187話 『目線』
自分を守ってくれる相手を探し出し契約をする。契約した相手にメリットは一切なし、術者の都合のみが叶えられる魔法――危険なときに駆り出されるのだから身代わりといってもいいだろう。使われる側からみれば呪いだ……。
お母さんが自分のことをどれだけ心配していたのか、頭ではわかっているつもりだった。
一番辛かったのは魔法使いでありながら何もできなかったお母さんだろうと……お父さんは許してやってくれといっていたが、元々恨んでることもなかった。
……だけど、あの場にいたらもっと酷いことを言ってしまいそうな自分がいた。
「あなたも聞いてたわよね……魔法使いって身勝手で……最低だと思わない……?」
「グウゥゥ……」
強くなって負担を減らして、彼の変わりに死ぬことになったとしても今までの恩を返したいと、そう決めたはずなのに……。
『彼の傷つく姿を見続けることになるだろう。その覚悟はあるか?』
お父さんの言葉、あれは本当だった。私はその言葉に応えたはずだった。
ミントに何度も喝を入れてもらい、シャルの母としても多少は板についてきたかと思っていた。
なぜ今になって心が揺らぐ? お母さんが勝手なことをしたから? 違う、あれは私のためであって仕方のないことだ。それにいってしまえば私だって魔法を使い、彼の人生を変えてしまった一人、お母さんを責められるわけがない。
これが終わったら謝ろうと思ってたのに……なのに……なぜ、レニ君なの……。
「話は聞いたよ、まさかあいつが転生者だったとは、どうりでいろんな知識を持ってるわけだ」
「あ、ミント……びっくりだよね。私の身代わりで呼ばれたなんて……今更謝っても許されないことをしちゃってた」
いっそ、お前のせいで酷い目にあったんだと――少しでもいってくれれば楽になるのに、そう考えるのは逃げというものだろう。
「あいつはなんて? 文句の一つでもいわれちゃった?」
「ううん、みんな無事でよかったって……でもちゃんと話してないし、本当は自分の人生めちゃくちゃにされたって、怒ってるかもしれないね」
「そんなことないよッ! パパはママを助けにきたおうじさまだから!」
シャルが必死に擁護するが助けにきたら呪われていたなんて迷惑でしかない。そんな卑屈な考えばかりが巡る私にシャルは一枚の絵を見せてきた。
子どもと両親だろうか、幸せそうに笑い合っている三人の絵だった。
「あのね、パパとママにあったの。パパとママに会う前よりずーっと昔の、パパとママに」
「それって……まさか、記憶が戻ったの!?」
黙っていたことが悪いと思っていたのかはわからないが、こくりと頷いたシャルは少しばつが悪そうにしている。
「あとでみんなにいおうと思ってたの。だけどママが悲しそうにしているの嫌だから、パパにみんなのこと頼んだって言われてるから……パパ、ママのこと少しも怒ってないよー」
「そんなこと聞いてみなきゃわからないわ。私は、シャルを救った両親みたいに立派じゃないのよ」
「シャルわかるの、パパはママのこと大好きだから! 昔のパパとママみたいに愛し合ってるのッ!」
「ッ!?」
きゅ、急に何を言ってるのこの子は――すぐさまミントの悪知恵かと思ったが、自分は関係ないと顔の前で手を振り首を横に振った。
「ママが怒るのはパパが大好きだから! でもパパも大好きだから大丈夫だよー!!」
「わ、わかったから! もう少し静かにして!」
「お婆ちゃんもママが大好きなの、だから許してあげて、ねッ?」
許すも何も別に……いや、シャルの眼には私が怒ってるように映っているのだろう。驚いてジッと黙っていたミントがやってくる。
「まさかシャルがこんなに成長しているなんて、あいつのいった通りだったね」
「うん、やっぱりレニ君はすごいね……」
「契約の話、あいつは微塵も気にしてないと思うんだけど、君は自分を許せないみたいだからね。けじめとして一緒に謝ってあげるよ」
「本当は怒ってたらどうしよう」
「前にもいったけど文句を言われたら僕も一緒に謝ってあげるよ。もちろん君もだ」
「グゥ!!」
そんなことないとわかっているのかルークは元気に返事をすると立ち上がった。早く戻ろうと急かしてくる。
一緒に危機を乗り越えた仲間たちのなんと頼もしいことだろう。
「僕らだって君たちばかりに負担はかけたくないからね。だからこうして強くなったんだ」
* * * * * * * * * * * *
最後に現れたアビス、異常な力を持っているだけでなく驚異的なあの回復力……倒す方法などあるんだろうか。
変化したであろう過去と未来を覗いてくるといっていたメアさんが戻ってきた。
「案の定というか、やっぱりあれが全てに繋がっていたわ」
「元凶ってアビスの王たちじゃなかったのか」
「私もそう思っていたんだけど、あなたたちが王を倒し変化した未来ではあれが好き勝手していた。それに過去も以前にみたものとは違った。むしろ、こっちがもう一つの真実だったといってもいいかもしれない」
今度はそっちを止めなくてはいけないわけか、まったく面倒なモノを連れてきてしまったな。
俺だけくればよかったんだがさすがに前世じゃ霊感なんてなかったし、仕方ないといえば仕方ないんだが。
「あいつを倒せば終わりそうか?」
「えぇ、でも一つ問題があるわ。あなた自身についてなんだけど――面倒だから直接みてもらったほうがいいわね」
魔法陣が俺とメアさんを包み込むと次に現れたのは見知った家の中だった。