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176話 『命の賭け(ミント編)』

 眩しい日差しが照り付け目を覚ますと真っ赤な宝石が視界に入る。完全に消耗した身体を動かす気にもなれず、ジッとしていると宝石が動き出し獣と目が合う。



「ミュッ?」


「助けてくれたの? それともまだこれから食べるとこだった?」



 どのくらい眠っていたのかわからないがなんとなく気分がすっきりしている。身体は酷く重いし痛みだって別に引いたわけじゃないのに……泣いたせいだろうか。正直これから喰われるとしても悪い気はしない。



「抵抗しないから早く食べなよ」



 この島にも慣れてきたのか魔力を海のように感じる。たぶんだがこの島の生物が異常に強いのはそのせいだろう。

 そして、過去に妖精たちが欲し手に入れようとした力……まったくバカバカしい話だよ。自分の力を信じもせず他人の力を奪おうなんておこがましいにもほどがある。



 その欲一つでどれだけの種族が争い合ってきたか考えなかったのかな。ラーティアがいなかったら僕たちのほうが滅んでたんじゃないの?

 そんなことを考えていると徐々に腹が立ってきた。



「もう、いい気分だったのに……最悪だよ、味が落ちちゃったかもしれない」


「ミュー?」



 自分の味なんて知らないけどこいつがさっさと食べてくれればこんな気分にもならなかったんだ。これじゃ八つ当たりのようなものだけどまぁ今更だし仕方ない。

 やっと食べる気になったのかもぞもぞと立ち上がると身体を震わせ、宝石が光に反射したかと思うと光り輝く。


 しばらく経つとなぜか先ほどまでの嫌な気分が消えていき頭がはっきりしてくる。



「……まさか君、僕のこと助けてくれてるの」


「ミュミュ?」



 伝わってるのかわからないがここまでして食べないということはそういうことなんだろう。しかし腹が減った……あまりにも魔力が濃すぎて気づかなかったが魔力で腹は膨れないのだ。

 それに身体が魔力に馴染もうとしているせいで余計に体力を消耗している……助かったはいいがこのままじゃ餓死だ。



「ねぇ悪いんだけど何か食べ物持ってない?」


「ミュー」



 伝わったのか獣は外に出ていくと小さな木の実を持ってきた。食べてみると味が濃くとても美味しい、ただこれだけでは量が足りない。しばらく休んだら自力で食べ物を探さないとな。



「よし、そろそろ行ってみるか」



 敵がいないことを確認し外へ出ていくと突然目の前にあった落ち葉の上に魔法陣が現れた。葉っぱの上に黄色いスライムが出現すると、ゆらゆら――ぷるぷると揺れている。


 なんだこいつは……襲ってくる気配はないようだがどれほどの強敵かわからないため迂闊に攻撃もできない……ジッとしていると後ろにいた獣が近づいていく。



「お、おい、危ないから近づくな!」


「ミュミュ……」



 ん? 匂いを嗅いでいるけど大丈夫なの? 恐る恐る近づいてみる……確かに動いていたと思ったが、今はまったく微動だにしていない。じっくり観察してみるとどうやら生物じゃなさそうだ。

 それにこの匂いどこかで……魔法陣から現れたことといい、もしかしてこれはあいつの……。匂いに誘われるままにほんの少しだけ齧ってみる。



「あっ…………ぁぁぁぁああああああああ甘ああああああいッ!!!!」


「ミュッ!?」


「くそ、こんなデザートを作れるのはあいつしかいない! 魔法陣といい、これしか送ってこないなんて薄情すぎるでしょ!!」



 僕を差し置いてこんなに美味しいモノを作ってる暇があるっていうのか、修行はどうしたんだよ! 修行は――――ってあれ、冷静に考えてみれば全員修行にいってるわけだから、終わりもしなければこんなことしてる暇はないはず。


 それにあいつは片腕、一人でこんな面倒な真似はしない。最低でもほかに仲間の誰かが修行を終えていなければならない。

 あいつはともかくとして修行を終えた誰かがほかにもいるってこと? ……すでに修行が終わっている可能性は?


 目の前に佇む黄色のデザートを前に冷静になっていく。



 ――数日間、私に会うまで死ぬ気で生き延びなさい。



 ラーティアはそう言った。だから僕はこの島で生き延びることが修行だと思っていた。

 考えてみれば変だ……生き延びることが修行になるとは到底思えない。


 数日間という期限、どのくらいかはわからないが実際僕が倒れていた日数も考えるのであればあとは隠れていればいいだけの話、簡単すぎる内容。

 それに、会うまで、という言い方――会いに来るのかも僕が探しにいかないといけないのかも提言していない。


 そんなことで強くなれるのか?



 否――それならばなぜラーティアは僕の羽を切る必要があった? それにあの強さ、妖精という種族である以上例外は存在しないはず。


 …………僕がいくら成長してもあいつらには追いつけない。だけど、何かがわかれば数日で強くなることができるってことか……。



「……これ、美味しいから君も食べなよ。僕を助けてくれたお礼」


「ミュー?」



 獣は一口齧るとよっぽど美味しかったのか全部食べてしまった。こいつには命を助けてもらったわけだからこれくらいは我慢してあげなきゃな。

 それに、これからちょっと手伝ってもらわないといけない。命を賭けた修行の続きを。



「ねぇ、ちょっとお願いがあるんだけどさ。僕に残ってる羽――引きちぎってくれない?」


「ミュッ!?」

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