19話 『夢の墓場』
ドラゴンに降ろされた場所は辺り一面真っ白、猛吹雪でホワイトアウト寸前だ。
これ、スキー場ならリフト止まるぞ……足元だって雪が入らないように対策したし、前もって外装をもらってなければ死んでたかもしれん。
「……こんなところに町があるのか?」
『ここをまっすぐいけ、そうすれば町に出る』
「ほんとかよ……嘘じゃないだろうな……?」
『はーはっはっはっは! 今更怖気づいたか?』
いきなり南極か北極スタートなんてシャレになってないって……しかもあんた、顔が笑ってるじゃないか。
ドラゴンは外皮が特殊で熱も寒さも平気らしい。そのせいか、ここに着くなりルークも初めて見る雪に大興奮だ。
「ま、こんなスタートも悪くないか」
『ふっ……旅の無事を祈っておるぞ、小さき友よ』
「あぁ、ありがとな。あんたも元気でいろよ」
「ドラゴンさん連れてきてありがとう! いつかまた会いに行くからね!」
リリアの言葉に頷くと、ドラゴンは猛吹雪をものともせず翼を羽ばたかせ飛び去っていった。
「よし、それじゃ出発だ」
「うん! ルーちゃん、行くよー」
「クゥー!」
俺たちは猛吹雪のなかひたすら歩く……そして、何か違和感を感じた瞬間、吹雪が弱まり目の前に町が現れた。
「うぉ、町だ……ほんとにあった!」
「よかった~迷子になっちゃったかと思っちゃった」
うん、俺も思ってた……まっすぐ歩いてたと思ったらまっすぐじゃなくなって遭難というのはよくある話だ。
内心どきどきしてたけどリリアの手前、不安にさせるわけにもいかなかったし本当によかった。
「よし、まずはこの町について色々聞いてみよう」
「うん!」
街に入るとボールがこちらに転がってくる。そしてすぐに女の子が走ってきた。着物のような姿だが……上下とも七分丈くらいしかない、絶対寒いって……大丈夫かこの子……。
「ありがとう、お兄ちゃんたち見かけない人だね」
「俺たち旅をしていてさ、さっきここに着いたばかりなんだ。町を案内してくれる人とか知らないかな?」
「うーん……あっ、トス爺なら詳しいかも。あっちのレンガのお家だよ」
「わかった、ありがとう」
女の子は手を振って去っていく――それを見送った俺たちはレンガの家へと向かった。
「お前たち……どこからきた?」
「わッ!? 大きい!」
突然の声に振り返るとそこには大きな爺さんが立っていた。白髪を伸ばし、髭もしっかりと伸びている。
あー……これはもうあれだな。手には瓶を持っており顔が赤い、俺は完全に飲んだくれだと判断した。
「あの、俺たち旅をしていて初めてこの町に来たんです」
「ほう……こんなところまでのこのこやってくるとはよっぽど方向音痴のようだな」
「あなたがトスお爺さんですか? ここに来たとき、女の子に教えてもらったんです」
爺さんはリリアとルークを見る。そして……
「……訳アリか……中に入れ。お前もこい」
「クゥー」
でたよ、酒飲みは女に弱いんだ! 前世で築いた情けない偏見を思いだしながら俺も一番最後に家の中へと入る。
「その辺に座るといい」
「お邪魔しまーす」
「クゥ~」
座って待っているとトス爺がホットミルクを出してくれた。
爺さん気が利くじゃないか、やはり冷えた身体にはこれだろう。
「ほれ、飲んで温まるといい」
「ん~いい香り! いただきます!」
「ありがとうございます」
お~……寒いときはお茶もいいがこれもいい。ホットミルクで火傷をした思い出がある俺は少し冷めるまで待つことにした。
「儂はトスグルード、まぁ……トス爺とでも呼べ。お前たちは追われてるのか?」
そういうと座って暖炉の火を眺めているルークに目をやる。もしかしてドラゴンの子ってわかってるんだろうか。
「いえ、色々あって旅をしてるんです。あ、俺はレニ、彼女がリリアでそいつがルークです」
「色々か……難儀なもんだな」
そういうとトス爺はため息をつきコップに手をやる。暖炉の火に照らされた顔は、何かしらみんなが問題を抱えている……そう言ってるように感じた。
俺たちのことを誤解されてるような気がするが、まぁいいか。
「そうだ、この町に入った途端吹雪が落ち着いたんですが、何か仕掛けでもあるんですか?」
「町には結界が張ってあるからな。今日のような強い吹雪でも町の中まで荒れることはない」
「そんなことまでしてこんな雪の山に住んでいるのは何か秘密でも?」
「なぁに、どこにでもある話だ。鉱山で一発当てようとみんなが集まり…………退くに退けなくなった奴らが残った廃れた場所さ」
夢を諦めきれない人たちのたまり場か……。気づけば何やら外が騒がしくなり家に男性が入ってくる。
「トス爺、グロウジカの群れだ!」
「なんだと……今行く!」
「モンスターですか?」
「あぁ、この辺りじゃ食料とされている貴重な資源だ。その分滅多に群れで動くことはないんだが」
その話を聞くと突然、やけに大人しかったリリアが声をあげた。
「うふふふふふふ…………レニ君、私たちのればんよ!」
「リ、リリア?」
「おひぃちゃん、わらしたちがいればだいひょうぶだからッ!」
ろれつの回っていないリリアは立ち上がりフラフラしている……ま、まさか!
ホットミルクをほんの少しだけ口に含むと、大人だった頃の記憶が蘇る。
「爺さん、酒飲ませたのか!」
「あぁ、温まるにはこれが一番だからな。それにお前たちくらいならとっくに呑んどる頃だろう?」
「リリアはまだ呑んだことがないんです! と、とりあえず水を――」
「さぁわらしたちの出番よ、ルーふ!」
「クゥ!!」
酔ってて遠慮がないからか普段のリリアからは想像もつかない力で腕を掴まれる。そしてルークも完全に勘違いをしていた。
俺の体をリリアとルークが外に押し出していく。
「ルーク待て、違う! これは――トス爺ヘループ!」
あっけにとられたトス爺を前に俺はそのまま引きずられていった。
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