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185話 『フラグ』

 翼に穴が開き周りを真っ黒なアビスが侵食している。すぐさまルークが蒼い炎を全身に纏うと、アビスは霧散し消え炎のおかげか、若干ずつだが治癒されていく。

 すぐに警戒しつつルークに傷の程度を確認する。少し休めば飛ぶくらいなら問題なさそうだが、問題はどこから攻撃されたかだ。


 アビスの王は倒した……俺たち以外の誰かがアビスの王を倒し切れなかったのか? 未来の変化は過去に影響を与えるとメアさんがいっていた。

 みんなの動きによって新たにアビスが出現したのであれば倒しておかなければマズい。



「いやーお見事、君、この世界(・・・・)で相当な剣の使い手? まるで漫画やアニメみたいにかっこよかったよ」


「ッ!!」



 感心するように拍手をしながら歩いてきたそいつを見て俺は絶句した。アビスで形作られたその姿は何年経とうが決して忘れることができない。

 ワイシャツで袖をまくり、律儀にネクタイを締めている。そしてその顔……シルエットのようになっているが忘れるわけがない。



 すべてが平凡であり、しまいには素質ナシと判断された男――『羽佐間 幸信』



「僕は別の世界からきてね、いわゆる異世界転生ってヤツ? ま、この世界じゃ君も強いみたいだけど――そうだ、ドラゴンって経験値高そうだし倒させてよ。ついでにレアアイテムでも落としてくれれば最高なんだけど」


「はッ!? 何言ってんだお前……」



 アビスの手に黒い塊が集まると漆黒の槍が出来上がりルーク目掛けとてつもない勢いで放たれた。


≪スキル:ものまね(ヴァイス、剣聖)≫


 咄嗟に剣で弾き落とすと槍は霧散し消えていった。剣から伝わった衝撃で腕がしびれている……なんとか間に合ったが今まで出会ったアビスの中でも強さが異常だ。



「邪魔しないでよ、僕は神様に呼ばれた救世主なんだ、君が相手になるわけがない」



 意気揚々と言い放ったその姿はまるでゲームと勘違いしている子ども。アビスであるのは間違いないが知性が高いのか低いのかわからない。

 それに見た目は俺だが中身がまるで伴っていない。


 こいつも切るべきなんだろうか……いや、切るべきなんだろうけど……。



「ルークは俺の仲間だ。救世主だかなんだか知らんがここで消えてもらうぞ」


「はっ? 何言ってんのお前――」



 お返しとばかりに油断しているアビスの身体を斜めに切り裂く。驚いた表情のまま切られたアビスは霧散したかにみえたが、よく見ると徐々に再生を始めていった。


 この剣は対アビスといってもいいはずなのに……。



「あはははははは! 驚いた? 僕の身体は特別なのさ、そんなんじゃ痛くも痒くもない。せっかくだし少し相手してやるよ」


「ちッ……!」



 漆黒の剣を手に襲い来るアビスはチャンバラごっこもいいところだったが、何よりも厄介なのは攻撃することしか考えていないそのスタイル。

 ダメージを受けないのか回復できるという自信なのか、避けることを一切しないため攻守攻防はなく、ただひたすら斬りかかってくる。


 カウンターしようにもダメージがなければ成立しない。切り付けた箇所が霧散しているのをみると確かに俺の剣は効いてるはずなのに突っ込んでくる……そして無茶苦茶なその剣が重い。

 徐々に押され受け流すので手一杯になると、突然アビスは勝利を確信したように剣を下げた。



「どう、力の差がわかった? これは負けイベじゃない、君のレベルがどれだけ高かろうとも僕に勝つことはできないようにできているんだ」


「それはどうかしら」



 メアさんの声と同時に指を鳴らす音が響くと棺が現れ、アビスが吸い込まれるように消えていくと、棺の蓋は音を立てて閉まっていった。

 オーランの遺産、まさか持ちだしてきたのか。



「これで終わったのか?」


「いいえ、その場しのぎにしかならないわ。それより大事な話があるから戻るわよ」



 この状況でメアさんから倒せという言葉がでないということは、こいつに勝つことができないわけか……。

 俺たちはルークの傷の確認をすると魔法で戻ることにした。




 * * * * * * * * * * * *




 目をあけるとシャルがいた場所と酷似している空間が広がっていた。



「レニ君!」


「パパーおかえりーッ!」



 その声にすぐさま振り返るとそこにはリリアとシャル、それにフェンリルと……髪がピンク色の女性が立っていた。

 女性は俺に近づいてくると観察するようにみてくる。



「あ、あのー……あなたは?」


「…………誰だと思う?」


「……リリアの、お姉さん?」



 なぜか質問をそのまま返されとりあえず答える――どこかで聞き覚えのある声のような…………。

 女性はまじまじと見ていた俺から目を離しリリアたちをみる。



「ねぇ聞いた!? 私、あなたのお姉さんにみえるみたいよ!」


「ママのママはやっぱりお姉ちゃんー?」


「そうね……私、お婆ちゃんじゃなくてお姉ちゃんになろうかしら……」


「ちょ、ちょっとお母さんッ!! レニ君ごめんね、この人、私のお母さんなんだ」



 リリアが嬉しさと恥ずかしさが交じるように照れ笑いしている。

 お母さんって……若すぎない? 目の前で紹介された女性は笑顔で手をひらひらさせているが、いくらなんでもアインさんがあの見た目でその奥さんって……これじゃあどうみても訳アリにしかみえないぞ。



「改めまして、リリアの母、ネーナよ」


「この声……あっ、ああああああああ!?」



 そうだメアさんが言っていた、俺を呼んだのはリリアの母親だって……!


 握手を求めるネーナさんの表情はその通りといわんばかりに笑顔だった。我に返り急いで握手をするとリリアが説明を始めた。


 まさかネーナさんがアビスの王だったとはな、俺を呼んだあとはここでアビスと戦っていた――ってまてよ。俺を呼んでからアビスの存在を知った?



「ネーナさん、俺を呼ぶ前にアビスを見たり聞いたりしたことはなかったんですか? リリアを生む前とか、旅をしていた頃に噂とかは?」


「聞いたことがないわ。あんな生き物(?)がいるなんて初めて知ったし、対処法もわからなかった」



 徐々にアビスの正体に近づいている気がする。さっきの奴も前世の人間にしかわからない単語を連発していたしなぜかまではまだわからないが、多分俺以外にもこっちにきている人がいる。

 ゆっくりと確実に真実へ近づいている俺たちに対しメアさんが現れ口を開いた。



「そろそろ話してもいいわね。当事者もいるし、ついでに答え合わせをしましょうか」



 アビスはいつ、どこから生まれてきたのか――メアさんの口から次々とでる真相は俺が思っていた違和感をより確かなものへと変えていった。

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