっと、それ以上はダメだよ。時がきたら僕が伝えておくから」
ヒュノスさんが何かのお礼をいったが、ミントが止めるとヒュノスさんは頷き口を閉じた。
なんのことかわからないがきっとレニ君がしてきたことが功を成してくれたんだろう。いつかミントが話してくれる日を待つのも楽しみとしていいかもしれない。
「リリア、いつか必ず会いましょう。そのときはお父さんも、側にいるみんなも一緒に、ね」
「うん! すぐに会いにいくからお母さんも元気でね!」
別れは辛いけどまたすぐに会える。みんなでお別れを済ませるとメアさんが魔法陣を出した。
「それじゃあ新しい世界へいきましょう。もしも記憶と違う変動があったとしても、あっちじゃそれが正しいことよ。過去にとらわれる事だけないようにしてちょうだい」
メアさんの話をきくと、私たちはそれぞれ魔法陣に包まれ徐々に意識が遠のいていった。




