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178話 『未来の英雄①』

 錆のように赤黒く染まった空、充満した血の臭いと腐敗した肉、至る所で争いが起き無数の屍とアビスが入り混じっている。

 生命あるものは殺し合い、未だ正気を保っている人々は抗うも次々とアビスの餌食になっていく。



 小高い山の上から三人はそれを観察していた。過去に世界を滅ぼそうとした黒竜、魔族の過ちを粛清し姿を消した英雄、そして――。



「今更疑うわけじゃないんだけどさ、ここが未来だとして、本当に過去(・・)が変わるなんてことあるの?」


『正確には分からんが未来の変化が過去にズレを生じさせるらしい』


「ま、俺らがわかりようのないことを考えてもしょうがないわな」



 傍観していると最後の生き残りとなった獣人の前にアビスが集まりだす。絶望のさなか、大きな身体は悲壮な決意をみせ槍を構えていた。


 よくもまぁこの状況で諦めないものだね、正常を保つための防衛本能というやつだろうか。どことなくあいつ(レニ)に似てなくもない。


 あの無謀っぷりに慣れてしまっていたから忘れていたけど、こうして似た奴を見ているとやっぱりあいつはバカなんじゃないだろうかと思えてくる。




「くっ……まだだ! 僕は……こんなところで死ぬわけには!!」



 片膝をついた獣人の上を大きな影が通り過ぎ、気づけば多くのアビスが黒い炎に焼かれていく。

 強靭な翼をはためかせ、地上に降り立ったドラゴンから滅んだはずの魔族と妖精が降りてきた。敵か味方か……どちらにしろ終わりいく世界に希望はなかった。




「それじゃあいっちょやりますか」


≪エクスプロージョン≫



 大気が収縮され静寂と共に大爆発が起きる。アビスだけでなく、辛うじて息をしていたであろうモノすべてを巻き込むと、それを筆頭に炎の塊がいくつも落下し地を破壊していく。


 今までが静寂なる滅亡だとすれば、これは一方的な力による破壊。


 僕らのすべきことはアビスの王が終わらせるはずだったこの地を自分たちの手で滅ぼすこと。生き残りがいるかもなんて甘いことは一切考えてはならない。

 徹底して破壊し尽くすと地面が揺れ動き崩れていく。



「さぁでてくるぞ。ここからが本番だ」



 黒い液体が滲み出てくると、それは形容しがたい巨大なモンスターとなり、至る所から触手が出ていた。



『くるぞッ!!』



 ゆっくり動いていた触手は突如ものすごい勢いで暴れはじめ、近くに転がる屍を貪るだけでなく倒れた木々ですら飲み込んでいく。その姿はまるで生命を喰らい尽くそうとしているようだ。


 すかさずニッグが黒炎を吐くと哭声が響き渡る。よく見るとアビスの身体は人や生物を混ぜ合わせたような姿になっており、いくつもある口が叫びをあげていた。


 消えるはずのない黒炎に異変が起きたのは気持ち悪い叫びが甲高い笑い声に変わっていったときだった。



「ねぇ、なんか、あいつ炎喰ってない?」


「……まずいな。ニッグ、敵の様子が変だ、ブレスを止めろッ!!」



 ニッグが炎を止めるとアビスは更に巨大で醜悪に成長していた。触手は残った炎を喰らい尽くそうと自ら焼かれに動いていく。暴れる触手をヒュノスが切り落とすと霧散し消えていったが、残った触手は炎に喰らい付いていた。


 竜の炎を食べるなんて……吸収してるというべきだろう。とにかく秘密を見つけなければ僕らに勝ち目はないようだ。



「何か気づいたこととかない? このままじゃジリ貧だよ」


「切ればダメージがあるようにみえるが――この通りすぐに治るようだ」



 ヒュノスは巨体を十字に斬り伏せてみせると、叫び声が響いたのも束の間、笑い声が響きお互いを喰い荒らすようにくっついていく。

 そのままくっつき合うためただでさえ醜悪な姿だったアビスの王はすでに異形となっていた。




 * * * * *




『まずいな……こやつ、地に流れる魔力にも気づき始めた。このままじゃ手が付けられなくなるぞ』



 どおりでさっきよりもでかくなってるわけだよ。

 僕にとってこの地の魔力は薄すぎる(・・・・)――以前であれば大なり小なり探知するくらい訳なかったけど、幻獣の島に比べればあまりにも濃度が低い。

 さらにいえば、今の僕は幻獣の力を少しばかり持っているせいで、通常の魔力レベル程度じゃ違いがわからない。



「物理じゃダメージなし、かといって魔力を使えば美味しく頂かれる。しかも今度はタイムリミット付きと来たか」


「どうする? もう一度、今度は粉々にぶっ飛ばしてみようか?」


「まぁ待て、引き裂かれても平気だったんだ。たぶん余計に成長を促してしまうだけだろう」



 先ほどニッグが爪で巨体を引き裂いたが、剣で切られたときのようにばらばらになろうが関係なかった。

 あいつ(レニ)の剣があればもう少し楽だったんだろうがなぁ。



「あ、あの! 僕も一緒に戦います!!」



 先ほど後ろで見かけたきりの獣人が声をかけてくると隣に立ち槍を構える。見た感じ悪くはないがまだまだ成長途中だろう。

 装備も悪くはないが、それはあくまで一般的なモンスターを相手にした場合、アビスでは到底歯が立ちそうにない。



「せっかく拾った命なんだから逃げなよ。こいつは君じゃ無理だろ? ま、僕らだって厳しい状況に変わりはないんだけど」


「確かに僕じゃ倒すのは無理です……でも、弱点は見つけました」

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