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180話 『未来の英雄③』

 強力な魔法とはなんだろうか。すべてを灰塵にする爆発、魂まで凍らせるような冷気、膨大なエネルギーで大気と地を揺らす雷光――そのどれもが個々の属性を持ち甚大な破壊力をもたらす。

 もちろん、彼女たち魔法使いが放つ魔法というのも強力だ。常識の範疇から外れたそれらはもはや奇跡といってもいい。


 ……そして、よりにもよって、僕の仲間はそんな非常識な連中が集まっていた。普通じゃ限界があるというのは身をもって体感していた。だからこそ考えた、この膨大な魔力をすべて無駄なく力にする方法を。



 さらに力を込めると放出された魔力がアビスを押し潰し、この世のモノとは思えない悲鳴と笑い声が響いていく。


 なぜ魔力酔いが起きるのか、回復魔法という都合のいい魔法が公に存在していないのか、僕が出した結論――それは、外から受ける魔力というのはある程度の例外を除けば、すべてダメージになりうるということ。



 膨大な魔力を凝縮させ一切の無駄をなくし相手にぶつける。僕がやっているのはいうなれば『無属性魔法』だ。



『まだだ! すべて出し切れぃッ!!』


「言われなくてもわかってる! そっちこそ出し切ってよッ!!!」



 圧倒的な二つの力を前に次々と霧散していくアビスは更に暴れ始めるがヒュノスはそれを許さなかった。

 ただひたすらに斬り続け、僅かな逃げ道すら残されていない状況で、全身を焼かれながらも動きを止めることはない。


 意志の力だなどと都合のいい解釈は不要だ。ただ一つ、その姿に敬意を払いすべてを込める。



「――これで、終わりだぁぁぁああああああああああッ!!!!!」




 随分と削られたアビスは最後の抵抗をしようと触手を取り込み身体を大きくしたが、ヒュノスがすかさず切り抜けるとバラバラになり、霧散して消えていった。


 魔力もほとんどつきた僕は辛うじて大地に降りると、ニッグも消耗しているのか落下するように大地へ着地する。

 すべてが終わったことを知ってか知らずか、ヒュノスは剣を持ち立ったまま制止していた。



「お、おい、大丈夫か!?」



 大丈夫なわけがないのは知っている、黒炎に包まれ魔力をぶつけられアビスに攻撃されていたのだ。だがそれ以外に言葉が見つからなかった。



『よくぞ……成し遂げたものだ。若き英雄よ』



 そこでやっと気がついたのかヒュノスはこちらに顔を向ける。しかしその目は焼け何も映してはいなかった。



「……オっ、おわ……っだ、カ……」



 短く発せられたその声は喉を焼かれたのか、ほとんど言葉になっていない。多分だが耳もすでに聞こえてはいないのだろう。


 助かることがないということは一目見てわかる。できれば誰一人犠牲なく戻りたかったが……。一番の功労者になんとか力を振り絞り近づいていくと背後に黒い点のような何かがみえた。



「ッ!! 後ろだヒュノス!!」



 やはり声が聞こえないのか、動かないヒュノスの背後にほんの小さなアビスが飛び掛かる。消耗しきっていた僕らにそれを止めることはできなかった。


 僕の目線に違和感を感じたのかヒュノスが後ろを振り返った瞬間、アビスは突如現れた獣人の身体に阻まれた。



「ぐっ……あぁあああぁぁぁぁ……」



 茫然とするヒュノスの前で獣人はアビスによって浸食されていく。苦しみながらも獣人は小さな小瓶を取り出し、ヒュノスに差し出す。



「……の、飲んでッ……!!」



 意図が伝わったのかヒュノスはその焼け焦げた手でなんとか瓶を受け取り、先端を折ると中に入った液体を飲み込んだ。途端にヒュノスの身体が元通りに治っていく。


 それは初めて見る光景――いくら強力な回復薬だとしてもありえない、目の前で起きているのはいったい何なのか――その異様な光景を目に焼き付けるようにジッと見ていた僕に声が聞こえる。



『もしやエリクサーか! 存在していたとは……』


「エ、エリクサーなんて幻の薬草だろ!? そんなもの――」



 あるわけがない。そう言いたかったが目の前の光景を説明するには十分な話だった。完全に回復するヒュノスの後ろで黒く飲み込まれていく獣人。



「……今楽にしてやる」



 ヒュノスが獣人に剣を突き刺すと全身からアビスが霧散し消えていく。だが、傷が癒えることはなかった。血を吐き寄りかかる獣人をヒュノスは丁寧に地面へと寝かせた。

 すぐに僕らも駆けつけたが傷は間違いなく致命傷だった。下手にアビスを逃がす可能性を考慮すれば仕方ないというしかないのだが……。



「なぜ俺を助けた」


「……あなたは……英雄だ、こんなところで死んじゃいけない」


「それを言うのならばこの世界で戦い抜いたお前こそが英雄だろう。俺たちはやるべきことをやったにすぎん」



 その言葉を聞いた獣人は苦しそうに血を吐くと、薄っすらと開けた目で僕とニッグをみた。



「僕は昔、四人の英雄に助けられた……だけどみんな死んだ。そんな僕を仲間に誘ってくれた人たちがいた……会うことはできなかったけど、君たちのようにとっても強い……最強のパーティ」



 そこまで聞いて僕は思い出した。仲間をずっと待ち続けた弱気な犬の獣人、目の前にいるその姿は成長し、ほとんど面影は残っていなかったが父親と雰囲気が似ている。



「僕ね、もう大切な人を失くしたくないから……探したんだ、薬。でも、もう誰もいなかった……だから、最後に、役に立ててよかった……」



 せき込んだその口からはほとんど血は出ず、もう随分と血を流したのかその顔からは生気が失われていた。



「君はもう立派な仲間だよ。あいつ(・・・)と同じで、勇気ある……とても立派な仲間さ」


「本物の英雄というのはお前のような者をいうんだ。俺たちが最期を看取ってやる、安心して眠るがいい」



 その言葉にニッグも頷くと、獣人は安心したのか天を仰いだ。



「ありがとう…………みんな……今……そっちに…………」




 * * * * *




 少しだけ回復した魔力で英雄の墓をつくり三人でお参りをする。こんな状況だからこそ小さく質素になったが、全員の心にはしっかりとその名が刻み込まれていた。


 アビスの気配は完全に消え、もう数分もすれば自動で僕らは戻される。そのとき、残りの王が倒されていれば僕らの勝ち。もし誰かが倒し切れなければ……。



「ふぁ~疲れた~! ねぇ、もし未来が平和になったら君たちは何をするんだい?」


「また違う未来を救いに――というかメアの暇つぶしに付き合うことになるかもな。ま、それもそれで面白いんだが」


『はっはっはっは! 暇つぶしときたか! ならば我も世界を渡ってみるとしよう。お前たちのような面白い者に出会えるやもしれん』


「一つ言っておくけどあんなの(レニ)が何人もいたらそれこそ世界の危機だからね。万が一見つけたらちゃんと止めてくれよ」



 すべてが終わった大地でのんびり過ごす。

 たまには、こうやって誰かのために頑張るというのも悪くはない。まぁ世界が平和になったとしてもあいつの周りは騒がしそうだけどね。


 それに彼女(リリア)の気持ちに気付くのもいつになることやら……いい加減はっきり言わせたほうがいいかもしれないな……まだまだやることは山積み、退屈せずに済みそうだ。

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