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195話 『成長』

「それじゃああいつは神様に会ったっていうの!? そんなバカげた話信じるかってんだ! 早く連れ戻してよ!!」



 時乃回廊に戻るなりミントの大声が聞こえてくる。お母さんに詰め寄っている姿はすぐに何かがあったのだとわかった。

 シャルは遠くでフェンリルと遊んでいたが、ラーティアさんたちは重苦しい空気で二人を囲んでいた。



「ミントッ! 落ち着いて、何があったの?」


「ちょうどよかった! あの女はどこ!? すぐにあいつ(レニ)を連れ戻すんだ!!」


「メアさんなら上手くいったのか確かめにいくって……レニ君がどうかしたの?」


「僕たちは騙されてたんだよ! アビスがいなくなれば平和になる――それは今のあいつがあいつじゃなくなるってことだったんだ!」


「ど、どういうこと……? お母さん、いったい何があったの!?」



 レニ君がレニ君じゃなくなる? 何を言ってるのかさっぱりわからない私に対しお母さんは静かに息を吐くとジッと私の目をみつめた。



「リリア、よく聞きなさい。彼からの伝言よ」




 アビスがきたというのは神様にとって例外だった。だからもう一人の神様が正常に戻すという選択をした。それは別に悪いとかいいとかじゃなく、本来あるべき世界に戻るってことなんだと思う。

 もちろん、魔法は成功するから安心してくれ。みんなと、リリアのおかげで新しい世界への道は開くんだ。


 だけど一つだけみんなに言わなくちゃいけないことがある。

 次にこの世界へやってくる俺は、今の俺じゃない。みんなからすれば戻るということになるのだろうが俺にとっては新しい誕生ってわけだからな。



 ――だから、俺のことは忘れてくれ。新しく生まれてくるレニをよろしく頼む。



「私は彼の記憶を生まれてくる赤子に移そうか提案したわ。だけど『そんな非人道的なことは神様が許していないよ』っていってね……二度も三度も例外を作ってしまえば魔法使いという存在が危うくなる、だから俺はここでみんなと別れるって」



 ここで……お別れってどういうこと……? まだ旅は終わってないのに……もしかして、また同じ運命を辿るくらいなら、傷つくくらいなら記憶がないほうが楽だって思った……?



「あいつ、仲間だってのに挨拶もなしにいなくなろうとしてるんだよ!? 僕たちがどれだけ一緒に旅をしてきたのか! 君が一番わかってるだろ!?」


「…………もう、やめよう。きっと……ずーっと頑張ってきたから疲れたんだよ。そろそろ休ませてあげないと可哀そうだよ」


「な、何言ってんだよッ!?」



 本当ならアビスを復活させてでも連れ戻したい、だけどそれはレニ君が許さないだろう。せっかくみんなでここまできたんだ、最後までやり遂げなきゃ……。



「少し疲れたから休むね、何かあったら教えてください」


「リリア……」



 その場から背を向け歩き出す。一人になりたい気分だが状況が状況なため視界に誰も入らないよう位置を変え座る。


 誰が悪いわけじゃない――そんな場面はいくらでもあった。今まで気づかなかったのはレニ君がそのすべてを背負い解決してくれてたからだ。



 本当ならもっと失うものがいっぱいあって、悲しいことがいっぱいあって……みんなそれを乗り越えて大人になっていくんだろう。


 私も成長しなきゃ……レニ君みたいに、大人にならなきゃ……。




 * * * * * * * * * * * *




「いや~何度見ても綺麗な樹だな、世界樹もすごかったがやっぱりこの世界にきてよかったよ」



 前世なら世界遺産に登録されていること間違いなしだ。あの剣豪が見惚れていたのも頷ける。

 樹の前に座り、隣に置いた剣に語り掛けるとなんとなくだが意思がわかるような気がした。



「えっ、本当にこれでよかったのかって? ……いいんだよ。俺はあんなに素晴らしい仲間たちを持ったことは一度もなかった。それに、平常心を保ったままみんなに別れの挨拶をできるほど俺は強くない」



 あいつらの前で泣く姿なんて絶対にみせられないし、それにどうにかしようなんて考えてせっかくうまくいったチャンスが失敗でもしたらシャレにならない。

 やっぱ無理だったので戻してくださいなんてのは普通ありえないことなんだ。



 だから俺は神様の問いにこう答えた。みんなに幸せな世界線がくることを望み、俺は俺を捨てると。



 今思うと、あれは自分自身の覚悟を決めさせるために聞いたんだと思う。

 神の祝福もそうだ。あれはもらったというより、自分が選択した道を確かめさせているだけのようにみえた。


 自分にはわかっていなかっただけで、深層心理にあるそれをはっきりと理解したとき、身体の魔力が職業として構築されていく――のかどうかは知らないが、己の人生の道標となるように作られていたのかもしれない。


 世界のシステムを理解することなどできないがそうだとでも思っておいていいだろう。



「お前も次の世界ではヴァイスさんを助けてくれよ。ローラさんにだって才能があることはわかったんだし、全力で語り掛ければ気づくはずだ」



 キラリと光を反射した剣はそんなことわかっているといっているようにもみえる。俺にとってもこいつには最後まで助けられたわけだし、仲間たちと同様、別れるのは名残惜しいな。



「さて、そろそろか。ネーナさんには嫌な役をさせてしまったが……ま、変な約束もさせられたしお互いさまということにしておこう」



 これまでの思い出を懐かしむように俺はゆっくりと眼を閉じた。

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