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191話 『起点①』

 棺が大きく揺れ動き堅牢な蓋が見た目に反し宙高く跳ね上がると静寂が広がる。

 溢れ出てきた漆黒の影は動きながら人を形作っていくと、まるで沼からあがるように現れたそいつは相変わらずの調子だった。



「残念だったね、僕にはこんなもの効かない――あれ、仲間はどうした? あ、もしかして僕に勝てないからって見捨てられちゃった感じ?」


「どうしてもお前に勝ちたくてさ、一人でも残るって言ったら本当に置いてかれちゃったよ。酷いと思わないか?」


「アハハハハ! お前バカじゃんッ! 相手が強いのに逃げないとか、負けフラグまっしぐらだよ!」



 相手をコケにした様子で笑っているが思った通り、こいつは前世の俺と同じで才を何も持たなかったか、持っていることに気付かなかったヤツだ。

 この調子だと見つける努力すらしたことがないのかもしれない。テレビやネットで自分の憧れる人たちを見ては目の敵にしていたはず――それが今、驕り高ぶる態度として顕著にでている。



 たまたま得たアビスという身体で、まるで変幻自在の魔法をもらった子どものように、それが自分に与えられた力だと歓喜している。

 だがこいつはこの世界に興味を持たなかった。自分のことばかりをみつめ、結果、己を知ろうとしなかった。


 もし少しでも何かに疑問を持ち、能力や魔力の存在を把握されていたら万に一つも勝ち目はなかったが――



「準備ができたわ。時間は持って数分、二度目はないと思ってね」


「わかりました、ネーナさんも大変だと思いますがよろしくお願いします」


「ちょ、君ッ!! 可愛いね! もしかしてヒロイン枠? よっしゃ大当たりじゃん! こんな子と付き合いたかったんだよ!!」



 ネーナさんの姿を見て大喜びしているが……どこまでバカなのだろう、どうみてもお前の敵じゃないか。もしかしてこいつ――



「あら、私こう見えて旦那と娘がいるのよ」


「んん? ……あぁ、こいつを倒せば洗脳が解けて娘がもらえるってやつか。勝ち確イベならそんなところだろ」


「何をいってるのかわからないけど娘は今大恋愛の真っ最中、あなたじゃ釣り合わないの。ねっ、おうじさま?」



 シャルの真似かはしらないが、そういながら俺の腕を掴んできたネーナさんはまるでスキンシップの上手な女の子。

 俺も中身がおじさまじゃなかったら惚れちゃっていたかもしれない。そんな余裕を見せる俺たちに目の前のアビスはイラついていた。



「さ、私は邪魔になるからいくわ。あとはよろしくね」



 ネーナさんが手を振りながら花咲く樹の元へいくと魔法を唱える。それを止めようともせずジッとみていたアビスは短く息を吐いた。



「ちっ、もっと清楚かと思ったがとんだビッチだな。娘だってたかが知れてんだろ」


「…………お前、童貞だろ?」


「はっ? 何言ってんの、煽ったところで俺に勝てるとでも思った? 選ばれた勇者の俺と違ってお前は負けフラグしかないモブなんだよ、強いと思って即退場するほど残念だという自分のキャラを理解していないんじゃないのか」



 気持ちはわかるが早口になるなって! 別に恥ずかしいことじゃない、だけど勝手な妄想を押し付けるのはよくないってだけだ。

 自分の立ち位置をいくらアピールしても中身が伴ってなければマイナスにしかならないぞ。



「こんなクソイベ面倒くせぇしさっさと終わらせるか」


「さて、さっきもいったが勝たせてもらうぞ。恨みっこはなしだ」


≪スキル:ものまね(ヴァイス、剣聖)≫



 漆黒の剣を手にアビスはこちらへ駆けてくる。ひたすら斬り合い、さっきと変わることのないまま俺は押され始めた。



「やっぱお前弱ッ! その立派な剣は俺がもらってやるよ。ヒロインを見つけたら売っぱらった金で装備でも揃えてあげるからさ!」


「これは俺の大事な相棒だ、そう簡単にはやれないな」


≪秘剣:四方≫



 見事に細切れになるがアビスは何事もなかったかのように戻っていく――が、こちらの予定通り一部霧散した場所の回復に遅れがでているのがみえた。



「もう諦めなって、無理なものは無理なんだからさ」


「いや、そろそろ終わりだ。お前は自分の異変に気付いていない」



 アビスの攻撃をよけ片足を切ると霧散しその場に倒れる。すぐに戻らない脚を見てやっとアビスは気づいたようだ。



「なっ、てめぇ何をした!?」



 やはり自分の体を理解していない。このアビスは俺の魔力が生前の姿を記憶し、そして中身のこいつは人間だった頃の感覚のままに動こうとした。だから地面を踏んでる感触や痛覚を持っていなくてもこいつ自身は疑問に思わなかったのだ。


 そして魔力という媒体で体を維持しているアビスは、その源が絶たれれば回復もできないのは必然である。


 この場所は地脈の合流地点のようなところだが、言い換えれば複数ある線がたまたま重なっただけだ。ならばその線からくる魔力を止めればどうなるか――。



 やれるかどうかは正直賭けだった。だが調べてみると五芒星のように五つの細い地脈が通り合っており、そこさえどうにかできればこの中央部分だけが孤立するような形になっていた。


 ミント、ニッグ、ルーク、ヒュノス、ラーティアさんの五人にはその地点に向かってもらい、流れる魔力の向きを変える起点となってもらった。


 あとはシャルの力で中央を通らないよう起点同士に魔力が流れるようにする。そして中央に残った魔力をネーナさんが封じ込めれば、ほんの数分、アビスが吸い取れる魔力すらない大地の完成だ。



「ここじゃ確定したイベントなんてないんだよ、じゃあな」


≪絶剣:桜花奉断≫



 防御しようと構えた剣ごと大地を切るとアビスは徐々に霧散していく。



「なんだこれ! なんで治んねぇぇえええええッ!? ――あ、あいつか!? 何か仕組んでやがったな! くそが、死ねぇぇぇえええええええ!!」



 霧散していたアビスが集まり漆黒の槍が出来上がると、崩れかけのその腕でネーナさんに向け投げつけた。

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